【取材記事】アパレル業界の過剰な製造コストをゲームの開発技術でサステナブルに解決 日本のファッション構造をリデザインする3DCGサンプル制作サービス「sture(ストゥーラ)」
お話を伺った方
インタビュアー
立ち上げの根底にあった、アパレル業界に根付くアナログの世界とバリューチェーン変革への挑戦
小林:まずは創業の経緯について教えてください。
白井さん:大学4年生の頃にアパレルのブランドを立ち上げた経験もあり、長らくアパレル業界に携わってきました。その中でここ10年くらい前から、セレクトショップの業態が相次いで倒産したり、ECとの争いでお客さんを取られたり、ブランド展開が厳しいなと感じさせられる場面が何度もありました。ただ要因を探っていくと、アパレル業界には商品企画から販売戦略までを一貫して行うMD(マーチャンダイザー)やブランドの世界観を視覚的に演出するVMD(ビジュアルマーチャンダイザー)はいても、マーケティングができる人が極端に少ないということに行き着いたんです。
我々としてはアパレルの世界に何かしら携わっていきたいとは思っていました。しかしアパレルそのものというよりも、日本人の心をどうくすぐっていくかみたいなマーケティングをしっかり学んでいかないと服作りにもちゃんと落とし込めないなというところがあったので、マーケティングを担う企業として「for GIFT」を立ち上げた経緯があります。
小林:今回、ゲーム3DCG制作技術を用いた3DCGサンプル制作サービス「ストゥーラ」の提供を開始したとのことですが、サービス立ち上げのきっかけはどのようなものだったのでしょうか?
白井さん:アパレルの川上から川下まですべて経験した中で、アパレル業界に根付くアナログの世界やバリューチェーンを変えたいという思いが根幹にあります。特に工場やOEM業者との関わりを通して、アパレル業界のバリューチェーンに違和感を感じ、DXへの思いも強まりました。
3年くらい前からさまざまな企業のコンサルティングやサービスに対するコンセプト実証を行ってきた中で、踏み込むにはタイミングとしてよいかなというところで、クリーク・アンド・リバー社の井川社長と相談して、本業としてやっていこうというところでスタートしました。
クリーク・アンド・リバー社が有するアニメーションやゲーム開発のエンジニア、3DCGデザイナーは、3DCGをやっていくうえで一番の資産だと思っています。クリーク・アンド・リバー社と組むのであれば、「これだ!」という想いもあって、自分の中で決めたというところです。
小林:SDGsへの取り組みを意識されたのはどういった背景があったのでしょうか?
白井さん:我々としては、マーケティングを学びながら、SDGsへの取り組みが行えるということだけがストゥーラのゴールではなく、結果的にSDGsにつながっていることが大事だと思っています。つまり、在庫量の減少だったり、いらないサンプルの減少だったり、販管費の削減だったりというSDGsに向かうような取り組みが、最終的につながっていくことが、一個のゴールなんじゃないかと考えています。
この1年は3DCGを開発するアパレルの工場になろうと決意
小林:具体的にストゥーラについてお伺いしたいのですが、ビジネスモデル的には、どういったサービスなのでしょうか?
白井さん:現状、お客様の内訳は商社からブランドまで多岐に渡ります。どの部分で3DCGを活用したいかなど、細かくヒアリングした上で、3DCGを作るというところから今年はスタートしています。なので、我々はあくまで3DCGを開発している会社です。我々と同じ技術をもつ会社はあるでしょうが、制作体制には自信があります。もちろん工場もあればOEM業者もいるなかで、工場に直発注する人もいればOEMに発注する人もいます。だけど最終的には我々のサービスにたどり着くみたいな話だと思っていて、単純にこの1年は3DCGを作るアパレルの工場になろうと思っています。どの方も全員我々のクライアントであって、競合ではありません(笑)。3DCGを任せていただければ、一緒にやりましょうよというところでしょうか。
小林:ちなみに少し突っ込んだ質問なのですが、3DCG作成した服のデータの著作権はどちら側にいくのでしょうか?
白井さん:著作権は基本的にはブランドだと思っています。3DCGを押し出していくとなると、「パターンを預かる」=「ブランドの資産を預かる」ことなので、この資産に関しては他社で使わないというのは当たり前の話ですよね。ブランドを個人でやっているパタンナーが、他のブランドにそのパターン流用して使うなんてありえない話だと思います。基本的に出来上がった資産というのは、基本的にはブランドさんに帰属するものだと考えているので、使用するにしてもお互いの同意を得た上でというのがルールだと思います。
小林:そういうスタンスの方がリピートというか囲い込みにもつながっていいですよね。
白井さん:そうですね。基本的に私自身がブランドファーストの考えを持っていますし、ひいてはファクトリーファーストの考えの持ち主です。作る人がいなくなったら、ブランドはもたないですし、その人たちが生き残るような形をちゃんと最初に考えながらやると決めたうえで、事業を行っています。
時間短縮・販管費削減・ロス削減。ストゥーラがアパレル業界をリデザイン
小林:ちなみに作りたい服のジャンルによって傾向の違いは何かあるのでしょうか?
白井さん:ストゥーラを活用することで、製造コストを大幅にカットできるというメリットはありますが、正直Tシャツだけだと活用メリットはそれほど大きくはないですね。ただ、これがレザージャケットやトレンチコートといった、パーツ数が多い商品になってきたときには、断然メリットがあります。
小林:具体的にどういった点でしょうか?
白井さん:サンプルを一着作る工程において、そもそも3DCGで作れてしまいますし、商品写真も撮らなくいい、採寸情報も入っているから採寸もいらない。そのままECにも掲載できて、受注生産もできると考えていくと、トータルで販管費の削減や在庫の減少、受注生産によるロスの低さみたいなところには反映していけると思います。ただ「何パーセント削減できるの?」という点に関しては、使用している倉庫の規模や売り上げに対してどれくらいの在庫量を抱えているかによって、パーセンテージは全然違うんです。そもそもB to Cブランドで受注生産のみでやっているところもありますので、それぞれの企業とは数値目標を一緒に決めるところからスタートしているのが現状です。
小林:つまり3DCGなので、川上の企画のサンプル制作のところも、小売りのECサイトに載せるところも、同じ3DCGデータをずっと使えるということですよね。
白井さん:そうですね。例えばトレンチコートの場合、平置きの画像を作れるので、ECに掲載するときの2枚目以降の物撮り画像として使えたり、縫製現場に出していくときの完成イメージとしても使えたり、全てにおいてトータルで使えるイメージです。コーディネートも作れてしまうので、着用のイメージもつかめます。さらに3DCGソフトで作っているので、360度回転できますし、ランウェイみたいなところを歩かせることもできるんです。生地感が伝わる表現も入っているので、多様な使い方ができてしまうとなると、「撮影現場も取らなくていいよね」「モデルもいらないよね」「天候に左右されないよね」と、さまざまなメリットを実感できるかと思います。
人材の育成輩出も視野に。3DCGが当たり前に暮らしに根付く未来を描く
小林:ちなみに今後の展開は、どのようにお考えですか?
白井さん:まず我々の目標としては、3DCGというものを通して、どんな価値、どんなメリットを会社に生み出せるのか、それをもってどこまで押し上げて行けるのか……みたいなところを企業さんと一緒に今期取り組みたいと思っています。その上で、ゲームやアニメを中心に制作する人たちを総括し、さらに大手の学校で3DCGを学べども、出口がないという人達もいるので、アカデミーなどを用意して、世の中に輩出派遣していけるような人材体制を取っていくことも考えています。まずは、人としてちゃんと尊重しながら、各アパレル会社のDXを巻き取っていく姿をこの1、2年でやりたいと思っています。
小林:人材の輩出にも力を入れたいということですね。
白井さん:そうですね。あとはこの3DCGに関しては、バリューチェーンを改革して、販管費を削減するだけでは足りないなと思っています。というのも、攻めのプロモーションや売上を上げていくということがやはり必要になってきます。その点、我々は何をやっていくべきなのかとなると、3Dでの展示会であったりとか、3DでのECサイトだったり……。あとは、すでに他社でいくつかあるECモールとPR連携して、さっと着せこめる試着室を作ったり、3Dだけで表現できる寸法データを全部のアバターに活用させたり、そういった販売促進につながるところに、ストゥーラの事業をどこまで活かせるのかというところは検討していくべきだと考えています。
小林:なるほど。3DCGのスタンダードができたら、最初の企画デザインから試作、販売、さらにはメタバースでもそのまま出していけますよね。さらに3DのECサイトでもそのまま使えて、町中のオーロラビジョンにも流せて、CGのモデルが動いてみたいな——全部同じデータでできたら手間が省けますね。
白井さん:そうですね。ブランドも手間を削減できるので、もっと売ることに集中してくれたらいいなと思っています。
小林:あとは、アプリにして、自分の顔を撮影して、服と合わせられるというところまでもっていけるといいですよね。
白井さん:そこまで出来たときに、メタバース上で動くバーチャルインフルエンサー的な姿になって、着ている服が人気を集めてNFTになっていくんだと思うんですよ。アパレルとしてはどこまでやるべきかとなると、まずそこに投資できるだけの費用をちゃんと捻出することを考えて、今のバリューチェーンの川上サイドに対してどれだけコスト圧縮をできるか、それを攻めのプロモーションに転じて、どれだけ資産を増やせるかみたいなところが大事なポイントになるんじゃないかなと思っています。
小林:そういった意味でも川上サイドに対して効率的な製造プロセスを提供するストゥーラは、今後ますます求められるサービスですよね。
白井さん:ありがとうございます。我々が川上の繊維商社さんに対して「生地を3D化しませんか?」と提案するのは、やはりブランドさんは生地を絶対使わなきゃいけないですし、商社と付き合わないといけないという背景があるからです。やはり川上から変えていかないとなかなか広がっていきづらいんです。さらにコンシューマーサイドにとっては、3Dといってもフォトショップを入れ替えただけのような3DCGのニュアンスで考えられていて、ここまで精巧なものができていることすら知らない人たちが多いんです。
なので、何かしら大きな企業と協働しながら、コンシューマーサイドに対する障壁を取っ払っていくようなポップアップだったり、イベントを開催して、企業への導入とともにコンシューマーサイドの3Dへの懸念をなくすというところを今年いっぱいでやっていきたいと考えています。
小林:数年後にはそれが当たり前の世界になると我々にとってもアパレル業界にとっても非常にメリットがありますよね。今後のご活躍をますます期待しております。白井さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。
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