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#16 ある31日間で受け取ったもの


ある日、難病だと言われた。


目の前が一瞬暗くなって、白くなった。涙は出なかったけど、汗が出た。


鼓動が、大きくなった。


ショックで、不安で、恐ろしくて、たまらなかった。


たまらなかったぼくは、助けを外に求めた。



大学時代の友人からは、こんなメッセージが来た。

「病気に負けんな!」

きみとは同じ授業をとることが多かった。

大学4年間部活に打ち込み、きみは教員になった。

先生らしい、真っすぐで力強い言葉。

ありがとう。

ぼくは、病気には屈しないよ。

その言葉は、きみの鍛え上げられた右腕が放つ飛矢の如く

力強く、ただただ真っすぐぼくを後押ししてくれる。

先生の仕事は大変だよね。部活を持てばなおさら。

だからぼくもこの言葉を贈るよ。

「負けんな!」


こんなことを言ってくれた友人もいた。

「自分の事のように悔しい」

さすがにそれは言い過ぎだろう。

しばらく疎遠になったと思っていたが、きみは違ったのかもしれない。

そういえば小学校の時は

同じスイミングスクールに同じ時間に通い、家にもよく遊びに行った。

ありがとう。

行動力にあふれ、好きな仕事に打ち込む

素敵な友人を見失ってしまうところだった。

東京に来ることがあったら、ご飯でも行こうよ。

暇だって言ったのは、きみだからね。


大学のゼミ仲間の結婚祝いがあった。

水を差すのが嫌で、グループ通話に出るのを辞めようかと思った。

でも、参加して本当に良かった。

1回変な空気になったけど、別の話題で笑い飛ばしてくれた。

みんなの声に、変わらない話し言葉に、心が解けた。

ありがとう。

だけどこの歳で血圧140はさすがにやばいと思うよ。

彼女も隣で笑ってないで、なんとか言ってやりなよ。

有馬記念行きたいね。でも人込みはまだ行きたくないかな。

そのときはまた、リモートで。


ぼくが地元を離れてからも、毎年会う女友達2人組。

小学校からの付き合いで、彼女たちとは同じ4月生まれ。

2日と6日と28日。なんか、ぼくだけ離れてるな。

LINEはごく短文だけど、2人とも心配してくれていたようだ。

きみたちの方言交じりの会話は、落ち着く。

ありがとう。

毎年集まっとったけど、今年は会えんかもね。

いつまた集まれるかわからんけど、

今度はちょっと多めに出すよ。ほんとにちょっとだけ。


近くに甘えられる人がいるのは、本当に助かる。

仲のいい同期と、その後輩くん。

彼は転職して同僚ではなくなったが、その後もよく飲むしよく遊ぶ。

きみには図々しいお願いをしてしまった。

貴重な休日だというのに、お願いを聞いてくれた。

ありがとう。

貸し100な、とか言ってたけど、そんだけでいいの?

ぼくはもう少し、きみに恩を感じてるよ?

落ち着いたら、また行こう

お決まりの、烏山。


一番に来てくれたのは、やっぱり野球部の同期の2人だった。

病気のことを詳しく伝えたのも、家族以外では2人が最初だ。

面会時間はたった15分だけなのに

きみたちはその何倍もの時間をかけて、駆けつけてくれた。

いつものノリが、最高にうれしかった。

ありがとう。

やっぱり、あの3年間は、強い。

バカもやるけど、大真面目な話もする。

やっぱり最高だよ、いつ会っても。


家族の反応は、ほとんど変わらなかった。

主治医から話を聞いているとき、母は穏やかに見えた。

入院中何度か実家と電話した。

今日は脱穀を手伝っただの、犬のチョコがかわいいだの

立川の土地勘がない母が市役所までの距離を短く見積もりすぎているだの

まるで病気とは関係ない。

ぼくはぼくで

量は少ないけど病院食が意外とおいしいだの、

誰にもおこられないからどこまで髭が伸びるか実験しているだの。

家族は、変わらないでいてくれた。

敢えてそうしたのか、特に何も考えてなかったのか。

でも、こんな会話は家族と以外、ほとんどしていない。

心配をかけてしまった。

母はしきりにLINEしてくるし、

父は病気について調べ上げていることだろう。

姉夫婦も、弟も、妹も。

ありがとう。

盆と正月は、絶対帰るよ。これからはルールだ。

日の出を眺めながら、キス釣りしよう。

テニスして、温泉につかって、テーブルを囲もう。

白状するとな、

実家で飲む日本酒が、一番うまいんだよ。

お父がいいやつを発掘してくるしお姉が珍しいのを持って帰るのもあるけど

あの味は、我が家だからなんだよね。



ぼくの火は、消えかかっていた。

突然の嵐で、雨に打たれ、風に吹かれ。

みんながそこに、傘を差してくれた。

消えかかった火を、再び灯してくれた。

こうしてみんなに火が灯れば、

世界はもっと明るくなるはずだ。

限られた、小さな世界でいい。

少しずつかもしれないけど、返そう、みんなに。

消えかかっていたら、灯そう、未だ見ぬきみに。

そうやって、繋いでいこう。

そうやって、世界を広げていこう。

この火はもう、ぼくだけのものじゃないから。


でもこの傘、いつからあったんだろう?

見覚えがある気がする。そうか、

前からあったんだ。

ずっと、当たり前みたいに、ここにあったんだ、、。

今更だけど、気づいたよ。気づけて良かった。

みんな、

ありがとう。



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