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感想 貸本屋おせん 高瀬 乃一 貸本屋 の女性が遭遇する本にまつわる色んな話しです。面白かった。



オール読物新人賞受賞作品を含む短編集です。
受賞作は、正直に言うと物足りない感じがしました。
読んでてあまり内容が入ってこなかった。上滑りしているような感覚。
ただ、この設定は面白い。
だから、他の作品はなかなかいい感じです。

5篇が収められています。

一話 をりをりよみ耽(ふけ)り
二話 板木どろぼう
三話 幽霊さわぎ
四話 松の糸
五話 火付け


主人公は、貸本屋の女性。
イメージとしては移動図書館。
ただし、本は貸出のみで有料。
本屋で買ってきたものと、写本があり、この写本はわかりやすく読者に優しいのです。

梅鉢屋(うめばちや)というのが店の名前
店舗はありません。
本を風呂敷で担いでお得意さんの所を廻るというスタイルなので、かなり体力のいる商売だと思います。

モチーフは本と絵です。
読みごたえがあったのは、幽霊さわぎと松の糸

幽霊さわぎは、美人絵の類の話しです
ある美人の後家さんが、亭主の葬儀中に、店の手代とHなことをしていて
それも死体のすぐ横でです

それで亭主が一瞬起き上がる
つまり幽霊さわぎ

この未亡人の美人画にまつわる話し
最後のオチがいい

ミステリー形式です。

松の糸もミステリー形式の秀作。
この作品のオチは最高にご機嫌です。
この作品だけでも読み応えありますよ。

モテモテの若旦那がいて
その人に、貸本屋のおせんさんが相談事をされます。
ある未亡人に惚れた。
その人が、結婚の条件に、死んだ夫が持っていたという写本を手に入れて欲しいというのです。
しかし、それは源氏物語の中の一つで幻の本
雲隠
存在していたかどうかもわかんないというもの

その無理難題に、僕はかぐや姫のあのミッションを想起しました。

このオチは二段落ちで
どうして、その本を探していたのか
その理由がわかった瞬間
目の前の景色が一変します。
とにかく読んでもらうしかない。素晴らしいオチでした。

板木どろぼう という作品も面白く。
板木とは、印刷の原板ですね。
この板木がなくば、本を印刷できない。
本屋が何人か集まり、お金を出し合います。
出版するには、金がたくさんいるからです。
その出資金に合わせて板木を配分されるのです。

その大切な板木が盗まれた。
今で言うところの小説家の生原稿みたいなものです。

これはある事件について書かれたものなのですが
事件被害者である犯人が怒り破棄しようとするのです

さて、被害者家族を傷つけるような本は必要なのでしょうか?

おせんは言います。

本は一場のたわむれだ。ありもしないことを、さも当たり前のごとく書き示した本や絵巻は、人の目にふれなければ無いに等しい。だったらなくてもいいと御公儀は断ずるだろうが、ささやかなたわぶれ心によって、町びとは生き希みを得ることもあるのだ。

読んで救われる人もいるのだ。
ということです。
だから、本は必要なんだと、おせんは言っています。





2023 2 23




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