見出し画像

私たちの婦人科疾患―卵巣のう腫編4 MRIってうるさい

MRI検査の事前説明でも、ビビらされる

いよいよ週末、土曜日。MRI診断の日。

MRI前は絶食を言い渡され、前日・当日と水分で凌ぐことに。
数日前から咳が出ていたが、絶食というのでこまめに水分をとり喉を潤してごまかしていた。

実は、検査前に打ち合わせを一件入れていた。
ランチを食べる流れになったら、気まずくなるな~なんてぼんやり考えていたが、打ち合わせ相手はランチはよそで食べる予定があるとのこと。
ほっとしつつ、アイスティーのストローをぐるぐるかきまわしながら、小洒落たキャリア・ウーマンを装う。
内心はこの後のMRIのことでいっぱいいっぱいだったもの、なんとか押しとどめた。

午前中の打ち合わせも無事に終了し、早めにクリニックへ向かった。
クリニックは、病院のすぐそばの、オフィスビルの一画にあった。
トイレを済ませ、クリニックの受付に。

「順番にお呼びしますのでソファにかけてお待ちください。お小水は行きましたか?」
「あ、はい」
「あーそうなんですか……身体に水分が残っていた方が検査に良いんですよ~」

なんと。
トイレには行かない方が良かったようだ。
余計な気を回したということか。

「自販機がそこにあるので、水分を取ってお待ちください」
「あ、はあ」

ソファに座って待っていると間もなく名前が呼ばれた。

「診察室へどうぞー」

診察室へ入ると先生が座っていた。
「卵巣のMRI検査ですね。検査についてご説明しますねー」

「こちらの同意書にサインをお願いします」
渡された同意書に目を通す。

MRI検査には危険性があるとのこと。
体内異物・金属が破壊や誤作動を起こして、やけどや障害、時には死亡
つながることがある。
造影剤の使用が、重篤な副作用(ショックやアナフィラキシー)を起こす可能性があり、死亡例も【100 万人中 1 人】報告されている。軽い発疹や吐き気などは【1000 人中数名】起きる可能性がある。
などなど……

卵巣の腫れが発覚してから、ビビり通しだ。
でも、検査をしないわけにはいかない。
同意書に署名して先生に渡す。

造影剤は検査後も、下のような症状があらわれることもあるらしい。

・発疹(かゆみ)
・気持ちが悪い
・めまい
・胸が苦しい など

なにかあった場合は、クリニックに、夜間は救急に、との案内用紙をもらった。検査後1週間は保管するようにと。

「何か質問ありますか?」
「咳がここ数日止まらなくて……でも、検査前は絶食と聞いていたので我慢していたんですが……」
「あー、のど飴くらいなら大丈夫ですよ」

……大丈夫でした。
苦しくても我慢してたのに……

「検査着に着替えてこちらでお待ちください」

ロッカーに案内されて検査着を手渡される。
着替えて検査室の前で待つ。

ゴウンゴウンゴウンゴウン……

うるせー。
扉の向こう側から、新幹線の車内にいるような低い重低音が響く。
自分の番になりいよいよ検査室に入る。
真っ白な部屋の真ん中にMRIの機械が鎮座している。
部屋の中はさらにうるさい。

ゴウンゴウンゴウンゴウン……

検査技師さんや看護師さんに導かれ、MRIに横になる。

「固定しますねー」

ズシッ!

言うやいなや銀色の体育マットのようなものを腹の上に掛けられた。

「ぐふうっ!」

これはヤバイって!
先日の診察時、先生に言われた言葉を思い出す。

「破裂することもあるから」

破裂しちゃう破裂しちゃうって! こんな重さ腹にかけたら破裂しちゃうってば!!

私の思いは届かず、銀色のマットのようなものの上から、さらにぐるぐると固定されていく。

苦しーしうるせー……
すでに私のテンションはどん底まで落ち込んでいた。


注射と相性悪いと人生つらいよね

「検査薬入れますねー」

「……あれっ、あれ……入らないなあ~」

ギクッ。
そう。
私の血管は注射器との相性がすこぶる悪いのだ、看護師さん泣かせだ。

「あ~入らないですよね~よく言われます。採血とは違う血管を探してるんですよね?」
「そうですね~」

採血なら、ここ数年の健康診断でベストポジションが分かってきたので、うまい看護師さんにそこをピンポイントで攻めてもらえれば行けるようになっていたのだが……
結局、看護師さんは一通りの血管をサワサワ探した後、左の親指からまっすぐのばして手首と交差するあたりに狙いを定めた。
こんなところ、注射器で刺せるんか……

画像1


蘇るのは遠い記憶。
たしか小学3年生の時のこと、入院して人生初の点滴を体験した。
もう25年くらい前のことになるのか、時の流れって怖い。
とにかくその入院時、点滴でさんざんな思いをしたのだ。
当時から看護師泣かせの血管を持っていた私は、まず左腕を点滴漏れでダメにし青アザをつくった。
ついで右腕、左手の甲、右手の甲と青アザを大量生産させていき、とうとう泣きながら足の甲に点滴を打たれる事態に陥ったのだ。
あれは恐ろしい体験だった。
そして、子どもながらに骨と皮しかないようなところにも点滴を打つことがあるのかと感心した。

そんな遠い昔に思いを馳せているうちに、なんとか看護師さんは私の左手首に検査薬を注射してくれていた。
針をテープで固定したあと、おもむろに私の左手のひらにそっと注射器を置いた。

「これ、持っておいてください」

あ、持つの? そういうものなの?
なるべく点滴のようなものは触りたくないんだけどっていうか、関わりたくもなかったんだけど……

画像2


「検査中はうるさいのでヘッドホン装着しますね〜。それじゃあ検査始めます」

看護師さんと検査技師さんは慣れたもので、さっと準備をすませて部屋を出て行った。

ゴウンゴウンゴウンゴウン……
キュルキュルキュルキュル……

私の寝ている台がだんだんと筒のような部分へ吸い込まれていく。
重低音にプラスされて、高音の機械音も響く。うるさい。
申し訳程度にヘッドホンから流れるクラシック音楽では到底この騒音には太刀打ちできない、というか音の質が違う。

それでもこのとき私が苦しめられたのはこの騒音ではなく、自らの咳だった。
検査前に「動くとうまく検査できないので、動かないでくださいね」と注意を受けていた。
動いちゃダメだ、動いちゃダメだ、動いちゃダメだ……
どこかの中学生かのごとく必死に自分に言い聞かせてみたもの、生理現象に敵うわけはなく、喉の奥はダメと思うほどにムズムズする。
しかも悪いことに、咳を我慢すると気管の奥でむせて、さらなる咳を誘発する。
ならば小出しに咳して身体が震えないようにするのはどうだろうか……

検査時間はおよそ10分ほど。
咳と格闘して終わった。

検査結果は大学病院で聞けるらしい。
病院に結果を送るから、と配送料も会計時に支払うことに。
隣かってくらい近いし、私が持っていきましょうかって言ってしまいそうになる。

どうか、大したことありませんように。

2017年8月12日
初診料、医学管理料、画像診断料
支払い金額 11,200円

配送料 650円


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?