見出し画像

コンビニバイト ③

初めて入った二階の事務室。コンビニはフランチャイズで、二階はお店の経営をしている会社の事務室だった。
大きな物音にわたしははっと我に返った。わたしが話を聞いていないと思った店長が、デスクを蹴り飛ばし怒鳴り声を上げたのだ。大柄な店長が間近でわたしをにらみつけ、普段以上に攻撃的な言葉遣いで責め立てる。
わたしは口を半開きにして震えることしかできない。やっとの思いで声を絞り出し無実を訴えたが、それは火に油を注ぐ行為だった。
「言い訳をするな!」
再びデスクを蹴り飛ばし、店長は大声を上げる。
その後は、わたしが仕事の要領が悪いことなどを引き合いに出し、わたしの人間性を否定する言葉を並べ立てた。
そして最後には、わたしが佐々木先輩や他の店員たちの善意を裏切り騙そうとする最低の人間だ、とまで言い切った。
わたしには、もう反論する気力すら残されていなかった。
佐々木先輩の顔が浮かび、わけもなく胸を締めつけてくる。目から涙が溢れる。
唇を噛み嗚咽するわたしに、店長がにじり寄ってきた。また怒声が飛んでくると思い、身を縮めた。

「少し感情的になっちゃったね、申し訳ない」
予想に反して店長の声は穏やかだった。
店長は続けて、毎日大学に通いながらバイトをするわたしの勤務態度を褒め称えた。
先ほどとは打って変わった物言いにわたしは戸惑うばかりだ。
そして、これからも店で働いて欲しいから今回のことは大事にはしたくない、警察に届け出ないし誰にも言わない、お金もわたしにくれると言うのだ。
手元を見つめ困惑するわたしに、店長は体を寄せ、密着してくる。
わたしは理解した。
この男の「本当の狙い」は、わたしだ。
店長はわたしの手を取り、自らの股間に導くと、私の耳にささやくように言ってきた。
「何が言いたいかわかるね?」

ここから先は

1,604字

¥ 100

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が参加している募集

#ノンフィクションが好き

1,418件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?