【取材記事】“障がい者のため“にとらわれず、得意を生かす雇用を創出。自信となり自立につながる本質的な障がい者支援とは?
SDGsの指標のひとつに「働きがいも経済成長も(目標8)」が掲げられているように、働きがいのある人間らしい仕事(ディーセント・ワーク)が近年とても重要になってきています。そんな中、主にビジネスコンサルティング事業を展開する「Pleasure Support株式会社」(以下、プレジャーサポート)は、「障害者に光を当てたい」というコンセプトのもと、社会参画を目的とした手作りスイーツブランド「MUga/MUchu」を立ち上げました。プロのパティシエが監修した焼き菓子「ブルードネージュ」の製造を障がい者が担うことで、工賃アップとやりがいアップを目指す取り組みです。
今回は、プレジャーサポート代表・町孝幸さんに、障がい者支援の課題や「MUga/MUchu」を立ち上げた経緯について伺いました。
お話を伺った方
■経営資源として人材が全て。“みんなの分かると分かり合える”をお手伝いする「働きがい」のコンサルティング事業を展開
mySDG編集部:まずは御社の事業内容について教えてください。
町さん: “働きがい”の観点から「働きやすい職場環境整備」と「自らやりがいを創造できる社員育成」をメインにコンサルティング事業を行っています。弊社は「働きがいを創造します」というパーパスを掲げており、マネジメントの仕組みづくりを通して、ミッションである「みんなの分かると分かり合えるのお手伝い」を提供している点が特徴です。つまり、組織を俯瞰して、想いを言語化・数値化することで、社員一人ひとりが目標に向かって取り組める組織文化の構築をサポートしています。というのも、私はもともと銀行や会計事務所で勤務しておりましたが、結局行き着くところは人だなと思い至りました。現状は、「経営資源としての人材が全て」ということをご理解いただける企業さんとお付き合いしています。
mySDG編集部:もともとSDGsという観点はお持ちだったのでしょうか?
町さん:実はSDGsというものにはあまり興味がないんです。ただの目標値というだけなので、それよりもう少し広義で考えた方がいいんじゃないかなと思える面があります。ただSDGsに関していうと、社会課題に向き合う人たちへの尊敬の念はすごく感じています。しかし、彼らがなかなか本業に向き合えていないことにもどかしさを感じていて——例えば社会福祉法人でいえば、しなくていいようなマネジメントに力を入れているところがすごく多かったんです。そういったマネジメント面をお手伝いしたいという思いがあり、事業としてはプレジャーサポートのほか、建設業界のコンサルティングに特化した「株式会社TATERU Academia(タテルアカデミア)」、障がい者の雇用創出を行う「株式会社はたらくと」を別法人で立ち上げています。あとは非営利団体へのファンドレイズや営業活動の支援なども行なっています。
また、プレジャーサポートの事業内ではソーシャルビジネス支援事業も展開しています。今回はその一環として、「MUga/Muchu」のプロジェクトを立ち上げました。「MUga/Muchu」は障がいのある方々にスイーツを手作りする仕事を生み出し、工賃アップとやりがいアップを目指すプロジェクトです。福祉施設の方やプロのパティシエさん、ブランドデザイナーさんにご協力いただいて、ようやく形になりました。こういった事業もすべて、SDGsを意識して特別なことをしているというよりも、会社のミッションやビジョンから紐解いていったら自然と今の形に至ったというところでしょうか。
■良かれと思った支援が“余計なお世話”に…。見えづらい社会課題の裏側
mySDG編集部:障がい者の経済的自立支援に関心が向いたきっかけはどのようなものだったのですか?
町さん:障がい児を持つ親御さんとたまたま出会ったことです。その方から「自分の子どもが1日だけ先に逝ってほしい」という言葉を聞いたとき、衝撃を受けたんです。私自身も子どもが生まれて2年ほど経ったときだったので、なぜそんなことを思うのかと、最初は怒りさえ覚えました。ただ、そこから学生さんたちに協力してもらい、半年間ほど一緒に福祉施設を100〜200箇所ほど回りました。すると、そこで目にしたのは、親御さんがそう口にしても仕方のないような非常に厳しい現実でした。障がい者は就労支援を受けたとしても月給1、2万円という低賃金しか得られず、さらに法制度が少しでも変われば直接的な影響をかなり受けてしまう——。ものすごく不安だろうなと、そう思わざるを得ないものがありました。
mySDG編集部:今回の障害者支援に結びついたのは、その親御さんとの出会いが大きかったのでしょうか?
町さん:正直、その方と今接点があるかというと別にあるわけでもなくて、ほんのちょっとしたひと言がきっかけになったということです。
mySDG編集部:そこから2021年にクラウドファンディングで今回のスイーツブランドを立ち上げるまでに至ったということなんですね。
町さん:そうですね。その親御さんとの出会いがきっかけとなり、障がい者の経済的自立の支援を始めました。作業所などの障害者支援施設を回り始めてみると、今まで知らなかったさまざまな事情を知るに至ります。というのは、クッキーを製造・販売することで収入を得るという取り組みに関しても、お菓子作りのプロでもない職員さんがレシピを担当していました。理由は、職員の中で一番クッキーを作れそうというだけです。職員のレシピでクッキーを作って家族に売り歩くような状況でした。そこからボランティアの学生たちに作業所から色んな商品を買い集めてきてもらい、試食して、どうすれば売れるかというのをいろいろ考えたんです。結局行き着いたのは、どんなにラッピングをきれいに仕上げて見せ方をうまくしたとしても、美味しくないものは売れないということ。なので、クッキーの販売は一旦止めたんです。
それこそ4年ぐらい止めていて、その間に障がい者の雇用機会を創出する「はたらくと」を立ち上げました。当時は障害者支援施設で作ったものは、障がい者の方たちが全て携わったものとして売らなければならないという固定観念にとらわれていました。そうすると、彼らのために営業に頑張って行くわけじゃないですか? 例えば100個しか作れていないかなと思って、頑張って営業して500個作れるように受注を取ってくるわけですよ。しかし500個受注できたことを伝えると、「いや、150でいいんです」って言われるわけです。
mySDG編集部:えっ! なぜですか?
町さん:すべて手作りだし、障がい者の方の力量に合わせるので、追加受注を受けるなら、ちょっとだけでいい……と。こっちはよかれと思って受注してきても、ビジネスモデルや収益構造上、仕方ないんですけどね。社会福祉法人でクッキーが売れたからといって職員さんの給料が上がるわけじゃないですから。障害者施設というのは障がい者の方を1日お預かりして、施設を利用してもらった報酬として国からお金がもらえるという仕組みになっています。頑張ってクッキーを受注しても、社会福祉施設の職員にとってはいい迷惑という面も少なからずあるんですよ。
mySDG編集部:施設の職員にとっては、仕事を取ってこられると面倒を見なきゃいけないという負担が増えるわけですね。
町さん:まさにその通りなんです。施設の職員は何のプロなのかといったら介護のプロであって、商売のプロではないです。何か新しい企画を持ち込んだとしても、自分たちの仕事が増えるだけじゃないですか。だからといってお給料上がるわけでもない。もちろんお給料のためだけにやっていないのはわかるんですけど。とはいえ頑張っても何も変わらないのであれば、プラスアルファで仕事をするのは難しいですよね。
■お涙頂戴では続かない…クオリティの高いスイーツで持続可能な支援を実現
mySDG編集部:なるほど。施設の方が作るスイーツは、そこまで味にこだわれないという事情があるんですね。
町さん:そうですね。もちろんコストもかけないですしね。しかし、そうこうしている間に考え方を変えてみようと思ったんです。というのは、日本の人口における障がい者の割合が10〜15%ぐらいと言われているので、作業工程の10〜15%を作業所で働く障がい者の方に関わってもらえるような形にしたらどうかなと思いました。現在、「はたらくと」では、ペットフードを工場で作っているのですが、梱包作業などを作業所にお願いする形で、工賃を上げるやり方に切り替えたんです。もちろん作業の一部をスタッフにお願いしていますが、基本的にはすべての作業のうち数%を障がい者の方に関わってもらうやり方に変えました。「はたらくと」がそれなりの形になったので、無理に売れもしないクッキーを頑張って売るよりも、新しいやり方でアプローチすることにしたんです。
mySDG編集部:そこで、プロのパティシエさんにスイーツを監修してもらうというアイデアが生まれたんですね?
町さん:はい。たまたま2年ほど前に、今回「MUga/Muchu」のスイーツを監修いただいたパティシエの加藤幸樹さんと接点を持たせていただきました。パティシエ業界に対して危機感を感じられていて、ご自身の経験を社会にもっと還元していきたいという考えをお持ちでした。加藤さんにこれまでの経緯を説明すると、障がい者の方が困っているのであれば、レシピを提供しますよとおっしゃっていただいたんです。そこから正式にコンサルティング契約を交わし、色々とご指導いただいた上で、新たなブランドを作ることになりました。
mySDG編集部:なるほど。今回、プロのパティシエのレシピだったり、ブランディングの専門家を採用されたり、スイーツブランドの立ち上げにこれほど力を入れるんだと興味深く拝見していました。つまり、売れる商品にするためということだったんですね?
町さん:そうですね。施設の方にもたまに話すんですけど、一生懸命頑張って作るのはいいけど、プロのパティシエさんが苦労して考えたレシピと、ちょっとお菓子作りができるだけの職員さんが考えたレシピとどっちが美味しいでしょうかって。結局、続かないんですよ、お涙頂戴だけでは。もちろん1回は買ってくれるかもしれませんが……。
mySDG編集部:今回、「MUga/Muchu」をリリースしてみて、消費者の反応はいかがですか?
町さん:結論から言うとまだまだです。まずはメディアから関心のある層に広まって、面白いよねって言ってくださる流れになるかなと思うのですが、購買層に届くのはまだ先なんですよね。それこそ今はSDGsのキーワードで企業さんとのお話が動き始めているところです。
■「障がい者のため」ではなく、“得意”を任せることで雇用を生み出す
mySDG編集部:障がい者の就労支援の観点でお伺いしたいのですが、法人ができる取り組みとして、まずどういったことから始めたらよいのでしょうか?
町さん:同一労働同一賃金なんかもそうですけど、大きな話で言うと、仕事はとことん細分化していったら、どこかの段階で作業になるわけですよね。そこの業務整理をした方がいいよねというのは、社内でもよく話題に上がります。みんな、自分の仕事を守るんですよ。自分の仕事を取られてしまうと、働く時間も奪われてしまうから。だけど会社から期待されているのは、例えばコピーをとり続けることではないんですよね。それは別にあなたじゃなくていいでしょ、と。徹底的に業務を細分化していったら、作業所で出来る仕事が生まれるんです。弊社でも社内で行わなくていい仕事は積極的に外注しています。社員の皆さんがそれぞれステージアップしてもらえるわけですし。その際に、どうせ外に仕事を振るなら、誰に任せるかは考えたらどうですかという話はしています。
mySDG編集部:私も法人の立場として、障がい者雇用について考えたりするのですが、知識がないと何をお願いできるんだろうと考え込んでしまうことがありました。確かに業務を細分化していって、作業をお願いするという考え方もありますね。
町さん:そもそも「障害者のために」となると、何かがずれていく気がするんです。仕事をまず徹底的に細分化した上で、「あなたじゃないとできないこと」を増やしていく必要があります。だから「障がい者のために仕事を作りましょう」というより、1日1時間の間で「あなたじゃないとできなかった仕事どれぐらいありますか?」というところと向き合った方がいいんです。
mySDG編集部:そう考えていくと、集中力を持続して単純作業に取り組むというのは、障がい者の方が比較的得意という側面がありますよね。最初におっしゃったように健常者・障がい者というわけではなく、得意なことを任せるというような感覚なんですね。
町さん:作業所を初めて訪問したときに10グラムのクッキー生地を50個丸めているのを見て衝撃を受けたんです。僕には多分できないんですよ、不器用なんで。9グラムもあれば12グラムもある、なんなら最後50個をなんとか帳尻合わせたらいいんじゃないかとさえ思ってしまいます。なので、10グラムのクッキー生地を50個丸めるという作業をちゃんとできるかどうかで見た時、どっちが健常者でどっちが障がい者かという基準みたいなものが逆転することもありますよね。
mySDG編集部:確かにそうですね。障がい者の支援となると、自分の中になんとなく偏見があって、「障がい者のために」というスタンスになりがちでした。どこかで、「してあげている」という目線があったような気がします。さきほど町さんがおっしゃったように、10グラムのクッキーが作れる・作れないという観点でみると、健常者・障がい者の区分は曖昧になりますし、そもそも障がいの有無ではなく、その人の得意を生かすことが何より大切なことなのかもしれませんね。
■視点を変えて取り組むことが、自然とSDGsにつながる社会に
mySDG編集部:最後に今後の展望や目標についてお聞かせください。スイーツブランド「MUga/Muchu」は定期便を開始したばかりですが、今後どのような展開をお考えですか?
町さん:ブールドネージュはプレーンの次に抹茶を作ってもらっています。さらに味の展開とアイテムをプラスするというところでコーヒーを焙煎している作業所さんにお声かけして、お菓子に合うコーヒーを今考えているところです。
あとは、やはり認知をしてもらいたいので、定期便をビジネス版に置き換えたもので、オフィスで気軽に買ってもらえるような仕組みを考えています。いわゆるオフィスグリコのようなものを、うちの商品でできないかと企画しているところです。
mySDG編集部:楽しみですね!
町さん:ただ機械生産のものであれば、数を作れば作るほど原価が下がっていくんですけど、作業所の場合は、一つひとつの事業所で作れる量が少ないだけに、量が増えれば増えるほど実はコストが上がっていくという謎の現象が起こってしまうんです。
mySDG編集部:なるほど。なかなか困難が多いですね。
町さん:そうなんです。それでも今後は商品のラインナップを増やしていって、法人のお客様にどんどん展開を進めていけたらと思っています。
mySDG編集部:一方で、町さんご自身の展望もお伺いできますか?
町さん:いわゆる企業と社会福祉法人の垣根をバリアフリー化していきたいですね。営利企業の方、NPO法人の方どちらとも、どうすれば社会が良くなるかなみたいな話をすることがよくあるんです。お互いにそれぞれの社会を知らないだけで、言っていることは結構似ているんですよね。というのは、例えば企業であれば、人が育たないと悩んでいたりするわけじゃないですか。一方でNPOの世界では経済格差と学習格差が連動したデータも出てきているわけで。そういったお互いの垣根をなくして、うまく連携できるような取り組みを後押ししたいです。企業側に対しては、例えば研修のテーマとしてSDGsを取り扱うということより、ビジネスモデルの中にSDGsの取り組みをいかに組み込んでいくのかを一緒に考えていきたいですね。
mySDG編集部: SDGsという名目ではなく、社会や人に良いと思った取り組みが自然とSDGsにつながっていくというのが理想的ですよね。町さん、本日はありがとうございました。
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