見出し画像

歴史を「平面」ではなく「立体的」に捉える

歴史小説を書く際に、個人的に大切にしていることがあります。

それは、歴史を「平面的」に見るのではなく、「立体的」に捉えるということです。

たとえば、日本の古代をモチーフにした小説を書く際、皆さんはどんな資料を探しますか?

有名どころの歴史書と言えば「古事記」「日本書紀」の、いわゆる「記紀」があります。

地方の歴史を扱ったもので言えば、いくつかの「風土記」が残されています。

しかし…公的に編纂された歴史書だけが「日本の歴史」でしょうか?

歴史は、歴史書以外にも、様々なところに残されています。

たとえば古い神社の「縁起」には、その地方の信仰や神々の「歴史」が刻まれています。

古くからある地名には、その土地が「どんな土地だったのか」――その由来が秘められています。

そもそも歴史を見る術は「文献」だけではありません。

人物や建物、器物の「埴輪」は、古代の日本人が「実際に目にしていたものたち」を「形」に残したものです。

万葉集などの歌集に残された「和歌」は、古代の日本人が「想い」や「心」を「文字」で残したものです。

そういった、あらゆる角度からの「歴史」を集めてまとめれば、もっと多角的で、肉厚で、生き生きとした「歴史」が描けるのではないか…そんな風に思うのです。

その思いは、「歴史ファンタジー」「和風ファンタジー」であっても変わりません。

実際、古代日本風な世界を舞台にした和風ファンタジー小説「花咲く夜に君の名を呼ぶ」を書き始める前、自分は、ありとあらゆる角度から「日本の古代」を見つめ直しました。

まず執筆前、上野の東京国立博物館に行き、ヒロイン花夜のモデルとなる巫女埴輪に会って来ました。

物語のキー・アイテムである五鈴鏡や、古い刀剣も、実際にこの目で見て来ました。

(ついでにミュージアム・ショップで資料になりそうな本をガッツリ買い込んで来ました。博物館・美術館のミュージアム・ショップは、売っている本の「テーマ」が絞られているので、資料探しに便利です。)

実際に実物を目にすることで、作者の意識も変わるように思います。

歴史を「紙の上だけのもの」でなく、「手に触れられる、リアルなもの」として意識できるようになります。

物語中で描写する際にも、頭の中にその「物」が、よりリアルに想像できるようになります。

さらには、万葉集や古語拾遺など、様々な文献を漁り、「古代の言葉」をピックアップしていきました。

(現代人が読んで違和感の無い程度に)「当時の言葉」を散りばめることによって、より「その時代らしさ」を出せるのではないかと思ったからです。

自分は史学部でもなければ日本文学科でもないので、ほぼ1から「古代を学ぶ」ことになり、執筆前の「準備期間」だけで半年かかってしまったのですが…

結果的に「それまで自分の引き出しに無かった世界観」を描くことができ、満足しています。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?