【取材記事】障がい者雇用を意識しないことが「ふつう」である社会へ KDDIエボルバが推進する誰もが公平に働ける職場づくり
【お話を伺った方】
■大切なのは「適正」より「特性」を理解すること
MySDG編集部:まず、御社ではどのような障がい特性をお持ちの方々が就労されているのでしょうか?
中村さん:障がいの区分け別の割合は身体障害が40%、精神・発達障害が46%、知的障害が14%です。国内で障害者手帳を保有する方のうち、身体と精神の区分にある方は各4割以上(出典:内閣府 令和2年版障害者白書)という現状に対し、雇用が進みやすいのは身体に障がいのある方です。そういった中で、KDDIエボルバはどの現場でも障がい特性にこだわらず雇用を推進しています。
さらに当社は、障がい者が取組みやすい業務に特化した全国4拠点に設置する「障がい者雇用専門部署」専用の求人をもうける一方で、障がいの有無を問わず、全ての方がすべての業務に応募いただける取り組みを行なっています。実際に障がいのある社員のうち80%が「障がい者雇用専門部署」ではない通常の部署で働いているのが現状です。
MySDG編集部:障がい者雇用を推進する際に「何を、どのように」お願いすればよいのかを課題にあげる企業さんもいらっしゃいます。その点、御社ではどのように適正をはかり、業務の割り振りやサポート方法などを決められているのでしょうか?
村上さん:基本的に「適正」ではなく「特性」の理解を重視しています。事務サポートグループは、障がい者雇用専門部署として、これまでのノウハウをまとめた自社オリジナルハンドブックを作成し、それらをベースに障がいの特性や得手・不得手、業務のマッチング度合いを図りながら、業務の割り振りなどを行なっています。しかし就業が始まってからわかることの方が多いため、面談や働く様子を通じて特性や本人希望を見ながら、業務調整を図り、継続勤務できるように配慮しています。特に精神障害の方は障がい自体が目に見えにくいですし、本人も自分に何ができて何ができないのかをわかっていない方もいらっしゃいます。そのため対話を通して接点を多く持つことで、特性を理解した上での適切な割り振りを行っています。
MySDG編集部:村上さんは別のインタビューでも「自分自身の障がいへの理解がない、あるいは配慮は不要だと思い込んでいる場合だと、サポートが難しいこともある」とお話しされていました。やはり本人が自身の障がい特性を理解していることが重要ということでしょうか。
村上さん:そうですね。たとえば「人とコミュニケーションを取りながら仕事をするのは過度な緊張が走って苦手である」とか、「他の情報が入ってくるような仕事だと集中力が続かない」といったように、自身の特性をある程度理解できている方は仕事の割り振りもすごくスムーズに進みます。特に配慮事項はないと思って「自分は大丈夫です」「ある程度のことはほとんどできます」と伝えてくる方の場合は私たちも適切な業務の割り振りや配慮ができずに、お互いに後々大変になります。
■「特別扱い」ではなく、業務を遂行するための「合理的配慮」を行う
MySDG編集部:障がい者雇用の取り組みを始められたばかりの頃は、制度や体制・知識・ノウハウが不十分であったことから定着課題を抱えられていたそうですね。課題に対しては、どのような取り組みを行ったのでしょうか?
中村さん:ハード面では、専門相談窓口を設置し(全拠点・11箇所)、障がい者職業生活相談員の資格を持つ社員33名(2022年8月末)が、さまざまな相談ごとに対応しています。そのほかにも、障がいに起因する通院について休暇を取得できる通院休暇制度を導入するなど、働く社員にあわせた就業環境の整備を進めました。たとえば車いすの方には専用の充電スペースをもうけたり、グリップしやすいドアノブに変更したり。弱視の方であれば大きめのディスプレイを用意したり、聴覚障がいの方にはブギーボードと呼ばれる感圧式ディスプレイの電子メモパッドを提供しています。
MySDG編集部:目に見えにくいソフト面の取り組みはいかがでしょうか?
中村さん:現場の知識不足・対応不足を解消する必要があるため、たとえば管理者には専門部署のナレッジやノウハウを実例ベースで展開しています。全国の拠点でうまくいっている事例とともに、こうすればトラブルを回避ができたのではという事例も展開して、「障がい者との向き合い方」を学ぶ機会を定期的に作っています。もちろん全社的に研修を行なっていますが、特に管理者に関しては初めて障がいのある社員のマネジメントを行う方も非常に多いため、会社としてメンタルを含むサポートが必要です。実際に特別扱いしすぎて関係が悪くなったりと、管理者と障がい者との間ではさまざまなことが起こり得ます。
MySDG編集部:特別扱いと配慮の線引きがなかなか難しいように思うのですが、その点はどのように向き合われているのでしょうか?
村上さん:会社が持たなければいけない合理的な配慮には徹底して対応していますが、「特別扱いと配慮の線引き」は、私たちも本人も理解が必要になります。たとえば、事務サポートグループでは、自分達のミッションを理解し、他部署の事務代行を行うグループとして精度の高い成果物を依頼部門にお返しする——それはKDDIエボルバの社員同士として同じ考え方であるということをしっかりと理解していただくように言葉を尽くしています。
やはり仕事において、「障がい者だからしょうがないよね」「ちょっとくらいミスが多くても仕方ないよね」と思われるようになってはいけないと思っています。「仕事をあげている」という雰囲気にしたくないんです。戦力と考えているからこそ、仕事はきっちりしてもらいます。特別扱いではなく、あくまで業務を遂行する上で、わかりにくいことがあったり、身体・精神的に不自由に感じる面があったりする場合に必要なサポートを補完する形です。ただ、精度の高い成果物をお返しするというゴールに行き着くために「ゆっくりのスピードでもいいよ」とか、「やり方を変えてみようか」というアシストはしっかり行なっています。
中村さん:合理的配慮というのは、任された仕事ができるようになるための配慮であり、その人が言うことをなんでも聞くことではないと思っています。村上が話しているのは、障がい者の専門部署での対応方法ですが、通常の部門では障がいの有無に関係なく、条件も評価基準も同じです。ただ、通院やリハビリなどで週4日が難しい人は週3日の勤務にするなど、今できる範囲で配慮していくのがKDDIエボルバの姿勢であり、これが本当の意味でのダイバーシティだと考えています。
■「能動的な対話」こそが互いの理解を深め、働きやすさを創る
MySDG編集部:障がいのある社員の指導・マネジメントはどのように実践されているのでしょうか?
村上さん:KDDIエボルバで重視しているのは、能動的な対話です。「指導・マネジメント」という考え方ではなく、あくまで「働きやすさの創造」です。そのために対話を通して双方の認識を明確にし、障がい特性にあわせた業務指示などを心がけています。
MySDG編集部:具体的な応対方法などを教えてください。
村上さん:業務指示の内容には、曖昧表現を避けるようにしています。たとえば発注作業を行う際、「残りが少なくなったら管理者に言ってね」という言い方をすると、「少ない」=「残り1個」と認識する人もいれば、どの量が少ないという意味になるのかわからず、悩んで立ちすくんでしまう人もいます。そのため「残りが5個になったら」というように数字を明確にして、迷いを減らすような指示の仕方を心がけています。あとは言葉の表現にも注意が必要です。たとえば「二次チェック」「最終チェック」というように、異なる言い方をする管理者もいますので、混乱を避けるため、指示の際の言語統一も意識しています。そのほかにも視覚優位の方にあわせた手順書の作成や、作業の進捗を目視確認できる環境整備も進めています。こうした業務の工夫は、どのようにしたら良いのかを話し合い、考え、改善するなかで生まれたものです。
MySDG編集部:ここまでお話を伺って、ハード面・ソフト面ともに体制づくりを確立されている印象です。その中でも、定着が難しかったケースなどはあったのでしょうか?
村上さん:退職率は非常に低いのですが、退職者は少なからずいます。そのときに大きなきっかけとなるのは、人間関係のトラブルやミスの指摘があったときに不調が合致しまったケースですね。ちょっとしたボタンの掛け違いで、その方が本来もっている認知のゆがみが大きく出てしまい、コミュニケーションをとることが難しくなってしまいます。
MySDG編集部:個人的には認知のゆがみは変えられるものではないと思うのですが、対話や関係性の構築によって、調整することはできるのでしょうか?
村上さん:経験値から言うと、認知のゆがみがなくなることは絶対にないと思います。ただ、認知のゆがみが顕著に出た事案に関して、整理をして納得してもらうことは7割ぐらいできると思います。そのかわり、面談を3回以上は行う必要があります。たとえば、1回目、2回目はここまで整理するというゴールを設定して、3回目に本人が整理された状況の理解・納得に進むことができて気持ちも落ち着き、関係性の再構築となるケースもあります。
MySDG編集部:ということは、面談にはかなりの工数がかかっているということですね。
村上さん:そうですね。事務サポートグループだけでなく、障がい者の方と共に働く各拠点の管理者も業務面談は相当な工数をかけていると思います。実際のところ、他部署の方からアドバイスを求めて電話がかかってくることもあります。彼らが自分の近くで働く障がいのある社員としっかり話をして、理解してもらい、定着してもらうために、行動しているからだと思います。
中村さん:面談という点でお話をすると、私たちD&I推進部は今期から全国にいる相談員と連携をして、入社3ヶ月以内の社員と管理者と三者面談を実施しています。というのも、健常者の方も含め、入社して定着するまでの3ヶ月ぐらいは不安定な時期が多いんです。そのため入社3ヶ月以内の社員と相談員との面談に管理者が同席し、社員の考えを直接聞くことで、ケアの方法を変えるなど、定着課題にも取り組めます。やはり話を聞く機会を能動的に作っていくことは、安心して働ける環境づくりには有効だと考えています。
■足りない部分を補ってはじめて平等。誰もが公平に働ける未来へ
MySDG編集部:最後に御社が今後描く「障がい者雇用」の未来についてお聞かせください。
村上さん:障がい者雇用を意識しないことが「ふつう」である社会ですね。そのためには平等であるだけでなく「公平さ」も必要です。能力の差は誰にでもあります。そのなかで公平さとは、足りていない部分を補ったり、力を貸したりすることだと理解しています。障がい者の方と共に働く場合、同じKDDIエボルバの社員として成果を上げていくために足りない部分を補完して、初めて平等の社員同士だと思っています。真に公平な職場を私たちが体現することで、それが「ふつう」である未来につながっていくことを願っています。
中村さん:ダイバーシティを推進するなかで当たり前に言われていることですが、それぞれの特性・個性を生かして、多様性に富んだ人材が活躍できる会社を目指していきたいですね。互いの違いを認め合える、「すごくいいふつう」を推進していくことが私たちの仕事だと思っています。
MySDG編集部:今回お話をお伺いして、まずは「知ること」が大切なのだと実感しました。正しい知識を身につけることで、互いの違いを認め合い、多様な人々がそれぞれ自立しながらも助け合える社会の実現につながると思います。中村さん、村上さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。
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