芥川賞候補作「##NAME##」を読んでみた
自分ではどうしようもないもの、そういうものとの付き合い方。
7/19に発表される芥川賞の候補作を読んでいます。
今回のnoteは、その候補作のひとつ、「##NAME##」(著:児玉雨子)のブックレビューエッセイです。この芥川賞をより楽しむための記事です。
「##NAME##」はとても”今っぽい”小説。現在を生きている私たちがうっすらと気づいている”あのこと”が言葉になって綴られています。
それではどうぞ。
「##NAME##」あらすじ
「どうしてみさって呼んでくれないの?」
そう問いかけてくるのは美砂乃ちゃんだった。
同じジュニアアイドルをしている美砂乃ちゃんは、本名の”雪那”でも、アイドルとしての”せつな”でもなく、雪那の雪がゆきと呼べるからとわたしのことを”ゆき”と呼んでいた。
「みんながいない時、ゆきって呼ぶね。」
その美砂乃ちゃんは表情もポーズも自由に操っているかのように多彩だ。一方、小学4年生ながら大人びた表情と150cmを超える身長のわたしには、撮影会ではあまり人は集まらなかった。
毎日のように携帯に届く辛辣なメール、いつも一人だった学校、そして性器を露出していないだけまだ大丈夫と言われる。わたしはお腹すら出したことがないのに。
ジュニアアイドルを辞めて学生になってから、ポルノだとか、その被害者だとか、後から好き勝手なレッテルを貼ってくるアイツらがやってくる。
「どうして被害者だったくせに黙っているの黙認しているならあなたも闇の一部なんだよ」と、後から知った顔でやってくるアイツ。
「お仕事をやりたい、役者になりたいって言うからお母さん頑張ってきたのに」と、目の前でいつも立ちふさがっているアイツ。
そして「まともに傷ついてどうする」と、そのまともじゃない傷つき方は教えてくれないアイツ。
水着を着てカメラに向かってアイスキャンディを舐める、その行為の意味を考えたった今更なにも変わらないのに。
もう自分ではどうにもならないものがある。それはいつも後からやって来て、前に立ちはだかっているものよりもやっかいでめんどくさい。
<あなたの名前はなんですか?空欄の場合##NAME##と表示されます>
どんな名前にだってなることができる。
アイドルを辞めてから会うことはなかった美砂乃ちゃんが結婚したことをインスタグラムで知ると、"ゆき"とアカウントをつくり、美砂乃ちゃんにメッセージを送った。
もう自分ではどうしようもないもの
少子高齢化という現象は若者が先にいる先人への復讐というストーリーの小説を思いついたことがあります。
眼の前で起きている現象の原因を遡って探ってみるとだいたいネガティブなことにたどり着く。それは自分の努力ではどうしようもないもの、その割合が多ければ多いほどそう考えがちになる。
自分ではどうにもならないことに対する防衛、抵抗そして復讐は、現代の文学の重要なテーマになりそうだ。
今っぽさが知れる芥川賞
芥川賞は、もっとも優れた純文学作品に与えられる日本でもっとも有名な文学賞のひとつです。
純文学の重要なテーマのひとつが”現代性”、つまり今っぽさ。
芥川賞を読むと、既に言葉にされた今っぽさを感じることができる。
だから芥川賞は面白い。
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AIを使えばクリエイターになれる。 AIを使って、クリエイティブができる、小説が書ける時代の文芸誌をつくっていきたい。noteで小説を書いたり、読んだりしながら、つくり手によるつくり手のための文芸誌「ヴォト(VUOTO)」の創刊を目指しています。