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大アジア思想活劇ーー仏教が結んだ、もうひとつの近代史

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教談師・野口復堂、神智学協会・オルコット大佐、スリランカ人仏教徒ダルマパーラ、そして田中智学などなど、十九世紀から二十世紀の正史、秘史を彩る人物たちがアジアを股にかけ疾駆する近代…
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2023年8月の記事一覧

33 ダルマパーラと田中智学の会見(中)日蓮宗の海外布教を促す|第Ⅲ部 ランカーの獅子 ダルマパーラと日本|大アジア思想活劇

33 ダルマパーラと田中智学の会見(中)日蓮宗の海外布教を促す|第Ⅲ部 ランカーの獅子 ダルマパーラと日本|大アジア思想活劇


対鶴館における談話──ダルマパーラの「悪評」

明治三十五(一九〇二)年六月二十三日、鎌倉対鶴館における二人の「獅子」の座談は昼食を挟んで続いていた。和やかな席で、ふと智学はダルマパーラの随員工藤恵達のほうを向き、ダルマパーラに関する「悪い風評」について問いただした。

智学「予は世間に、ダルマパーラ氏に対し悪感を懷きて之を謗るものあるを耳にす。予はこれに就いてその事情を尽し、もし事何かの行き違

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34 ダルマパーラと田中智学の会見(下)日露戦争と「人種闘争の世紀」の幕開け|第Ⅲ部 ランカーの獅子 ダルマパーラと日本|大アジア思想活劇

34 ダルマパーラと田中智学の会見(下)日露戦争と「人種闘争の世紀」の幕開け|第Ⅲ部 ランカーの獅子 ダルマパーラと日本|大アジア思想活劇


瀧口での談話──仏教信仰と実践をめぐる智学との「論争」

達磨「十波羅蜜の実行、即ち妙法の修行にして、これを以て直ちに妙法の真理を證得することを得べしと考う、如何。」

智学「決して然らず。それは妙法の根本義を把住したる上にて、三学六度十波羅蜜も任運に本法化せられて真理と融即すべしと雖も、若し妙法の根本義に住立せざるに、十波羅蜜を行ずるも、是れ猶砂上に殿宇を築くが如し。故に先ず根本たる妙法を信奉

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35 血の轍 シンハラ仏教ナショナリズムの誕生|第Ⅲ部 ランカーの獅子 ダルマパーラと日本|大アジア思想活劇

35 血の轍 シンハラ仏教ナショナリズムの誕生|第Ⅲ部 ランカーの獅子 ダルマパーラと日本|大アジア思想活劇


シンハラ仏教ナショナリズムの誕生

アナガーリカ・ダルマパーラは仏教復興運動をアジア近代化の精神的指針として提示した。また、彼のミッションはアジアから西欧にまたがる国際的な広がりを持ち、多くの白人インテリ層を新たに仏教に帰依させた。

しかし仏教を掲げたアジア主義者、あるいはコスモポリタンという献辞は、ダルマパーラの多様な顔の一面しか言い当てていない。彼はスリランカ内外において、のちの民族紛争の

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