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「ノマドランド」感想~逆境の中に見た人間の強さ~

0.基本情報

・日本公開年:2021年

・監督:クロエ・ジャオ(「ザ・ライダー」など)

・主演:フランシス・マクドーマンド(「スリービルボード」など)

・上映時間:1時間48分

・配給:サーチライトピクチャーズ

・受賞:アカデミー賞【作品賞】【監督賞】【主演女優賞】

    ゴールデングローブ賞【映画部門作品賞】

    【金獅子賞】             など


1,予告編


2,あらすじ

企業の破たんと共に、長年住み慣れたネバタ州の住居も失ったファーンは、キャンピングカーに亡き夫との思い出を詰め込んで、〈現代のノマド=遊牧民〉として、季節労働の現場を渡り歩く。その日、その日を懸命に乗り越えながら、往く先々で出会うノマドたちとの心の交流と共に、誇りを持った彼女の自由な旅は続いていく──。

引用:サーチライトピクチャーズ公式


3,感想(ネタバレ注意)

前哨戦から多くの賞を受賞し、前評判通り作品賞を勝ち取った本作「ノマドランド」。ついに鑑賞することができました。本作が目指したもの、評価されたものは一体何だったのか、約2時間の中で本作が描いた「絵」とはいったい何だったのか。私なりに読み解き、解釈していこうと思います。


本作「ノマドランド」で扱ったのはノマド(遊牧民/放浪者)。遊牧…というワードだけ言われれば自由だとか時間があるなどよく聞こえますが、本作中に出てくるノマドたちは決して羨ましいといえる存在ではありません。ある者は業界内競争に敗れた企業の従業員、ある者はリーマンショックという社会の大きな波に飲み込まれてしまった失業者など、社会的な階級を一つ落とし止むを得ず車上生活を行っている者の総称、それが本作におけるノマドです。本作ではフランシス・マクドーマンド演じる主人公のファーンを中心に、amazonや飲食店の従業員、レジャー(というよりは公園?)施設の清掃、夜間の超肉体労働など、生活を維持するために働く様子が多く映されていましたよね。映像表現の観点からも、ノマドの生活の過酷さを裏付けるかのようにロングショット(引き目のショット)でファーンを小さく見せたり、一つのシークエンスにおける光量が少なくされていて全体的に暗く見えずらいパートがあったり、どこか短調に聞こえる音楽が流れるというような表現が施されていました。


類は友を呼ぶでしょうか、ファーンの人間環境を見ても彼女と同じようなノマドばかりが彼女の周りに集まっています。デイブのように自分よりも上の社会的階級にランクアップした者は特例で、スワンキーはノマドとして亡くなりましたし、メリダもノマドを続けたまま、物語全体で見てもファーンの目線(=ノマドの目線)ですから、その目線からは社会的階級で上位(例えば大企業の社長や大富豪など)の者の存在は確認できませんでしたよね。資本主義社会の定めですが、基本自分が属した階級より上にいくことはなく、同じ階級の中での変動しかおきません。身近なところで言うと、医者の父を持つ息子って都道府県内でも名の知れた有名高校/大学に進学しているのは息子を塾に行かせたり留学させたりと教育に多くの金を注ぎ込む余裕があるからなんですよね。当たり前ですが、この社会では階級を決めるのは資本だと思います。つまり、それがないノマドたちは富のある資本家に労働を提供する運命なのです。過酷ですが、悲しいことにこれには抗えないんですよね…


ですが、本作は社会風刺「こんなかわいそうな人たちがいるから社会(政府とか)が救済してあげろよ!」というような作品ではないような気がします。


本作において私が一番印象に残ったのはファーンがデイブに「一緒にここに住まないか?」と誘われるシーンです。上記のように、ハウスレスで自分の家を持つことができないかつ自分が属する階級では滅多にない機会をファーンは与えられました。外の気候の影響を受けたり、長い距離を移動しなければいけなかったり、過酷な労働をしなければいけないノマドから解放されるまたとないチャンスを彼女は手に入れたのですが、結局彼女はノマドとしての暮らしから脱する選択を行いませんでした。何故彼女は好条件を自ら放棄したのでしょう?ここには様々な解釈があるかと思いますが、私の解釈は「人間のたくましさ・強さ・美しさ」故の選択だと考えています。物語中で提示されますが、ファーンは当然初めからノマドだったわけではありません。おそらくはじめは何もわからなかったのでしょうが、職をみつけてノマドのキャンプつまり一時的なまとまりのようなものに属し、家のベッドより自分の車の中で寝るには自身の環境に適応しました。(愛着が湧いたという方が正しい?)特定の気候だと育たない植物などありますから、本作から恒温動物である人間の環境適応能力の高さを見ることができます。また、ノマドの暮らしはノマドしかできないものではなく、上流階級の人たちも行うことができますよね。例えば、超優秀で稼いでいるWebデザイナーとかだとパソコンだけ持てば時間も場所も気にしなくていいので、マイアミのビーチに行ったりできるかと思います。そういった上流階級に比べて、すべて義務的で圧倒的に選択肢が限られている中でも大自然に価値を見出すことができている点から、人間の真の美的センス・感性・逆境でもモノを楽しむことができる美しさを私は強く感じました。


今日では、世界中で新型コロナウィルスが抗えない巨大な力として猛威を振るっており、ある意味世界中にノマドのような人間が量産されているような状況です。私と同じように就職を控えている方や実際に働かれている方においては、AIやIoTなどのテクノロジーの発達によって今後求められる人物・人材像の変化や産業構造の移り変わりなど大きな社会変革があるかもしれません。日本でこの時期にこの作品を公開したことは、フィクションをリアリティに、つまり将来性が不透明で現状打開が難しい現代における「新しい生活様式・捉え方」の提唱、ないしは小さな幸せをつかみ取るための行動を喚起する。そういった意味がもしかしたらあるのかもしれませんね。


以上、「ノマドランド」感想でした~

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