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【青春恋愛小説】いつかの夢の続きを(11)

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〈11〉もうめぐらせなくてもいいの。しぼんだ肺のままでもね。

医師が言うには、失神してしまっただけで、命には影響ないとのことだった。
藤崎さんが頭を下げ倒し、優衣はホテルで反省しているとのことだ。
私は特に気にしていないことと、ことを荒立てるつもりはないことを伝えた。

「ごめんなさい……あの子、最近不安定なの。だからあなたが傍にいれば少しは改善するんじゃないかって……私の監督不行届だわ」

「そうだったんですね」

優衣は私と同じだ。
自分を見失ったせいで、誰かに依存することで、それを満たす。
一つだけ違うとすれば、私は求めることに対して優衣は力づくで手に入れようとする点が違う。


「撮影も色々立て込んでてね」

「わかります。私もそうだったから……」

ストレスとは人を豹変させるのだろう。
だとしたら、美夜子もそうなんだろうか?
私はどうだろうかと胸に手を当てて考えたが、さっき家で物に当たったばかりだったことを思い出して鼻で笑った。

「本人に直接謝罪させようと思うけど……大丈夫?」

「大丈夫です」

とりあえずホテルに戻ることになり、藤崎さんの車に乗り込んだ。
そして藤崎さんも同席して私は優衣に対峙した。

「さっきはその……ごめんなさい」

「いいよ。疲れてたんでしょ?」

「ひなちゃん……」

「わかるから。気持ち。私だって色んなプレッシャーに押し潰されそうにながら、自分を擦り減らせて頑張ったけど……結局残ったのは空っぽの自分だったから」

「え?」

「辞めたからこそかもしれない。それまでは役柄で空っぽの自分を埋められたけど、今はどうしようもなくて、必死に他のもので代用しようとして、失敗して……」

「ひなちゃん……」

「けど、私決めたんだ。自分に素直になろうって。これまで自分を抑えてお芝居してたけど、それじゃあ私ってなんだ、私自身じゃなくて私が演じる役が必要で私は要らなかったんじゃないかって。だから、私は自分らしさを取り戻したいってこんなところまで来ちゃった」

優衣は泣きながら私の話を聞いていた。

「だからさ、優衣も旅に出ればいいと思うよ。色んな所に散らばった自分を探す旅。それは近所にあるかもしれないし、親しい誰かの中にあるかもしれない。遠くの村にあるかもしれない」

「ひなちゃんは見つけられたの?」

「どうだろう。優衣の中にあるものは見つけられたし、それで他のも色々見つけられた気がする」

「……私にできるかな」

「できるよ」

私は優衣を抱き締めた。
優衣も私の背中に腕を回して抱き締める。

「やっぱり、ひなちゃんは私のお姉ちゃんだ」

「同い年なのに、昔からそう言うよね」

「うん。精神年齢は私の方が低いから……」

「そうね。その方が優衣らしいわ」

抱擁を解き、優衣は涙を拭い藤崎さんを見た。

「藤崎さん……色々迷惑をかけてごめんなさい」

「いいのよ。迷惑かけられるのが、マネージャーなんだから。これからもいっぱい迷惑かけなさい。陽菜ちゃんだけじゃなくて、私だってあなたのお姉さんのつもりなんだから」

藤崎さんは優衣の頭を撫でると、優衣はまた泣き出した。

「ねえ、ひなちゃんにもこうしてくれた人いるの?」

「え、なんで?」

「なんか、気づくきっかけがあったんじゃないかって思って」

「うん……そうね。いるかな?」

「その人のこと好きなの?」

「わからない。わからなくなって家を飛び出してこんなところまで来た。でも、今ならはっきり気持ちを伝えられると思う」

「頑張ってね」

そう言うと、私にこの部屋を使うように言って優衣は藤崎さんの部屋で一緒に寝ると言い二人は出ていった。
広いダブルベッドの上で私は大の字になりながら天井を見ていた。
スマホを見ると、日付が変わっていた。
何度見ても不鮮明な星空の写真を削除した。
美夜子はもう眠っているだろうか?
きときとみゃーこのアカウントを見ながら、私は眠りに就いた。
朝、シャワーで目を覚ましてロビーに行くと、優衣が撮影の打ち合わせをしていた。

「あ、ひなちゃん!おはよー!」

「え、咲洲ひな!?」

打ち合わせ中の監督が驚きながらそう言った。

「お久しぶりです、三宅監督。ちょっと痩せました?」

「逆、逆!太ったよー。それで、何でいるの?」

「んー、優衣の応援に? でももう帰るんですけどね」

「うわー、本当ならひなちゃんに頼みたかった役があったんだけどなー」

「ダメですよ。前の事務所との約束があるんで、しばらくはどうやってお戻れませんから」

「そう、だよなぁー」

三宅監督は頭を掻きながら打ち合わせに戻った。

「それじゃあ、優衣頑張ってね」

「うん!またね、ひなちゃん」

私はホテルを出てタクシーを探した。
少し離れたところで藤崎さんが手を振って合図を出してくれていた。

「駅まで送りますよ」

「え? いいんですか?」

「色々お話ししておきたいこともあるんで……」

その話が何なのか検討付かず、私は助手席に乗り込んだ。

「すみません。狭い助手席で。でもこの距離で離した方がいいと考えたので」

「いえいえ、別に所属タレントでもないんで……」

「単刀直入に伺います。戻ってくる気はありますか?」

「はい?」

「以前の……マーメイドプロダクションとウチが業務提携した話は知っていますか?」

「風の噂で聞きました」

「そこで、マーメイドの悪事を色々と伺っています。あなたのお父様のことも……」

「……」

「それが原因でマーメイドを辞めて芸能界から退いたと」

「それは……お母さんのこともあって」

信号が赤になり、車は止まる。
フロントガラスに日が差し込む。

「向こうと結んだあの退所条件の念書、ウチに来るなら無効にできますけど、どうしますか?」

「……お断りします」

「何故ですか?」

「暫くは普通の高校生でいたいんです。それに今はお芝居をしたいとかそういう意欲がないんです。だから、我儘ですけど、やりたくなったら……」

「わかりました。その時は是非、ウチに声をかけてくださいね」

離しているうちに駅には到着していた。
私は差し出された名刺を財布にいれて、改札へと向かった。
快速電車だったので、思ったより早く家に戻り、制服に着替え学校へ向かった。


「陽菜」

「わっ!美夜子!」

橋袂の交差点で後ろから声を掛けられた。

「その……昨日は……」

「ううん。気にしないで……私、何とかなりそうだから」

「違う。その……汗をかいていたから恥ずかしくて」

顔を赤くする美夜子が可愛すぎて私はぶっ倒れそうになった。

「私も、いきなり抱きついてごめん」

「ううん。それで、あの後は家に帰ったの?」

「いや……」

「どこか行ってたのね。大丈夫、私気にしてないから」

「え?」

美夜子はそういうと足早に歩き始めた。
私はそれを追うように、ついて行った。

「ちょっと!待ってよ!」

私は美夜子の腕を掴む。

「言ってくれないとわからないよ!」

「……私を頼るものばかりと思っていたから。そんな自分が恥ずかしい」

「美夜子……」

「私、あなたが思っている以上にあなたが、陽菜が好きなの。一緒にいるだけで、ドキドキして我を失いそうになる。だから、学校では距離を取らないとって」

「そう言うことだったのか」

でも私は一つ引っ掛かっていた。
じゃあ、あの仲良さげに話していた図書室の男子は誰だ?

「おーい!陽菜ー!」

沙友理の声がしてそちらを向くと、美夜子はスッと距離を取った。

「ん? 噂の二人だね。まあ、私はクラスメイト同士仲良くするのはいいことだよ思うよ?」

「そうだよね……私もそう思う」

「……」

「み、立山さんは人見知りだからねぇ」

「まあ三島から陽菜を守ってくれた人だしね。結構アレで立山さんの評判上がってるし……」

まさか、それで守ってもらいたい系男子から言い寄られているとか?
邪推も邪推だ。慎もう。

「私は別に、人気者になりたいわけじゃないから」

「えー、私も守ってもらいたいなぁ」

美夜子にくっつく沙友理。それを見てモヤっとしながら私はついて歩いた。
美夜子も特にそれを気にしているような雰囲気は無く、普通に歩いている。

「ん、どうしたの陽菜」

「いや、なんでも……」

気にするな。平然としろ。そうやって演じろ。
結局、演じることをやめられないのか?
また偽物の自分を演じる?
私は何のために一晩悩んだ……。
優衣の唇が、優衣の指が、あの感触が忘れられない。
まるで、美夜子のを上書きしたような……でも、あの時はそれを拒んだつもりだったのに、今はそうではない。
美夜子が誰かと一緒にいることが嫌なのか?
自分の中の気持ちの整理を私はできないまま教室へとついた。

「どしたの? 陽菜」

私は並んでいる机にぶつかりながら、自分の席へと辿り着いた。

「あ、あれ? 考え事してたら……」

その時、スマホが鳴る。そこに記されていた名前に私は驚く。
教室を出て、階段の踊り場へと行く。

「もしもし」

『久しぶりだね。ひなちゃん』

「黒部社長……」

『今朝、三宅監督の現場へ行ったんだって?』

「いや、あれはたまたま行った先にロケ隊がいただけで……」

『そうか……いやてっきり復帰する気になったのかと思ってね。多分、ミュジークの藤崎さんから聞いてると思うけど、うちに、それからミュジークで復帰するなら、あの時の念書は無効だから。いつでも戻ってきなさい。もちろん、うちに戻ってくるのは嫌だろうが……』

「そうですね……しばらくは普通の学生生活を送りたいです」

『わかった。それだけ確認したかったんだ。学校の忙しい時間に悪いね。それじゃあ』

社長はそう言って電話を切った。
教室に戻ると、急いで出て行った様子を見ていた健斗にあれこれ尋ねられて疲れた。
業界はいろんな意味で狭いのか、私が今朝に三宅監督に会ったことが噂になっているらしい。

昼休みは中庭で平岡と昼食だ。
今日はたまごサンドと唐揚げだ。

「それで足りるん?」

「十分だよ」

「ええなぁ。体型キープとかプロやもんなあ」

「え、平岡さんも十分痩せてるよ」

「そら、見え張って制服採寸の数字ちょろまかしたからなぁ。結構タイトやねん」

パツパツの背中に腹回り。
普通にみれば、サイズあげたほうがいいと思うが。

「私は、ぽっちゃりしてる方が好きだなぁ」

「え、ほんまに?」

「全身柔らかいとかめちゃくちゃいいじゃない」

「……てか、私女の子同士って趣味ないからな」

「わかってるよ」

私はたまごサンドの最後の一口を放り込むと。立ち上がった。

「どうしたん?」

「図書室行ってくる」

「え、ちょっと。私も行く」

私達は図書室へ向かった。
階段を登ってすぐ。2階にそれはある。

「私、初めてやわ。そういえば立山さんがよく本借りてるの見るけど……」

私と平岡が奥へと進むと、美夜子の後ろ姿が見えた。

「え、あれって……」

「……っ!」

そこで見えたことは私はあんまり記憶がない。
ただ、それを見てすぐ、私は教室に戻った。


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