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お下がり

次女は、冬至の日に、二十歳になった。そしてほどなくクリスマス。何日もせずにお正月が来て、1月11日には成人式である。

小学5年生のクリスマス後の最初の土曜日に、サンタさんが誰かということを教える我が家の恒例行事においては、私の失態で、1年早く夢を壊された次女は、毎年の如く、クリスマスプレゼントと誕生日のプレゼント、下手をするとお年玉までいっしょくたにされて、誤魔化されていることが多かったのは、事実である。

思い返せば、次女は小学校1年生からスポーツをやっていたこともあり、ジュニア時代から、中学、高校と、スポーツの練習、遠征、大会に明け暮れていて、私生活は、ほとんどなかった。

それをいいことに、私も家内も、チームには帯同していつも一緒にいたものの、スポーツ以外にお金を次女のために用立てることは、それほどなかった。

次女も、事情を理解していて、私たちに対して金銭を要求してくることは、なかったのである。

ところが、大学に入ってから、周囲の様子も変わり、本人の認識が変わってきた。そして今年は、自分でアルバイトもし始め、それなりにオシャレにも時間とエネルギーとお金を注ぎ込むようになり、ボーイフレンドもつくり、さて、クリスマス、誕生日、お正月、お年玉、成人式のイベントごとが、冬のシーズンオフに集中してくると、次女の思考回路は、一般のお嬢様方とおなじようなサイクルとなり、とうとう、スポ根状態から羽ばたいていくこととなった。

先日、サンタは免疫を持っていて活動できるというネット記事を切り抜いてLINEに入れてきたのも、ここ一週間、誕生日週間と称して先輩方や友人宅に入り浸って帰宅して来ないのも、次女の、今年の晴れての冬のオフシーズンに対する意気込みと、今まで同様の処遇に対するささやかなストライキなのである。

成人式の振袖は、長女のときに、お下がりを使用するようにと、よくよく言い聞かせており、それは素直に受け入れていることを考えると、この冬至から成人式まで、私たち親の出費が何もなしということは、考えられないのである。

12月26日の土曜日、次女は、久しぶりに我が家に帰ってきた。近くの中学校で、出身ジュニアチームの練習に顔を出し、その後の、大人のクラブチームの練習にも誘われて参加しに帰ってきたのである。ちなみに、ジュニアチームとクラブチームは、密接な繋がりがある。

迎えに来て欲しいというので、私と家内は、小志朗(我が家の車には、小志朗=こじろう、という名前がついている)で、現地に向かった。

体育館に着くと、外に、若い男性が、寒空に凍えながら立っていた。次女のボーイフレンドだ。最寄の駅からは、歩いて20分以上かかる。その距離を、わざわざ歩いてきたのだ。

思わず窓を開けて声をかけ、車の中に導き入れる。

どうした?一緒に練習に入らないのか?

すると、ボーイフレンドは、こたえた。

外で待てと言われているので.....。

心の中のリトルkojuroが呟いた。

なんと。ひどいことを。可哀想に.....。

良いから、行こう。

ボーイフレンドと私と家内は、車を停めて、体育館の扉に走り寄り、窓にへばりついて、中を覗いた。すると、クラブチームの知り合いたちが気付いて手を振り、扉を開けに、こちらに向かって来てくれた。

が、すぐ後ろから孟ダッシュの次女が制止し、私たちを強烈な目つきで睨みつけ、態度で、

車に戻って!

と、命令してきた。

私たちは、スゴスゴと車に戻るしかなかった。

しばらくして次女は車に戻ってきたが、ボーイフレンドに語りかけた。

怒ってるの?

怒ってはいないけれど。でも、体育館に入るなと言われたのは、ショックだった。

心の中のリトルkojuroが小さな声で言った。

だろうなあ。普通、怒るよな。メンバーに、紹介くらいしてくれても、なあ。

と、言いつつ、2人はすぐに穏やかに会話を始めた。

次女のボーイフレンドは、12月25日が誕生日なのだ。だから、私は、次女とボーイフレンドを、晩ご飯を食べに行こうと誘った。

そして、車内の会話は、お年玉、成人式の話へと移ってきた。

もう、遅い時間だったので、結局は、晩ご飯は、ファミレスになった。

翌日、次女は、起床してくるなり、

今晩は、ケンタッキーで、もう一度、パーティーしよーっ!

と、幼児声色で顔を両手で包んで、話しかけてきた。

私は、

お、おう。いいよ.....。

そう答えるしかなかった。

次女は、

振袖も、お下がりなんだしぃ、ねっ、ねっ。

と、親指と人差し指で輪っかを作ってOKマークを作って、ウインクしている。

.......。

すると、心の中のリトルkojuroが、静かに私の肩をトントンと叩いて、ひそひそ声を出した。

コジ、こりゃ、出すもの出さなきゃ、収まりがつかないぞ。

と、この世でいちばん的確なアドバイスをくれた。

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