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『無門関』第三十七則 庭前柏樹

無門禅師の本則口語訳

ある僧が趙州和尚に問うた。

「祖師西来意の真意とはなんでしょうか」

すると趙州和尚は「庭前の柏樹子」と言った。

説明

この本則も簡単な問答で禅の真意とはなんでしょうかと問うたところ。

趙州和尚は寺院内に生えている「庭前の柏樹子」といったのです。

これを説明するには哲学、言語学を借りてくるとよいかと思います。

専門家では無いのでうまく解説出来るかわかりませ。

さすれば哲学者、言語学者にましておけば良いのですが、悟りの真髄が解らないようです。

まずこの公案は主観と客観それに言葉との関係がどのように成っているのかと言うことを問うているのです。

ようするに禅の真髄を説明せよと言うのですが、言葉は真髄を説明出来ないのです。

しかしそれにもかかわらず言葉で説明するしかほかに方法がありません。

趙州和尚は僧の禅の真髄とは何かと言う問いに対して「庭前の柏樹子」と答えたのである。

「庭前の柏樹子」についての知識が無ければ難しいところがあるので調べてみたところ特徴があるので説明しておきます。

その特徴とはスギの木や銀杏の木、紅葉などと違って形が色々変化していることである。

種としての形に特徴が無いのが特徴である、絵に描くとすれば子供であれば迷うであろう。

特徴が無いということは言葉で表現出来ないのである。

「庭前の柏樹子」は言葉に要約普遍化するのが難しいのです。

言葉は物の普遍化と同時に種別間の関係によって成り立っていると考えられます。

犬と猫の違いは同じ動物で足が四本あるのは同じですが、まず大きさが違います。

鳴き方や性質もすこし違っているようです。

言葉はこの違いを単純化、平均化したものと考えられます。

スギの木はすこし離れた所から見ても誰がどのスギの木を見ても形に特徴があり一見して見分けがつきます。

だから一見して共通性のない「庭前の柏樹子」は言葉で説明出来ないと言うのである。

また何気なく「庭前の柏樹子」と言っているが、「庭前」と言う条件も見逃しできないのである。

また「庭前の柏樹子」をリンゴと言ったり山と言っても良いと言う意見もあるがやはりここは「庭前の柏樹子」でなければいけません。

これで言葉に機能と役割があることがわかったと思う。

それでは言葉の機能とは何かと言えば「庭前の柏樹子」を一つの型としてまとめることである。

言葉とは一般には紅葉は秋になれば色が変わるとか、

スギの木は槍を縦に立にてた形をしているとか文節して差別化することである。

ところが「庭前の柏樹子」は明確な言葉で表現出来ないというのだ。

というのは趙州和尚の見ている「庭前の柏樹子」は仏の働きその者だというのである。

だから西田幾多郎はこれを「庭前の柏樹子」を限定すると言う。

その意味は「庭前の柏樹子」が「庭前の柏樹子」を限定することによって、「庭前の柏樹子」と言う言葉をもつのである。

「庭前の柏樹子」が「庭前の柏樹子」を限定しなければ「庭前の柏樹子」とは呼べないのである。

なにか難しいことの様ですが、柏樹子は世界中に沢山あるが、「庭前の柏樹子」とは趙州和尚と僧が今、ここで見ている一本の柏樹子に限定していることです。

場所を限定していると言ってもよいでしょう。

今、こことは趙州和尚と僧が居るお寺の庭で、その庭内に生えている一本の柏樹子は言葉では表現できないと言っているのです。

まず柏樹子と言う「木」を知っている人は多くは無いでしょうと考えます。

更に趙州和尚と僧が居るお寺の庭に生えている一本の柏樹子を知る人はなお少ないでしょうといいます。

『無門関』の読者は今現在その一本の柏樹子を見ることも出来ないでしようといいます。

「庭前の柏樹子」は時間と共に成長し変化していてその姿は二度と見えないのです。

だから趙州和尚が見ている「庭前の柏樹子」は言葉で表現出来ないというのです。

要約すると万物は諸行無常と言うことで変化しないものはこの世界には存在しないと言っているのです。

だから変化し続けている現象を一言で表現することは出来ないのです。

言い方を変えれば万物と共に変化する心は一時も同じではないと言っているのです。

無門禅師の頌の口語訳

言葉は心を表現出来ない。

言葉で心の働きを知ることは出来ない。

言葉を真に受ける者は心を失う。

言葉に執着する者は迷う。

説明

眼にも止まらない速さで変化している心を表現することは出来ないといい。

そのような心を捕らえることも不可能だといいます。

変化する心を言葉によって留めてしまうと迷ってしまいます。

確かに迷いとは言葉を使う人間にのみ見られる現象に違いありません。

心を留めない練習が瞑想だったのでした。


参考引用
『公案実践的禅入門』秋月龍眠著 筑摩書房
『無門関』柴山全慶著 創元社
『碧巌録』大森曹玄著 柏樹社

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。



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