ファンタジー小説なのですが歴史小説の臭いがする。
重厚で後半は微かに感動すらする物語でした。
鳳穐と旺廈という二つに分かれた王統があり内戦状態がずっと続いていて国土は荒れ国は弱体化している。
どちらの家系も相手を殺したいほど憎んでいる。実際に出逢えば殺し合いとなる。
最初のほうに出てくる、この言葉がいい。
薫衣は捕虜である。旺廈の頭領だ。一族のほとんどを今の王の父の先王鳳穐の頭領に殺された。
今の王は敵の子だ。親や仲間の敵だ。
その敵の子から申し出があった。
それはありえないことだった。
我らがいま、翠のためになさねばならない、もっとも重要なことが何か、おわかりか
和平の提案。
しかし、そんなことはできるはずがない。
この無毛な戦いに終止符を打とうというのだ。
それは簡単なことではない。
王や、その家族を根絶やしにしても、この戦いは終わらない。
この戦いの末にあるのは全滅だけだ。
なぜなら、恨み骨髄。頭領が消えたら、親族の誰かが、その部族の頭領となり
憎しみの怨嗟を生むだけなのだ。
内戦などしている余裕は、この国にはないのだ。
王の妹をめとり、王の義理の弟になり城に住めと王は提案する。
しかし、それは許されぬことだ。
王は敵である。
この憎しみの本質とは何なのか?
彼は王の申し入れを受け入れる。
彼の義理の弟として生きることにした。
それは孤独な戦いだった。
負け犬と謗られ、仲間からも不信感を・・・
外国の敵が襲来した時、薫衣は総大将に任命される。
しかし、部下たちは馬で戦場に赴くのに自分は窓のない馬車で・・・
まるで囚人のような扱いだった。
薫衣は、常に四面楚歌だった。
誰も彼を理解してくれない。
見方であるはずの一族の者たちからも不審な目で見られていた。
しかし、薫衣には良き理解者がいる。
それは義理の兄である王である。
そう、理解者が一人いれば、この難事を耐え抜くことは可能なのだ。
この最後の性善説にたった王の考え方は好きだ。
この二人の頭の生き様はなかなかに面白い。
2022 7 16