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【取材記事】起業・副業のツールとしてもニーズ増 循環型農業「アクアポニックス」がつくる未来の農業

水耕栽培と水産養殖を掛け合わせることで、高い生産性と環境配慮の両立をかなえる循環型農業「アクアポニックス」。1980年代に発祥の地・アメリカで商業化され、近年日本においてもアクアポニックスを新規事業として展開したい企業や、副業・起業のツールとして活用したい個人の需要が高まりつつあります。

そんな次世代の農業として注目を集めるアクアポニックスを、日本に普及しているのが株式会社アクポニです。日本におけ るアクアポニックス導入の第一人者である同社代表の濱田健吾さんは、本場アメリカで学んだ高い専門性・ノウハウを活かし、法人向け・個人向けにアクアポニックスの導入サポートを実施。同時にアクアポニックスについて学べる国内唯一のスクール「アクアポニックス・アカデミー」の運営も行なっています。

今回は同社代表の濱田さんとアカデミー講師の孫田賢佑さんに、未来の農法として名高いアクアポニックスの魅力や、アクアポニックスを学びたい個人の増加に伴う「アクアポニックス・アカデミー」のリニューアルについてお話を伺いました。

【お話を伺った方】

株式会社アクポニ 代表取締役 濱田健吾(はまだ・けんご)さん
1978年、宮崎県生まれ。大学卒業後、オーストラリアの小学校の日本語教師を経て専門商社に入社し、海外における新規事業開発に従事。その後アマゾンジャパンに転職し、在職中にアグリイノベーション大学校で農業を学ぶ。2014年4月、「アクアポニックスで地球と人をHAPPYに」のビジョンを実現するため、株式会社おうち菜園(現アクポニ)を創業。アクアポニックス農場の運営と設計施工、導入支援、アクアポニックス・アカデミーの運営等を行う。趣味は釣り。
株式会社アクポニ 孫田賢佑(そんた・けんすけ)さん
1984年、山形県生まれ。農業に関する知識は全くなかったが、アクアポニックスの魅力にひかれて入社。現在は自社農場の生産管理や見学会などの対応を行う。自宅でも3基のアクアポニックスを自作し、子どもと楽しんでいる。


■魚と野菜を一緒に育てる、地球と人にやさしい農法「アクアポニックス」

土耕農法と比較して同面積で約7倍の収量と約80%以上の節水をかなえる

mySDG編集部:まずはアクアポニックスについて教えてください。

濱田さん:アクアポニックスは、魚の養殖と野菜の水耕栽培を同時に行う循環型農業で、環境負荷を下げ、少ない手間で安心・安全な野菜と魚を育てることができる農法です。通常、魚の養殖と水耕栽培を別々に行うと、それぞれで水やエネルギーが必要になりますよね。しかし、アクアポニックスは、魚の養殖と水耕栽培の循環の輪をつなげることで、「水」「エネルギー」「肥料」の利用効率を上げ、資源の無駄を減らせることが大きな特徴です。

具体的な仕組みを説明すると、魚の排泄物を含んだ飼育水がポンプで汲み上げられ、フィルターによってろ過された後、微生物によって野菜の栄養素に分解されます。植物はそれを養分として成長し、その際、微生物の力で綺麗になった水が再び魚の水槽へと戻り、循環の流れを生み出します。

つまり同じ施設内で魚と野菜を同時に育てながら、エネルギーや水を循環させるので、使用する水やエネルギーは半分ですみます。さらにアクアポニックスは魚の排泄物を分解し肥料にすることから、通常購入される肥料も不要。養液を使う従来の水耕栽培と比較して温室効果ガスが72%も削減されることが論文データ(※)で証明されています。

一般的な水耕栽培と比べ、えぐみの原因となる「硝酸態窒素」の量がおよそ半分との研究データも出ている

mySDG編集部:魚の養殖と野菜の水耕栽培を循環でつなげることで、資源やエネルギーの無駄を抑え、地球にやさしい農業を実現するわけですね。

濱田さん:アクアポニックスは2つの側面から魅力があると思っていて、一つは「地球にハッピー」であること、もう一つは「人にハッピー」であることです。「地球にハッピー」とはさきほどお伝えしたような環境面の課題解決。もう一方の「人にハッピー」というのは、そもそも農場に魚が存在するのはアクアポニックスしかないんですね。魚がいるとどうなるかというと、一言で言うと面白いんです。水族館と植物園が一緒になったような空間ができるので。

これまでは、ただ野菜が植わっているだけの農場に興味なかった人も、魚と野菜が同時に育つ循環が見えることで、いろんな角度から興味を持ってくれるようになります。すると子どもからお年寄りまで多様な人たちが集まり、「収穫して楽しい」「食べて楽しい」みたいなコミュニティができやすくなる。癒しやエンタメといった効果が生まれます。そういった観点から、障がい者や高齢者の働く場所として活用する農福連携の取り組みも増えていますね。自然の循環を感じながら植物を育てる喜びがあって、さらに関わる人たちがハッピーな気持ちになれる。そんな場が生まれるのも、アクアポニックスの魅力だと思います。

(※)“Lettuce (Lactuca sativa, variety Salanova) production in decoupled aquaponic systems: Same yield and similar quality as in conventional hydroponic systems but drastically reduced greenhouse gas emissions by saving inorganic fertilizer”, PLOS ONE, https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0218368

■アクアポニックスで副業・起業したい個人のニーズの高まり

新規事業として導入する企業の事例が増える一方で個人の需要も高まっている

mySDG編集部:アクアポニックスは環境面の課題解決はもちろん、人とのつながりを生み出すツールとしても大いに可能性を秘めた農業ですね。

濱田さん:まさにこれらをもっと広めたいという思いから2016年に開講したのが、「アクアポニックス・アカデミー」です。これまでは主に企業向けに実施していましたが、最近はコロナ禍のリモートワークの浸透や働き方の多様化によりライフスタイルが変化し、副業・起業のツールとして個人からのニーズも増えています。そのためアクアポニックスの規模や目的に合わせてコースが選択できるよう、2023年3月よりコースをリニューアルして開講します。

mySDG編集部:具体的なコース内容について教えてください。

濱田さん:会場に通学して受講する「ビジネス」「スタンダード」「スタディ」コースと、オンラインで2日間に集約して受講する「短期コース」の4つのコースを設けています。「ビジネス」コースは、アクアポニックスで就農や起業を目指す少人数制コース。「スタンダード」コースは、週末農園や副業として実践したい小規模ビジネス向けのコースです。「ビジネス」「スタンダード」コースは直営のアクアポニックス農場にて実習を受けられ、3ヶ月でアクアポニックスのプロを目指すことが可能です。一方、「スタディ」コースは将来的にアクアポニックスを実践したいけれど、事業化に向けて情報収集したい方に向けた2ヶ月のコースです。

mySDG編集部:ちなみに個人の需要といったところでは、アクアポニックスをどのように活用できるのでしょうか? 事例があればぜひ教えてください。

孫田さん:これまで300名を超える卒業生が受講していますが、個人で事業化されている方だと、例えば世田谷のカフェの屋上にアクアポニックスを設置し、障がい者の就労支援の場として運用されている方がいらっしゃいます。

あとはファーマーズマーケット内にオープンしたカフェにアクアポニックスを併設して野菜を育て、地元の野菜と一緒にアクアポニックスの野菜を販売する方。副業としてアクアポニックスで栽培した野菜をECサイトで販売する方もいれば、本格的に新規就農を目指す方もいて、実に多様な使い方があります。

必ずしも新規就農というだけでなく、農福連携だったり、飲食店での活用だったり、コミュニティの活性化だったり、いろんな用途で使えるのがアクアポニックスの特徴の一つですね。

■土がなくても始められる「アクアポニックス農業」の魅力

mySDG編集部:アクアポニックスを副業や起業のツールとして活用したい方は、今後ますます増えてくると思います。実際にアクアポニックスを活用して事業化することのメリットやアクアポニックスの今後の可能性についてもぜひ教えてください。

孫田さん:ここ最近は新規就農の希望者数自体が増えている背景もあり、アクアポニックスを活用して農業を始めたいという個人からの問い合わせも非常に増えています。しかし一方で、新規就農の離農率の高さも問題になっています。一般的に新規就農者の約4割が3年ほどでやめてしまうと言われています。やはり思うように収益性が上がらないというのが大きな要因だと思います。栽培する野菜を差別化することも容易なことではなく、さらに土作りに数年かかることもあるので、新規就農のハードルが高いのは事実です。

mySDG編集部:自然相手の重労働ですし、設備投資や蓄積したノウハウも求められます。一夕一朝で成し遂げられるものではないかと。

孫田さん:まさにその通りですね。ただ、アクアポニックスは室内でも、土がなくても、実践できる農法です。そのため土作りの必要もありません。設置場所も選ばず、植物と魚と微生物のバランスさえ整えられれば規模や形も自由です。

かつアクアポニックスは、ストーリ化しやすい農業でもあります。単に野菜を作るだけではなく、無農薬・無化学肥料、環境負荷を下げながら野菜が作れるという点。さらに想いや目的についてもメッセージ性を打ち出しやすく、ほかの野菜との差別化が図れます。その点においてもこれまでの農業とは大きく異なりますよね。環境面の課題解決をかなえる有機農法としてブランディングし、その魅力を発信していくことで小規模でも全体の価値を上げて事業化していくことは、十分可能だと考えています。

■アクアポニックス農業で就農の選択肢を広げる

アクアポニックス農園「ふじさわアクポニビレッジ」では実証実験や農場見学、各種イベントが行われている

mySDG編集部:今回アクアポニックスの存在を知り、学んでみたいと思われた方もいらっしゃると思います。最後に「アクアポニックス・アカデミー」の受講を検討されている方に向けて、メッセージをお願いします。

孫田さん:アカデミーの目的は「アクアポニックスの関係人口を増やし、活躍する人材を輩出すること」です。アカデミーを通してアクアポニックスに携わる人たちが増え、彼らが地域にアクアポニックスを浸透させ、資源の循環や人や喜びの輪も広がっていくことが僕らの目標であり、アカデミーの大きな目的でもあります。まだ認知は低いものではあるので、飛び込むのには少し勇気がいるかもしれません。しかし、アカデミーでは知識はもちろん楽しさも一緒に学んだり感じたりしながら、今後アクアポニックスをともに広めていける仲間として一緒に歩んでいけたらと思っています。

濱田さん:今後は個人の就農者を増やして、農業生産流通を変えていきたいと思っています。これまでは農業を始めること自体、非常にハードルが高いものでした。しかしこれからは、副業やセカンドキャリアで就農できる選択肢を増やす意味でも、アクアポニックスは非常に有効かつ可能性のある農業だと考えています。私自身もたくさんの農園や研究施設で学ばせてもらい、今ある自社農園につながりました。アカデミーでは今後ビジネスを通して社会課題を解決していく仲間として、これまでの経験や技術を分かりやすくお伝えしていきたいと思います。

【アクアポニックス・アカデミー開催概要】
第1期開講期間:2023年3月4日〜5月27日までの土曜
(ビジネス/スタンダードコースは毎週、スタディコースは隔週開催予定)
会場(座学):zoomでのオンライン受講
会場(実習):湘南アクポニ農場、ふじさわアクポニビレッジ(神奈川県藤沢市)
※住所詳細は受講者の方にのみご連絡いたします。
※スタディコース、オンラインコースは座学のみとなります。農場での実習はありません。
※各コースとも、申込先着順で定員になり次第締め切らせていただきます。
お申し込み方法:アクポニ公式サイトよりお申し込みください。
https://aquaponics.co.jp/about-aquaponics-academy2023/
※今後の開催スケジュール:2023年9月頃(年2回、毎年3月と9月に開講予定)


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