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【取材記事】陶器の世界が抱えるごみ問題に挑む 備前焼にあらたな息吹をもたらす「リサイクル陶器」という選択肢

伝統工芸品「備前焼」のふるさとである岡山県備前市で、陶器ごみ問題の解決に取り組む「株式会社the continue.(ザ・コンティニュー) 」。陶器の世界が抱えるごみ問題を知り、何かできないかと立ち上げたのが、リサイクル陶器の製造販売を行う同社でした。陶器はリサイクルできる素材であることを広めたい——。そんな想いからリサイクル陶器のブランド「RI-CO(リッコ)」を立ち上げ、備前焼のあらたな再生の形を創造しています。今回は同社代表の牧さんに、取り組みに込めた想いや製品の魅力について伺いました。

【お話を伺った方】

株式会社the continue.代表 牧沙緒里(まき・さおり)さん
岡山県備前市に主力工場を置く耐火煉瓦メーカー(㈱三石ハイセラム)取締役。煉瓦資源の枯渇やリサイクルの経験から、産地の陶器がリサイクルされないことに疑問を感じ、備前焼のリサイクルに取り組む。文化的な背景をもつ備前焼だからこそ発信できる力があると考え、陶器の世界から循環型社会の在り方を発信。


■伝統工芸品「備前焼」が抱える切実な課題

産業廃棄物として捨てるとお金がかかるため、敷地内の裏山に放置されることもあるという

mySDG編集部:陶器ごみに着目し、リサイクル陶器ブランドを立ち上げたきっかけを教えてください。

牧さん:岡山県備前市は、伝統工芸品の備前焼以外に耐火れんがの産地としても有名なんです。耐火れんがは、製鉄プロセスで使用され、溶けた鉄を受け取る耐火物としての役割を果たします。ただ資源枯渇の恐れがあり、業界全体として早い段階から生産過程で発生する廃棄れんがはリサイクルされてきました。一方、備前焼は全体の1割もの作品が廃棄されていて、なおかつ原料である土が不足している問題も深刻です。

さらに陶器ごみは廃棄物として海や山の処分場に埋め立てられていますが、日本の埋立地の残余年数が全国平均で約21年といわれる中で、備前市は約10年と推定されているそうです。

mySDG編集部:かなり差し迫った問題でもありますよね。勝手な思い込みですが、陶器は土からできているので「ごみ」になることなく土に還るイメージでした。

牧さん:そもそも陶器が土に還らないとは知られていないですよね。陶器は高温で焼くので石に近い素材になってしまいます。石は粉砕されても完全には分解されないので、土に戻らないんです。

mySDG編集部:なるほど。そういった陶器ごみの課題から陶器リサイクルに着目されたのですね。

牧さん:もちろん環境問題の観点もありますが、一方で備前焼の未来を考えたとき、必要な決断だと感じました。というのも、伝統工芸品である備前焼は数々の人間国宝を輩出する高級品である一方、時代の移り変わりとともに、鑑賞用の工芸品や、お茶やお花をたしなむ人も少なくなり、暮らしの器が作られ始めるなど、存続するためのあり方を模索する時代になってきています。希少な土を使った伝統工芸品の裏側で、陶器ごみが生まれては埋められる、貴重な資源に目を向けられていない。そんな不都合な事実に蓋をしていくこともまた、日本のものづくりの在り方として限界なのではと疑問に感じました。

備前焼に限らず、ものづくり、流通、消費の流れで、一方通行の資源利用を続けることは、将来経営がうまくいかなくなる根幹になるだろうとも考えています。つまり、きれいなところだけ見せて、不都合なことを隠していくようなやり方は、経済や生き方の面からもう成り立たないだろうと。そういう思いが根底にあって、陶器ごみをリサイクルするための会社を立ち上げました。

■「リサイクルしてみましょう」と提案するも進まない…

砕いた再生素材は型を使って成形し、マグカップを製造

mySDG編集部:陶器ごみの現実を知ってからは、ご自身で陶器のリサイクルを試みたそうですね?

牧さん:そうなんです。地域の方に「リサイクルしてみましょう」と声をかけたのですが、「化学的な成分が変わってしまうから難しい」「コストに見合わない」と色々な理由から進まず、仕方ないので廃棄された備前焼を持ち帰りリサイクルしてみたんです。粉砕後に化学分析して、リサイクルを試みたら意外にできてしまって……(笑)。

そもそも備前焼は釉薬を使用していないので、その点も大きかったですね。釉薬には金属成分が含まれていて、リサイクルする際に不純物となってしまいますので、リサイクルするためには、次に使用する釉薬との相性を考える必要があります。釉薬を含まない備前焼はリサイクルに適していて、高いポテンシャルを感じました。

mySDG編集部:とはいえ、長い歴史を持つ備前焼をリサイクルするという動きは業界全体に一石を投じるものだったと思います。さまざまな反響があったと思われますが、その点はいかがですか?

牧さん:確かに備前焼は長い歴史の中で先人たちから受け継がれてきた貴重な焼き物です。備前焼の定義や産地について、ときに激しい議論が交わされることもあります。ただ、リサイクルに関しては、備前焼陶友会の理事数名の方が後押ししてくださったこともあり、大きく反対を受けることはありませんでした。むしろ岡山県備前市から新しい発信をすることで、備前焼のPRにもなると意外にも協力的でした。当初は伝統工芸品の気位の高いイメージから大反対にあうだろうと予想していたのですが、工芸界でも新たな取組を模索しているという意外な共通点があり、世界は違えど、新時代への突破口の一つとして許容していただけたのかな思います。

リサイクル陶器は伝統工芸品ではありませんが、私たち自身、煉瓦というやきもの界の人間なので、備前焼の伝統的な製法は誇りに思っています。伝統はそのままに、リサイクルは新しい枠組みで始まり、長い時間をかけて接点や融合点を見つけるべきと考えていて、私たちの中では、隣り合う窯業界仲間への尊敬意識みたいなものがあります。

mySDG編集部:ちなみに陶器ごみの回収についてはどのような仕組みをつくられたのでしょうか?

牧さん:当初は産業廃棄物の陶器ごみから着手しようと思ったのですが、なんせ備前は、小規模の作家さんの陶房が多くて……。1件ずつ回収することは難しく、組合の方と交渉して、作家さんや窯元さんから排出されるいわゆる流通にのせられなかった作品を一箇所に集めてもらい、買取契約をしました。その後、一般廃棄物の陶器ごみにも着手し、まずは備前市から取り組みを始めようということで自治体と交渉して10月から回収ボックスを設置していただきました。

■備前焼のシンプルな美しさを踏襲したリサイクル陶器ブランド「RI-CO」

ブランド名「RI-CO(リッコ)」はR(recycling)I(inspiration)C(continue) O(0waste)に由来する

mySDG編集部:リサイクル陶器ブランド「RI-CO」の特長や魅力について教えてください。

牧さん:「RI-CO」はコーヒーとの何気ない日常の一コマを通して、陶器をリサイクルすることや資源について考えられるモノを作りたいと思い、「一杯のコーヒーからやさしさを考える」をコンセプトに立ち上げたブランドです。製品の特長は、やはり釉薬を使っていないので、自然の素材からできていることを使いながら実感できることですね。リサイクルする際に釉薬をかけることもできたのですが、あえてかけなかったのは備前の土だけで練り戻しているということで、産地の土にこだわりたかったからです。原料は備前で採れた土と備前焼の陶器ごみであることにこだわり、その結果、ナチュラル感や素材感を楽しめるのが最大の魅力です。

備前焼の材料は非常に少なく、陶器の粉、土、水、あとは焼くときに使用する藁や灰程度です。そのあたりのシンプルなつくりは踏襲させていただいていて、備前焼をよりカジュアルな形で素材感を楽しめるつくりになっています。さらに装飾が少なく、素材感を最大に発揮できる焼き色も「RI-CO」のオリジナリティを表すもの。使う人にとって自分は自然の一員なのだと感じられるようなものを作りたいと思い、デザインしています。

備前焼作家とのコラボモデルマグカップ「不老窯×RI-CO lantern orange(ランタンオレンジ)」
備前焼の技法である青備前を生かしたカラー「iron blue(藍鉄)」

mySDG編集部:今後ますます商品のラインアップも増えていきそうですね。

牧さん:そうですね。RI-COはマグカップを中心にコーヒーシリーズを展開しているのですが、実際に販売を始めてみて意外だったのは、ほとんどがプレゼントとして購入されていることでした。結婚式の引き出物やお祝い事の記念品としてまとまった数を注文いただくことが多く、この展開はまったく想像していませんでした。そのため、今後は大切な人に贈り物をしたいという人に向けた「ギフト」をテーマにした商品を展開する予定です。今はその第一弾としてアルコール向けのグラス企画を行っているところです。

mySDG編集部:「一杯のコーヒーからやさしさを考える」のコンセプトから始まって、お酒という切り口は意外な展開です。

牧さん:コーヒーというのは、「コーヒーを飲むような時間」を表しています。よそ行きでなく、ふと本当の自分にかえるような時間に、自分と地球環境へのやさしさを考えてほしいという思いが込められています。リサイクルというのはあくまで背景で、そのことが購買理由にはならないんです。「環境のためにリサイクルすべき」という考え方を押し付けるべきではないと考えていますし、あくまで優先事項はお客様に喜んでいただけること、その次に環境に配慮した再生素材を使用しているという順番でないと、持続可能なリサイクルになっていかないとつくづく感じています。リサイクルの取り組みを当たり前のものとして広げていくためにも、今後はお客様のニーズを汲み、喜ばれるものにフォーカースした商品企画を行っていこうと。ようやくそのフェーズに入ったところです(笑)。

■備前焼の産地としてゼロ・ウェイストの実現を目指す

夏休みには親子で参加できる資源循環を学べる体験ワークショップを開催

mySDG編集部:今後の目標や展開について教えてください。

牧さん:直近のゴールでいえば、まず一つ目が備前焼の産地としてゼロ・ウェイストといえる状態までもっていくことですね。そのために今、自治体とも連携して取り組んでいるところです。そして二つ目は、限りある資源を効率的に利用した循環型社会を作ることです。理想的な社会を考えたとき、不要になった製品や生産過程で出るごみを回収して新たな製品を作る循環型の仕組みが必要になります。

私たちは再資源化できるものしか作っていないのですが、例えばお客様が使い終えた製品を返したいということであれば、現地に送っていただければ受け取って資源化することも可能です。とはいえ、いわゆる流通経路である「製造」「卸売業者」「小売業者」「消費者」という流れを見ると、小売業者のフェーズでリサイクル品を回収するルートが社会全体では確立されていません。もちろん取り組んでいる企業もありますが、まだ一般的ではない状況です。あらゆるものにおいて販売した側も回収する流通経路ができていくことが、まずは私たちのゴールです。

mySDG編集部:確かに食品の宅配サービスを行う企業の中には、牛乳びんなどを回収して、資源循環の取り組みを行なっています。

牧さん:まさに宅配サービスがなせる理想的な動きですよね。一方で店頭での回収となると、次回おとずれるかわからないこともあり、回収の難しさはあります。それでも循環型社会に向けて、私たちも「協力します」という形で積極的に取り組みに参加していきたいと考えています。

mySDG編集部:陶器の世界から持続可能な社会に向けたものづくりを提示していくことは、これまでにないあらたな試みだと思います。今後の活動をますます期待しています。牧さん、本日はありがとうございました!

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