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「誰も知らない」を見て

是枝裕和さん監督、柳楽優弥さん主演の「誰も知らない」を見て思ったことをつらつらと書いていこうと思います。

個人的な体験

まず、この映画を見ていて驚いたのは、柳楽優弥さんが演じていた長男の明が、YOUさん演じる母親を見つめ、しっかりした姿を見せようと気丈に振る舞うシーンについて。
久しぶりに母親が帰ってきて喜ぶ兄弟と、嬉しくて、苦しくて、さまざまな心の葛藤がありながらも、しっかりした姿を見せようと気丈に振る舞う明。
あのシーンは、環境や状況が全く違うんだけれど、普段の自分を見ているように感じました。
自分でもなんだかわからない。嬉しい気持ちや、悲しい気持ちやさまざまな感情か混ざって、それを言葉や行動に移せなくて、なぜか強がって、なんでもないふりをしてしまう。
あの感覚は、映画を見ていて昔の自分であり、今の自分と重なって、個人的な映画体験としてかなり印象に残っている。
恐らくだけど、多少の差はあれ、あの言葉にできない感覚を経験したことがある人も多いと思う。
あのなんとも言えない強がりを、感情を映画を見て感じたし、その記憶を呼ばれたことに非常に驚いた。
この映画を見る人にとって、このような記憶よ呼び出される経験は、さまざまな役柄、シーンで起きえるのではないかと思う。それだけ役者さんたちの演技が自然であり、普段自分が感じている感覚に近い映画だと思う。
映画の追体験というよりも、今までの生活の一部を見せられているようで、今までの自分の感覚と、映画の中での明たち兄妹の境遇とのギャップに心を痛めたのはいうまでもない事実だった。


映画の力

世の中に存在するのだけれど、認知されていない、または都合が悪いため無視されている歪んだ物事を明らかにしてしまう。
それらの物事を嫌でも突きつけてやろうという作品は多くあり、それら作品のおかげで世の中が、制度が変わっていった事例も多く存在する。
これは美術でも映画でも本でも、ある作品に触れる前と後で、人の感覚は少なくとも変わってしまう。自分の価値観を肯定されるときもあれば、破壊されることもある。
個人的には、それらの変化を感じることができるかが、芸術体験の良し悪しだと思っているんだけれど、多くの人は価値観の破壊は求めていなくて、単純に面白い。泣ける。ドキドキする。爽快である。などの一言で表せるような作品が好まれているように思うし、それを分かった上で作られた作品が多いように感じる。
別にそれが良いとか悪いではなく、個人的に面白くない。ぐらいの話なのだけれど、やっぱり自分としては自分の軸を大事にするし、単なる我儘であったとしても、価値観を破壊するような作品が世の中に溢れ、多くの人がそれらの作品を好んで触れるような世界線で時間を過ごしてみたいと思うわけだ。

社会派映画というのは、映画体験を通して、社会に参画しなければならない状況(知らんふりができない状況)を作り出すものだと思う。
日本には世間はあるが、社会はない。という言葉をよく耳にする。
社会は一人一人が意見を持ち、みんなでその意見をぶつけ合いながら、より良いものを作り出していくものだと。
ただ、日本ではそれが行われず、偉い者に任せとけ。そんなことを考えるのは一部の人間だろう。と他人任せにし、かと思えば現状不満には敏感で、口を挟む。それは社会ではないということみたい。
さらに言えば、専門ではない人の都合の悪い意見を潰そうとする動きすら見られる。
そのような参画しないで、横槍を入れるような態度を許さない。という作品があることで、少しづつであれ、社会が出来上がり、一人一人がそれぞれに良いと思う社会を作ろうと考え、話し合い、コンセンサスを得て社会を動かす。
そのような未来を見たいなと思う。
しそこに対してじゃあ自分は何ができているんだ。と問われれば、まだ何もできていない現状を変えていかなければと思う。

ちなみに是枝監督は、どういうきっかけでこのような映画たちを作ろうと思ったんだろうか。
考えられるのは上記に書いた、価値観の破壊。都合の悪い事実の証明。衝撃的な出来事を風化させないための記憶の上書き。恐らくそれ以外の何かなんだろうけれど、これから映画を見るときは、なぜこの映画を撮ろうと思ったのかを考えるようにしようと思う。

上記に書いたことの全ては個人的な感覚なので、根拠はなく、多くのバイアスが含まれていると考えてほしい。
あくまで私が望む世界であり、示したい意見に過ぎない。


最後に、柳楽優弥さん初主演・映画初出演作品にて、この演技力は素晴らしすぎる。史上最年少でカンヌ国際映画祭にて男優賞を受賞して話題になったけど、誰もが納得するでしょうねって感じですよね実際。
そのほか出演されている方々の自然な演技も含めて、1度は見てほしい作品。今タイムリーで「怪物」もやっているし、是枝作品をこの機会に一気みするのもありかもしれないですね。


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