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2023年全記事

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『もののけ姫』〜「サウダージ」
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#日本文学

光瀬龍『百億の昼と千億の夜』読解:フェミニズムSFの観点から

光瀬龍『百億の昼と千億の夜』読解:フェミニズムSFの観点から

Ⓒ1977 秋田書房

① 光瀬龍の周縁性とフェミニズムSF論光瀬龍は日本SF界の巨匠であり、日本SFに詳しい読者なら知らない人はいない人気作家である。特に、1967年出版の代表作『百億の昼と千億の夜』はSFマガジン2006年オールタイムベストランキングにて国内長編部門1位、同2014年のランキングでは3位に輝いている。
 しかし、残念ながら世界的な知名度を獲得しているとは言い難い。日本人作家であ

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深沢七郎「楢山節考」再考:辰平夫婦の悲劇として

深沢七郎「楢山節考」再考:辰平夫婦の悲劇として

Ⓒ1958 松竹

①「楢山節考」は本当におりんの物語なのか深沢七郎「楢山節考」は、前近代の日本では珍しくなかった姥捨ての概念を近代以降の小説のフォーマットに蘇らせ、ヨーロッパ由来の近代的なヒューマニズムを根底からひっくり返した名作として広く知られている。「中央公論」第一回新人賞の選考員(武田泰淳・正宗白鳥・三島由紀夫など名だたる作家たち)がそろって絶賛したというエピソードは有名である。

 本作

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萩尾望都『銀の三角』読解:ラグトーリンの嘘を暴け

萩尾望都『銀の三角』読解:ラグトーリンの嘘を暴け

Ⓒ1982 早川書房

① 序論:『銀の三角』再評価のために萩尾望都『銀の三角』は80年代に書かれた作者の代表作の一つであり、第14回星雲賞を受賞したSF作品の金字塔でありながら、その高い評価とは裏腹に世間からも研究者からも正当に注目されてきたとは言い難い。本作は2023年10月現在絶版となっており、(ざっと探したかぎり)めぼしい研究も見当たらない。2022年7月に長山靖生による萩尾望都論『萩尾望

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