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「ジャクソンひとり」を読んでみた【芥川賞候補作全部読む】

優れた新人若手の純文学に送られる芥川賞の候補作が5つ発表されました。1/19の選考会受賞作発表までにその候補作を全部読む、にチャレンジします。

「荒地の家族」(著:佐藤厚志)「グレイスレス」(著:鈴木涼美)はすでに読んで、今回のチャレンジ3冊目は「ジャクソンひとり」(著:安堂ホセ)です。

読み終えたばかりで感じたバイブレーションをそのままサクッと記事にしていきます。

このnoteでは、書評を中心に読書に関する記事を発信しています。ぐちゃぐちゃになった頭の中を読書で整理してみると、それだけで人生がラクになります。人生をラクにする1冊を紹介するnoteです。

「ジャクソンひとり」はこういうお話でした

<QRコード "blackmixroom.org"をwebで開く>

スポーツジムで整体師をする主人公ジャクソンのロンティー(Tシャツ)にあるQRコードが読み取られると、ベッドの上で裸ではりつけにされたブラックミックスの男の動画が再生された。

「悪いけどこれ、俺じゃないですよ」
「それはないでしょ。だってきみの服でしょ?」

「ていうかさ、どうしてこれが俺だと思うの?」
「いや、似ているからでしょ」

「どこが?」
「見た目が」
「見た目が、って具体的にどの部分がどう似ているの?」

「ジャクソンひとり」(著:安堂ホセ)

その動画はジャクソンがランチをしていたフードコートにいるほぼ全員に瞬時にAirdropで拡散されていく。

うん、ちょっとゲイっぽい。
なにこれ、リベンジポルノ?
これ知ってる、マンハウリングっていうプレイだよ。口に入っているのがマイクで、ケツに刺さっているのがスピーカー。

ジャクソンは、アフリカのどこかと日本のハーフで、昔モデルやってて、ゲイらしい――

高級ブランド「ラメロ」のドアボーイのバイトをしているジェリンは、その動画の人物がイブキではないかと疑う。イブキは、自分のポルノ動画を有料ファンサイトで発信いしているブラックミックスの日本人だ。

<クラブでもらったTシャツにQRコードがついてました 知らない人にもらったけど 知らないまま着て 人に脅されています>
<ここの映っているはイブキさんですか?>
<ここに映っているのは僕なんですけど、困ってて、どうしようかなと思ってます。イブキさんに相談するのも変だけど、他にいなくて イブキさんならどうしますか?>

<おれってことにしてみる?>

「ジャクソンひとり」(著:安堂ホセ)

イブキはジェリンの了承を得た上で自分のサイトでその動画を公開する。
するとその動画を見たエックスから久しぶりに連絡が来た。

<ファンズにあげた最新ビデオ、イブキじゃないよね?>
<嘘は聞きたくない。すぐに削除してくれればそれでいいから>

「ジャクソンひとり」(著:安堂ホセ)

まずい、どうやらエックスは相当怒っている。
イブキはうんざりしながらも、ジェリンとエックスと3人で会おうと提案する。ホテルサジタリで集まって、そのホテルに偶然ジャクソンも加わる。

ジェリン、イブキ、エックスそしてジャクソン。
動画をきっかけにホテルに集まったブラックミックスの4人。

「ビデオに映っているのが誰かってことなんだけど」

「俺は追求したくないんだ。ある意味、犯人探しよりしんどいじゃん。この中にも、自分だっておっしゃってる方が数人いらっしゃるみたいだし」

「本人やります宣言じゃなくて、お前ら黙っとけよってコンセンサス取っているように聞こえる」

<俺にはロンティー届いていないし、あんま関係ないと思う>

「ジャクソンひとり」(著:安堂ホセ)

動画に映っているのは誰?その動画のQRコードを入れたTシャツを送りつけてきたのは誰?どんな目的で?

ひとりから4人になったジャクソンは犯人探しの途中である復讐を思いつき、それを実行していく。

もう一度読む時はこう読んでみる

暗い重いテーマを扱っている作品。
でもクールさ、爽快さも感じる作品でした。読んでいてワクワクした。

属性のマイノリティ。感覚のマイノリティ。
自分の意思とはまったく無関係にあるもの、自分たちが生まれる以前からすでにあるもの。ひょっとしたらどうすることもできないもの。

それには真正面から反抗するよりも、すでにあるその仕組みやルール、思い込みはそのままで、逆にそれを利用していくハック(利用)していく。

ゲームじゃない人生を自分たちでゲームにしていく。

すでにルールが決まっているゲームをそのままプレイするよりも、すべてが自分の思い通りとなるゲームを0からつくろうとするよりも、ひょっとしたらどうしようもないクソのような日常だったとしても、その現実をベースに少しでも工夫しながら、現実をハックしながらゲームのように楽しんでいく。

そこにとてもリアリティとクリエイティビティと生きる強さを感じます。

そのエッセンスを手に入れるために、2回目読む時はこの3つを特に気にして読んでみます。

①それをゲームにするために必要な条件は?

ゲームの条件は次の3つとして見ると、
・プレイヤーが目指すべきゴールが決まっている
・プレイヤーができること、できないこと、ルールが決まっている
・プレイヤーが自発的に参加すること

ジャクソンたちのゴールはどこなのか?
ジャクソンたちにできること、できないことは何なのか?
ジャクソンたちはなぜこのゲームに参加しているのか?

②復讐 = エンタメなのか?

ジャクソンたちには復讐したい相手がいる。
ジャクソンたちはとてもユニークな方法で復讐をしていく。

ジャクソンたちはなぜ復讐をするのか?

③ゲームをクリア?した後に感じるものは?

ゲームには目指すべきゴールがある、つまり終わりがある。
でも生きること、人生にはゴール、終わりはない。

ゲームが終わった後にジャクソンが感じるものは?

候補作を全部読んだ後、もう一度読むときにはこの3つを気にして読んでみます。

候補作は残り2作。次は井戸川射子さんの「この世の喜びよ」です。

*参考記事

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