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当時書生気質(序)

仏教学で修士論文を書いていた学生当時、渋谷のお寺に3ヶ月ほど寄宿させてもらっていた事がある。明治、大正、昭和、何時ごろまであったのだろうか、かつては地方の寺の跡取りが学問のために上京すると、大きな寺がその子らを迎え住まわせる、いわゆる「書生さん」の仕組みがあった。その学生は随身(ずいしん)と呼ばれた。

平成に入ってなお、在るところには残っていて、私がお世話になったお寺は、この機能をまさに終えようとしているところであった。住み込みの最後の学生が私だったように思う。
寺の境内にあるアパートの一室をあてがっていただき、食事も用意していただけるとのお申し出は丁重にお断りをし、自炊に務めた。

こうして、この寺の書庫で文献を読み漁り、煮詰まった時には大学へ出向き、自室に戻っては執筆を続けるという、昼も夜も判らないような生活を少しの間続けた。
今にして思えば、何という贅沢な時間だったのだろう。


<→続>


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