ショートショート③「フードコート」

大志はこのフードコートでしかポテトのLサイズを注文しない。

「他のマックのよりなんかおいしい気がする!!」らしいのだが、絶対にそんなことは無いと思う。大手チェーン店というのはどこでも同じ味を楽しめる事が売りなのだから。

俺はナゲットだけを注文した。「ハンバーガーは身体に悪い」みたいなツイートを見るたびに心がギュッとなってしまうけど、学校帰りにここに寄ってしまう習慣はやめられない。でも、最近はこうしてハンバーガー以外を食べているので大丈夫だと信じたい。


「なー!悠太も行こうよー!絶対楽しいって!!」

さっきから何度も繰り返している言葉を無視して、俺は参考書に目を落とす。

大志はポテトを一口食べてまた言う。

「行こうよ!絶対楽しいって!!!」

無視する。

「絶対楽しいって!!」

というか、こんだけ無視してるんだからもっと別の角度から攻めろよ。お前の提案に心惹かれていないのは明白だろ。

「絶対楽しいと思うけどなー!」

「・・・ふっ」

馬鹿正直な繰り返しに思わず笑ってしまった。

自分とは全く違うタイプだからかもしれないけど、こうやって正面から来るやつに俺は弱いんだ。

「お!やっと反応した!お前も行きたいよな!!プール!!」

「・・・あのな、”夏を制する者は受験を制す”って散々言われただろ?プールに行く暇なんて無いよ」

「いいじゃん!別に1日ぐらい!!」

本当に「いいじゃん!別に1日ぐらい!!」という目で真っ直ぐ俺を見つめてくる大志。こんな事言って”別に1日ぐらい”が何日も続いて、夏休みが終わった時に後悔するのは目に見えている。

「お前と二人でプールなんか行ってもどうしようもないだろ」

「二人じゃないって!!美波ちゃん達も誘って行くんだよ!」

・・・やっぱりそうか。

「勝手に言ってるけど、まだ了承得てないだろ?」

「いや、行くって言ってたよ!あとはお前だけなんだよ!」

さっきとは違う意味で頭が痛くなる。了承したのかよ。

大志は多分美波の事が好きなのだろう。休み時間のたびに話しかけに行って、それに俺も付き合わされている。向こうはちょっと迷惑そうな顔をしてる気はする。

好きな人にこんなに真っ直ぐに突っ走れるのは凄いと素直に思うけど、それが俺の頭痛の種になっている。


俺と美波が付き合っていることは、まだ大志に言っていない。

付き合い始めたのは2年の終わりだったから、3年になって同じクラスになれたのは嬉しかったけど、まさかこんなことになるとは思わなかった。

早く言わなきゃとは思っていたけど、言ってしまったらこいつとの関係も悪くなってしまうかも知れないと思うと中々勇気が出ない。

こいつだって高校に入ってから初めてできた友達なのだ。できる事なら両方の関係を壊したくない。

でも、こんな状況になってしまったのは、俺のせいなのだからもう受け入れて、腹をくくるしか無いのかもしれない。

・・・よし


「あの、大志。ちょっと言いたいことがあるんだけど」

「え?何?・・・あ、ポテトはあげないからな!」

ちげーよ。ちげーし、Lサイズなんだからくれてもいいだろ。

「そうじゃなくて、あの、美波・・・飯田の事なんだけど」

「ん?ああ大丈夫!!全部俺に任せとけ!!ちゃんとお前らくっつけてやるから!!」

「・・・は?」

「何?ばれてないと思ってたの?お前しょっちゅう美波ちゃんの事見てたじゃん!」

いや、見てたけど。それはこっそり付き合ってる者特有のアレというか。

「シャイなお前の為に俺がずっと間に入ってあげてたんだろうが!!いい加減じれったいからこの夏で付き合えちゃえってことよ!」

・・・ああ、そうか。

こいつって、こういう奴なんだ。

こうやって友達のために真っ直ぐ突っ走れる奴なんだ。

それが合っているか間違っているかは置いといて、その気持ちは素直に嬉しい。

こいつを見ていると野暮な事なんて言う気が無くなる。


「・・・よし、わかった。一緒にプール行って告白するわ」

「お!ついに決めたか!よしよし!!」

やっぱり俺は大志に弱いみたいだ。



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