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小説・短編

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#短篇

『大きな魚とスニーカー』①

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 僕は座席に腰を下ろしたと同時にスニーカーを脱ぎ捨てた。

山口から大阪に向かう夜行バスの中、僕は後方に座る女性を気にしていた。

座席をリクライニングしたかったが、つい、姿も見えない女性に遠慮してしまい、なんとも、中途半端な気持ちで前方を眺めていた。

締め切られたカーテンの隙間から、等間隔で点滅するように車内へ光が差し込んで来る。

高速道路の脇にそびえる建物の近代的な光。

その一方で

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『校舎裏の桜の木』

『校舎裏の桜の木』

ーー早く卒業したい。

四月はまだ少し寒さを残している。

高校へ向かう通学路には、自分だけの世界が続いていた。

早朝。雀の声。

遠くを走る車の排気音。

そして、私の足音。

新しく買ったローファーはまだ足に馴染まない。

首に巻いている制服のリボンは、可愛らしい首輪のように思える。

これから三年間こんな気分でここを歩くことになるのだろうか。

そんなことを考えながら、お気に入りのイヤホン

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