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酒田に呼ばれてる気がする。

昨日、今日と二日連続で山形県酒田市を舞台とするドキュメンタリー映画みてきた。

一作目は「世界一と呼ばれた映画館」。実は何故観に行こうと思ってたのか全く思い出せないんだけど、Googleカレンダーに予定として入ってたので、過去の自分に言われるまま初日に行ってみた。

有楽町スバル座も結構久しぶりだった。もはやスバル座じたいがレトロ映画館といってもいい雰囲気かも知れない。自動発券機もないし、赤いビロードの椅子も最近の映画館では少なくなったかも。

作品は山形県酒田市にかつて存在した映画館、グリーンハウスを巡る証言集なのだが、この映画館は1970年代に起きた「酒田の大火」の出火元となったことで、市民にとってはアンビバレンツな感情を引き起こす、特殊な存在でもある。

地方都市の映画館ながら東京との同時公開も実現したハイカラな洋画ロードショー館として、淀川長治など多くの文化人に賞賛されたグリーンハウスは、豪華な内装にゆったりとした席、トークショーやコンサートなどのイベント開催、館内ミニシアターや喫煙ルームの設置など、先進性を兼ね備えた地域の文化施設として酒田の中心市街のシンボル的存在だった。

何事もなければ今もなんらかの形で残っているか、閉館したとしても語り草になる映画館だったろうに、実に22.5ヘクタールを一夜で焼き尽くした大火の苦い記憶とも結びついてしまった結果、カメラの前で思い出話を語ってくれる人を探すのにも監督は苦労されたのではないかな…と思う。

ドキュメンタリー映画としては、そうした市民の『語りづらい』愛憎の部分にも、あと一歩深く踏み込んで欲しかったし、もう少し取材先に多様性があればなぁ…とは思ってしまうけど、それでも証言者たちが生きているうちにこうした記録が残せたことには意義がある。

できればこの作品の上映という成果をもって更に取材を続け、大火以前の酒田の記憶を多角的に留めるドキュメンタリーとして完成させて欲しいな…と思う。

上の舞台挨拶写真ではじっこにいる白髪の先生は、このグリーンハウス支配人で、酒田の老舗レストラン「ル・ポットフー」「欅」の創業支配人でもあった地元の名士、佐藤久一の伝記を書いた岡田芳郎氏。

せっかくなので、本も買って読み始めてみた。「世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田市につくった男はなぜ忘れ去られたのか」←タイトルがラノベのように長いですが…

映画に出てくる証言者たちも登場するので、読むと二度美味しい感じ。帯にもある通り、ナレーションは昨年急死した大杉漣さん。生前には酒田の別の映画館を会場に手弁当のライブを催したこともあるなど、街とは少なからぬ縁があったそうだ。あらためてご冥福を祈ります。

で、この作品の監督である佐藤広一さんが撮影を担当し、アフタートークの特別ゲストで宣伝に来てた渡辺智史さんが監督をつとめたのが、今日、東中野のポレポレでみてきた「YUKIGUNI」だ。

昭和の日本を代表するカクテル「雪国」の考案者にして90代の現役バーテンダー井山計一氏の生涯を追う作品。

監督が初めて井上さんを訪ねたのが2012年、撮影には2年以上の歳月をかけたそうで、井山氏やその家族と監督との信頼関係がきちんと感じられる良作。ご家族との信頼関係の構築には苦労されたそうだが、そこを粘った結果がちゃんと映像に出ている。

世界からスタンダードと認められるカクテルの考案者として日本中のバーテンダーの憧れの存在である井山氏を褒め称えるだけの内容にとどまらず、水商売で忙しい両親の代わりに祖母に育てられたという二人のお子さんと父親との微妙な距離感や、夫婦の絆の在りようも丁寧に描きつつ、ケルン以外の魅力的なバーとバーテンダーの紹介にもなっているあたり、とても手堅い。

個人的には文楽の人形遣い、桐竹紋臣さんが常連ということで馴染みの文楽劇場がちらっと映ったのも嬉しかった。来週行きます、新春公演。

ちなみに私はカクテル「雪国」は砂糖を使ったスノースタイルというのが甘ったるそうな気がして、これまでバーで頼んだことがなかったのだが、本家の井上さんはグラスの内側に砂糖が落ちてカクテルの味を変えることがないよう、砂糖はグラスの縁の外側のみにつけるとか、レシピへのこだわりも知ることができたので、これはもう飲んでみなきゃ…という気になった。以前から土門拳記念館にも行ってみたかったし、やっぱり酒田に呼ばれているような気がする。

映画の中でケルン以外に紹介されていたバーも素敵な店が多くて、地方にはまだ名物バーテンダーがいるオーセンティックなバーがたくさん残ってるんだな、と羨ましくなった。

個人的に気に入ってるバーはいくつかあるけど、いかにもオーセンティック、って感じのカウンターバーで気軽に行ける店は一軒ぐらいだなぁ。

この前の東北旅行のときに行った一ノ関のジャズ喫茶ベイシーも「こんな店、近所にあれば通うのに…!」って感じだったし、地方都市ならではの夜の社交場ってなんかいいな、と思う。ひとり旅の夜は居酒屋さんとかに行きがちだけど、食事の後はその町のバーを訪ねてみるのもいいかな、と思った。

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