私たちは「壊れやすいもの」を持っている
「絵の横道」7回目
これは、レオナルドダビンチの名画「モナリザ」です。
<油彩/部分 ルーヴル美術館所蔵 Wikipediaより転載/拡大>
画面に無数のヒビが入っているのがお判りかと思います。
これは、クラクリュールの仕業です。
クラクリュールとは、美術用語で経年劣化、いかなる名画も逃れえない破壊の魔の手の事です。その主な原因は、言うまでもなく乾燥です。
乾燥は、絵の具だけではなく、絵の具を支えているキャンバスや木材の劣化/変形も招き、時にはその土台から絵画を破壊してしまいます。
しかし近年、絵画を劣化させるもう一つの重大な要因があることに注目が集まりました。それは何か…???
恐ろしい事にそれは、湿気でした。
特筆したいのは、ここでいう湿気とは非常にデリケートなもので、美術館に絵を見に行った際の私たちの呼気に含まれる程度の湿気だと言う事です。その微量の湿気が絵画を劣化させている事が近年科学的に解明されたのです。つまり、乾燥させてもいけなければ、ごく微量の湿気も大敵なのです。
絵画作品は、恐らく人類が持ちえた最高の宝です。
しかも、それは一度壊れてしまったら二度と再生産できない宝です。
近代的な美術館は非常に高度の空調システムを備え、これ以上その絵画を劣化させないように最大限の努力を払っています。
チケットを買って美術展に行く事も、そういった美術保全の一環に役立っている事は言うまでもありません。
私たちは「壊れやすいもの」を持っているのです。
あなたの絵画インテリジェンスの向上に一役買えれば幸いです。
*一方で、このクラクリュールは年代特定の物差しともなりますから、絵画の真贋鑑定にも大きな役割を果たすものです。絵画を壊すものが絵画を守る一翼を担っているから不思議です.
<もりおゆう© この美術エッセイは著作権によって守られています>
(All works are protected by copyright.)
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