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【大学入試】小論文対策の第一歩には「NHKのニュース」が使えるぞ、というはなし。

あるトピックを語る複数の視点を提示する」という点で、NHKのニュース記事は小論文のビギナー学習者には向いていると思います。そんなはなしです。*NHKの宣伝のつもりはありません。

【この記事の Hop Step Jump】



*Hop !  小論文のむずかしさ、そのある一面の考察

あるトピックに対する自分の意見を、
「何でそう言えるのか」とともに綺麗にならべて見せる。

個人的に、それが小論文の基本だと思っています。ただ、ある一面として小論文に求められるものは書き手の【オリジナリティ】…したがって、文章の書き手の意見をなぞって「納得納得大共感!」という小論文がどのように評価されるのかはブラックボックスだと言えます。例を挙げると、北九州市立大学法学部の小論文問題に関する【出題の意図】には、筆者の意見をなぞる小論文に辛口の評価が書いてあったり。つまり場合によっては、筆者の意見に全面的に賛成し、共感するような切り口の小論文は低く評価されることもある、ということがわかります。

(筆者が提示するとある立場からトピックを論じた場合に、)筆者の意見をほぼなぞっている答案が多く、それらは低く評価された。(北九州市立大学法学部, 2019, 2) *()内筆者補足

https://www.kitakyu-u.ac.jp/uploads/H31%20zenki%20ito%20hougaku.pdf

これは裏を返すと、筆者の切り口に対して、別の視点から考察して反論や課題点を指摘する【独自性】が高評価につながるとも言えることになります。つまり小論文では、課題文にたいして、「たしかに筆者の言ってることはこういう面では正しい。でも一方で、別の視点から考えれば…?」という、クリティカルな思考を発揮することが重要である。そんな一面があるわけです。

でもこれって、かなり難しいことだと思います。なぜなら、そもそも課題文自体が読み手にとって斬新な視点や、新たな思考を伝えるものである上に、それらが、納得できるだけの根拠とロジックと一緒に提示されている場合が多いからです。ですので、クリティカルな思考に慣れていない小論文ビギナー学習者が、筆者の意見に圧倒されたり、あるいはそれをひたすらに受容する【受動的読み】に終始してしまった場合、筆者の主張に対してクリティカルな姿勢をもつことは困難を極めます。つまり「他の視点から考えてみようよ」といっても、そもそも他の視点が思いつかない、あるいは、指導側のヘルプがないと視点の切り替えができない、と言った状況に陥ってしまうわけです。

この打開策として一つ考えられることは、多様な視点、つまりあるトピックについてそもそもどんな視点が存在するのか、をなによりもまず実際に知る、ということです。

これについては、「本を読む」や「ひとつの話題に、複数の媒体の記事を読む」といったアプローチがあるかと思いますが、小論文ビギナーにこれはハードルが高い… そもそも時事問題系の知識を蓄えることで手一杯になって、切り口まで頭をまわす余裕がないよぅ、なんてこともしばしば。うーん、時事も多様な視点も、一切合切全部とりこんで、かつ、ざっと俯瞰したものをみせられたらなぁ…と考えていて思い出したのが、以前読んだ Philip Seaton 教授の研究でした。


*Step !  メディア・スタディーズ/歴史学の知見から … 【視点】を知る学び

Seaton(2007)では、日本において第二次世界大戦の「戦争記憶」がいかに形作られ、また分裂し、継承されるのかを紐解くもので、そのなかでメディアについても分析が行われています。

参考になったのは、NHKの報道姿勢に関する考察です。研究では、公共放送局であるNHKが、街頭インタビューでconservative (保守的)な意見からliberal(リベラル)なもの、はたまた「今日(8/6)は何の日?しらなーい」といった無関心にいたるまでをさまざま織り交ぜながら、戦争を語る多様な視点を報道に採り入れる傾向があることが指摘されていました。このような報道アプローチによって、政治的に中立な報道姿勢を保とうとする、とのこと。

この政治的中立に関しては、Seaton教授も含め多くの論者が問題点を指摘している、という一面もありますが、それはおいといて。「起こったこと」のレポートに終始する記事だと、時事ネタ収集にはなりますが「どう考えるか」のモデルは見出しづらい。一方で「意見・主張を含むレポート記事」には、俗に言われる報道機関の(政治的)立ち位置の話が関係しており、基本的には1トピックにつき1視点を提示して、その視点からトピックを掘り下げるといったアプローチになるため視点の多様性に欠けます

この各メディアの報道姿勢の差異が「ひとつの話題について、複数の媒体の記事を読もう」と言われる所以だと思いますが、一方でNHKのニュース記事ではある意味「浅く広く」いろいろな視点が提示されています。例えば、昨年イギリスで執り行われたチャールズ国王の戴冠式に関する記事を見てみましょう。

「戴冠式を喜ぶ人の声」、「君主制に批判的な若者の声」、「君主制に反対する声への意見」、「生活費の高騰といった社会的問題と結びつけた戴冠式自体への批判の声」など、君主制の良し悪し以外も含むさまざまな視点がレポートされています。まさに、時事も多様な視点も、一切合切全部とりこんで、かつ、ざっと俯瞰したもの、という内容になっています。時事ネタの要約に加えて、「このトピックについて、人々はざっとこんな視点からこんなことを考えてるよ」という、テーマにまつわる多様な切り口を、簡単にざっと提示しているわけです。というわけで、実際に授業に取り入れてみました。


*Jump!  時事とそれを語る【視点】の学びへ

「イギリスで新しい国王の戴冠式があったんだってさ。どう思う?」という発問に対して、パッと考察を展開できるのであればいうことはないです。ところがこの手の地理的にも、そして知識的にも「遠い」トピックは、「そもそも何を考えたらいいか検討がつかない」から困るわけで、「さぁ、考えてみよう」と言っても何も始まりません。

NHKの記事を使って、【どんなことがおこったのか】という時事ネタの知識と【それについて人々がどのように考えているか】という視点を導入します。指導の組み立てとしては、

  1. 要約的課題: どんなことがおこったのか、をまとめる

  2. 読解的課題: トピックに対してどんな意見が提示されているのか、をまとめる

  3. デスカッション的課題: 下で詳しく

  4. 小論文練習: 小論文でもいいし、口頭でもよし

という流れを作りました。ディスカッション的課題では、例えば「どの考え方がしっくりくるか、共感できるか」という方向のファシリテーションや、「対立する視点を取り上げてそれぞれの主張について考える」といった活動を行います。応用として、興味深い視点をこちらから指定して、それに関するキーワード(例: 君主制 是非)の検索から他媒体の記事にアクセスし、一段深い考えに触れる、といった活動もしました。

このような活動を経ることで、いざ自分の考えを作って小論文を書くぞという時に、「自分にとってどの視点が一番書きやすいかな」や「どの視点から書こうかな」といった検討が可能になるわけです。また対立する視点を複数見せることで、後々【譲歩構文】を導入する布石にもなります。素材文は際限なく湧き出ますし、小論文だけでなく要約のいい練習にもなりますので、とっかかりやすい小論文対策だと考えています。何より無料ですしね。

というわけで、小論文対策の第一歩には「NHKのニュース」が使えるぞ、というはなしでした。

フリー教材サイトはこちら: 【ぺだごじかる

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References
・北九州市立大学法学部. (2019). 出題の意図. https://www.kitakyu-u.ac.jp/uploads/H31%20zenki%20ito%20hougaku.pdf

・Seaton, P. (2007). Japan’s Contested War Memories: The “Memory Rifts” in Historical Consciousness of World War II . Taylor and Francis. https://doi.org/10.4324/9780203963746

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