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気ままに読書録「植物図鑑(有川浩)」

「お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか。」

……………なんだ、この文庫本の帯は。

裏表紙のあらすじを読んでみると、女の子がある日突然イケメンを拾う物語らしい。少女漫画的な設定?前に読んだ「空飛ぶ広報室」とは雰囲気が違うのかな。

なんて、気になりなりつつも1年くらいは読まずにいたこの本。ようやく読んでみて、何でもっと早く読まなかったのだろうと本当に思った。


この本「植物図鑑(有川浩)」は、私が有川浩作品にハマるきっかけとなった本だ。

全体的に、超、甘っ々。甘すぎ。きゅんきゅん。たまらん。

樹くんはさやかちゃんに拾われたけれど、ヒモにならずにお金のことはきちんとしてて、家事もやって。そして、人の気持ちを考えられる良い奴。

物語後半でなぜに放浪生活をしていたのか、なぜにいなくなったのかが明らかになると、ああ、樹くんは必死で考えてて一生懸命生きていて、自分の人生から逃げない人なのだなとわかる。

だから、さやかちゃんは樹くんのことを好きになっちゃったんだよね。

私が一番好きな場面は、久々の飲み会帰りのさやかちゃんを、樹くんがバイトを休んでまで迎えに行くところ。

この前日、二人は喧嘩して気まずくなっていた。けれどもその気まずさを引き延ばさずに、さやかちゃんときちんと向き合うために迎えに行った樹くん。逃げない精神、素敵。

そして、さやかちゃんの「でもそうやって物分かりのいい同居人でいたらあたしの気持ちはどこに行くの?」という言葉。さやかちゃん自身が自分の気持ちを大事にできていて、その気持ちを口に出して樹くんに直接言えるのがすごい。

さやかちゃんは素直で正直でかわいい。悲しいかな、たぶん私はさやかちゃんとは真逆の人間だな、難しい。有川浩さんが作り出すカップルはいつも、優しくて、微笑ましくて、羨ましくて仕方がない。甘々、きゅんきゅんだけれど、ちょっとだけ辛い。


そしてこの本のもう一つの醍醐味は、言わずもがな、植物散策だ。

キーアイテムであるヘクソカズラはじめ、名もない雑草の一群だと捉えていた植物達が、次々と登場しては美味しそうに調理されていく。

思わず家の近くを散歩してしまった。さすがに草を取って食べる自信はなかったけれども。そもそも秋の終わりでほとんど枯れてしまっていたのだけれども。

それでも。

そういえば昔、シロツメクサで花の冠を作ろうとしてたな。最後に輪っかにするのがうまくできなかったな、とか。

友達とオオバコで草相撲したな。根本が紫っぽくて細いやつの方が強いんだよな、とか。

ドクダミに素手で触ってしまって、石鹸で洗っても洗っても全然匂いが消えなかったんだよな、とか。

忘れていた幼い頃の記憶が蘇ってきた。そういえば私、田んぼや畑に囲まれたところで育ったんだな。

この本を読んでいた当時、私は大学院の博士課程3年生で、もうすぐ大事な予備審査があるという時期だった。じわじわとプレッシャーが高まってくる日々の中で、ふと大学構内である木に目が留まった。

「あ、この木は。」

本の中に出てくる街路樹。さやかちゃんが道路の左右で木の実の数が違うことに疑問を持って果敢にも実を食べてしまった、ハナミズキだ。

そっか、私の近くにもハナミズキってあったんだ。いつも前通っているのに全然知らなかった。

なんて、小さな発見。

さやかちゃんと樹くんのほのぼの植物散策は、つかの間の心の安らぎだったな、と今になって思う。また春になったら、きゅんきゅんな二人を思い出しながらゆっくり散歩したいな。

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