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スマナサーラ長老ベストブックガイド 100冊から厳選!これだけは読んでおきたい【書誌情報アップデート版】

※初出:学研ムック『ブッダの贈り物』2011年1月刊

月刊ペースで出版され続ける長老本。どれを読めばいいのか、読者としては悩ましいところだ。5つのジャンルに分けて、ガイドしてみよう。※追記:リンク先は2023年1月現在の最新版(文庫化に伴う改題,増補改訂を含む)とした。

初期仏教と出会う

ブッダ――大人になる道

筑摩書房(ちくまプリマー新書)2006

埼玉県にある私立自由の森学園高等学校で行われた特別講演と授業を中心に編集された青少年向けの新書本。「生きる意味」に迷う前に「生きるとは何か?」と調べましょう、という呼び掛けが長老らしい。人生の指針となる本、という実用的なスタンスを保ちつつ、本格的な仏教書でも口を濁してしまうような仏教の核心(出家論、成道論、一切智者論、パパンチャ論など)も平明に説明される。

テーラワーダ仏教「自ら確かめる」ブッダの教え

大法輪閣 2010, Evolving スマナサーラ長老クラシックスKindle版 2018

仏教月刊誌『大法輪』誌の連載を単行本化。「自ら確かめる」というフレーズが示すように、信仰に反対し、聖典の言葉も徹底的に調べて吟味することを推奨したブッダの言葉を引き、「反宗教の宗教」たる初期仏教の思想を明らかにしている。各論では釈尊による在家生活のマネジメント論、社会の繁栄のための条件、五戒の実践などが示され、在家仏教を実践するための「教科書」として使える。

こころを育てる

怒らないこと(役立つ初期仏教法話1)

サンガ新書 2006(だいわ文庫 2021)

長老の著書では断トツの人気を誇り2010年10月現在二〇万部を売り上げている。怒りについて、悩んでいる人は多い。世の中で怒るトラブルや争いごとの多くは怒りの連鎖によりって拡大している。仏教で「不瞋恚」を説くことを知られるが、本書のように初期仏教の心理分析を駆使して「怒り」の正体を分析し、明解な処方箋を示した一般書は皆無だった。韓国で翻訳出版され、英語版も準備中とのこと。※追記:2015年にWISDOM PUBLICATIONSより『FREEDOM FROM ANGER』として刊行された。

心の中はどうなってるの?(役立つ初期仏教法話5)

サンガ新書 2007

一言で要約すれば、「ポケットに入るアビダンマ」である。初期仏教の実践心理学として注目されるアビダンマ(アビダルマ)の核心であり、現代の心理学とも親和性の高い「心所(心の中身)」を詳しく解説している。ブッダの教えとは「解脱」に向けた心理学体系でもある。「心を育てる」とは、具体的にどういうことなのか、本書を通読することでかなり精密な見取り図を描けるのではないか。

ありのままの自分――アイデンティティの常識を超える

サンガ 2007

人は誰でも、複数の「顔(性格)」を使い分けている。貪瞋癡に動かされ、破綻を避けようとして本音と建前を切り替えて生きている。煩悩と体裁の間で同様し続ける我々が、「善を行うつもりで善を“演じる”」心の騙し機能に迫った講義録。修行する人は多くても成長する人が少ないという現実の裏側を容赦なく暴く筆致には鬼気迫る。偽善と自己欺瞞を超えて、本気で心を育てたい人の必読書。

もっと読みたい!とっておきガイド

13歳へ よい親も、よい先生も、あなた次第(サンガ)中学生への講演を元にした掌編。「大人たちを育てるのは、子供である貴方がたの仕事です」など、意表をつかれるフレーズが飛び出す。先入見のない子供たちの質問も鋭い。ブッダの幸福論(ちくまプリマー新書)こちらも中高生向けの本。「生命との関係」という視座から「生き方」の原則が語られる。さらに「生きることを乗り越える」に至る、心を育てるロードマップも示される。人生はゲームです―ブッダが教える幸せの設計図(大法輪閣)タイトルの言葉は長老が説法で一貫して説く幸福論のキーワード。俗世間に対するクールで執着しない真剣さ、とでも言うべき仏教徒のマニフェスト。仕事でいちばん大切なこと(マガジンハウス,Evolving Kindle版 2016)ビジネス書スタイルの作品。同僚が苦手、毎朝起きるのがつらい、目的意識が持てない、いまの仕事が天職と思えない、といった働く人の悩みや疑問に、仏教的に処方箋を出す。怒らないこと2(サンガ新書,だいわ文庫 2022)は、怒りを「生命の根源的な反応」ととらえ、怒りの克服こそが究極の自由(解脱)だと説く。

智慧をみがく

般若心経は間違い?

宝島社新書 2007, 宝島SUGOI文庫 2008, Evolving スマナサーラ長老クラシックスKindle版 2018

日本で最も有名なお経『般若心経』に初期仏教の立場から批判を展開。前半は般若心経の全文をサンスクリット語に遡って分析し、「仏説と言えるのは色即是空まで。空即是色は成り立たない、間違い」と喝破する。後半は釈尊が「空」をどう語ったかという視点でパーリ経典を読み込んでいく。論理がシャープな分、仏教に薄ぼんやりした癒しを求めるスピ系の人々には蛇蝎のごとく嫌われている。

日本人が知らないブッダの話――お釈迦さまの生涯の意外な真相

学研パブリッシング 2010(エソテリカ・セレクション), Evolving スマナサーラ長老クラシックスKindle版 2018

釈尊(ブッダ)の生涯を、パーリ経典を一次資料に、パーリ注釈書の伝承も交えながら解き明かした作品。後世に加上された神話的要素を除きつつ、現代の知見も絶対視せず、パーリ仏典に即した読解で釈迦牟尼仏陀の実像に迫る。仏伝エピソード一つ一つの背景に込められたメッセージを丹念に拾い上げ、ブッダの伝記を通して、「ブッダの教え」に対する理解も深められるように構成されている。

無常の見方――「聖なる真理」と「私」の幸福

サンガ 2006, サンガ新書 2009

日本人が好んで使う仏教語のひとつに「無常」がある。日本文化の根底には仏教をルーツにした「無常の見方」があるとさえ言われる。では我々が慣れ親しんだ「無常」は、ブッダが説かれた「無常」と果たして同じなのだろうか。この問題を手がかりに聖なる真理「無常」に切り込んだ長老の代表作。宮崎哲弥氏は「『無常』がいかにラジカルな世界認識か、論じ尽くした稀有の書」と絶賛。

もっと読みたい!とっておきガイド

仏教は心の科学(宝島社文庫)日本テーラワーダ仏教協会機関誌『パティパダー』連載を元に編集。これ一冊でテーラワーダ仏教の考え方、身につけ方がかなり網羅的にわかる。ブッダのユーモア活性術(サンガ新書)パーリ経典を「ユーモア」という切り口で読み解く。ブッダのユーモアの特徴を詳述しながら、仏教徒の微笑みの背景にある「無常の見方」へと読者を導く。なぜ人生は、うまくいかないのか?(宝島社)自己啓発系の本にありがちなタイトルと表紙イラストからは想像もつかないが、初期仏教経典に登場する「悪魔(マーラ)」とは何者なのか? というかなり本格的な論及。こころは原子爆弾―その巨大なパワーを有効に使う方法(国書刊行会)長老がヴィパッサナー冥想指導の際の「本気」の法話を収録。燃え立つような説法集。自立への道 ブッダはひとりだちを応援します(サンガ)自立した人間とは何か?依存をキーワードとした生命論・社会論を入り口に、依存からの独立=解脱までの道のりを明らめる。「自灯明・法灯明」の解釈も一読の価値あり。

対話の海へ

希望のしくみ――×養老孟司

宝島社 2004, 宝島社新書 2006, 宝島SUGOI文庫 2014

刊行当時『バカの壁』などのベストセラーを連発していた養老氏との対談。スマナサーラ長老にとって、書籍の世界での事実上の出世作。対談というより、二人の賢者がインタビュアーの設定したテーマについてそれぞれの立場でコメントする、といった風情。養老氏の「さかさメガネ」論と初期仏教の「アベコベ思考」(顚倒)論など、異なる道を歩んできた二人の絶妙な共鳴ぶりがじつに面白い。

仏弟子の世間話――×玄侑宗久

サンガ 2005(初出タイトル『なぜ、悩む!』), サンガ新書 2007

芥川賞作家で臨済宗僧侶でもある玄侑師との対談。『般若心経は間違い?』で展開される長老の般若心経批判がはじめて開陳された作品である。僧侶としてははるかに先輩である長老の舌鋒にたじろぎつつも、落ち着いた口調で禅仏教と日本文化の見方を提示し、重要な論点を浮き彫りにする玄侑師の聞き上手ぶりも見事だ。菩提達磨の評価、「山川草木悉皆成仏」の解釈など目から鱗の発見も多い。

出家の覚悟 日本を救う仏教からのアプローチ――×南直哉

サンガ 2009, サンガ文庫 2019

臨済禅の玄侑師に続き、曹洞宗の気鋭の禅僧との対話を単行本化。お互いの出家の経緯から仏道の修行、そして組織としての教団との関わりなど、南師が長老の胸を借りて、日本仏教の抱える構造的問題とその打開策を探り、翻って日本社会の病巣に仏教がいかに取り組むべきかという指針を示す。また、第三章「悟るということ、知るということ」に横溢する緊張感は、現代の禅問答のごとき迫力。

もっと読みたい!とっておきガイド

故・立松和平氏との『ブッダの道の歩き方は立松氏の母の介護経験から「生きる苦しみ」を語り合い、生存からの「解脱」にまで導かれる経典のような構成。同じ文学者である夢枕獏氏との『幻想を超えては、「私がミリンダ王で、長老にナーガセーナ尊者の役を」と二人の対話を『ミリンダ王の問い』になぞらえた夢枕氏の姿勢にも助けられ、一冊を通して、初期仏教の概要から生命観、修行論までを見通せる構成に。山折哲雄氏との『迷いと確信本誌掲載の山折氏エッセイ(※P50)に詳しい。聖心会シスター・鈴木秀子氏との『いまここに生きる智慧は瞑想指導も経験した鈴木氏の謙虚な「傾聴」ぶりが長老から数々の含蓄ある智慧の言葉を引き出している。脳科学者・有田秀穂氏との『仏教と脳科学 うつ病治療・セロトニンから呼吸法・坐禅、瞑想・解脱まででは、有田氏の仮説を長老が否定する箇所もあり「脳科学の知見と仏教の教えは一致する」という予定調和に収まらない、硬派な対話が味わえる。小飼弾『働かざるもの、飢えるべからず。では長老が著者とベーシックインカムについて議論(以下のWEBサンガジャパンnote記事で読める)。*すべてサンガ刊。

仏教の核心へ

原訳「スッタ・ニパータ」蛇の章

佼成出版社 2009

最古の仏典とも謂われるスッタニパータ(経集)冒頭の「蛇経」17偈すべてに詳細な解説を加えた注釈書。難解な仏教語をなるべく排して、現代日本語の日常語彙を用いて、釈尊が詩の形で遺した「覚り」の諸相を明らかにする。日本仏教の千数百年の歴史を通じて、このような本が書かれたことはなかっただろう。仏教のど真ん中を貫き、我々を果てしない「覚りの世界」の高みへと誘う驚異の書。

沙門果経――仏道を歩む人は瞬時に幸福になる(初期仏教経典解説シリーズ1)

サンガ 2009,サンガ文庫 2015

日本でも「王舎城の悲劇」で知られる阿闍世王との問答を通して、釈尊が仏教の全体像をプレゼンテーションした長編経典に、長老が詳細な解説を加えた、重厚な「仏教概論」。前半では、古代インド宗教を代表する思想家「六師外道」の教えが解明され、後半で、仏教の概要が戒・定・慧のステージ順に語られる。他宗教との比較を踏まえて、仏教の独自性、卓越性がくっきり分かる見事な構成だ。

ブッダの実践心理学(アビダンマ講義シリーズ)

サンガ 2005~2013(全8巻 7冊 藤本晃氏との共著)

テーラワーダ仏教のアビダンマ(論)の綱要書として知られる『アビダンマッタサンガハ』を批判的に読み解き、難解な煩瑣哲学と呼ばれてきたアビダンマ(阿毘達磨)を「ブッダの実践心理学」として復活させた作品。テーラワーダという宗派の枠からも時に踏み出して、釈尊の教え(経典)を最重視する立場から、伝統的なアビダンマから現代人にも有益な心理学体系を汲み出そうと試みている。

もっと読みたい!とっておきガイド

原訳「法句経(ダンマパダ)」一日一悟(佼成出版社)東洋の聖書とされるも実際ほとんど読まれてなかった法句経。長老の自在な解説は「真理の言葉」の真の輝きを顕にする。慈経 ブッダの「慈しみ」は愛を越える (日本テーラワーダ仏教協会,角川文庫 2012)釈尊が一切衆生への無量の慈しみを説いた『慈経(Metta sutta)』を逐語解説。上座仏教国では『般若心経』並に知られているので、ぜひ憶えたい。CD付(※CD付単行本は品切)。悩みと縁のない生き方 「日々是好日」経(サンガ)自己啓発の本などで生ぬるく語られる「いまを生きる」とは本当は如何なる境地か、このパーリ経典の四偈の解説に尽きるはず。ブッダの智慧で答えます 生き方編(創元社)全国から寄せられた77に及ぶ質問への答えと6つのコラムで構成された一冊丸ごとQ&Aという異色作。死後はどうなるの?(国書刊行会,角川文庫 2012)輪廻転生をテーマにした作品。仏教サイドからの「靖国問題」への見解も掲載。自殺と「いじめ」の仏教カウンセリング(宝島社新書)自殺といじめという、現代の二大病理に切り込んだ力作だが、驚くほど売れなかった。(佐藤哲朗

~生きとし生けるものが幸せでありますように~


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