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書評 神様に一番近い動物 ~人生を変える7つの物語~  水野敬也   表題作は牛を擬人化することで、読者に人間を別の視点から見せる作品。良く出来ている。

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夢をかなえるゾウ の作者なので自己啓発系の話しかと思って読んでいると
そういう話しもあり、そうでないものもあった。
駄作もあるので注意。ミステリーは正直、読めないlevel。

童話「三匹の子ぶた」のその後を描いた「三匹の子ぶたなう」は、常に人間は変化していく生き物であるべきだという教訓を示していた。
単純なパロディの中に、安定に対する危険性が描かれている。


『 最も 強い 者 が 生き残る のでは ない。 唯一 生き残る のは、 変化 し た 者 だ』 by チャールズ・ダーウィン

3つの家のうち、藁の家は一番ダメな家だったのだが、今回は、ある方法により、狼を倒すのに最適なツールとして変化を遂げている。そこには進化した知恵が隠されていた。おもしろい。
それは人のありようを説いているようでもあった。


軽い気持ちで女の子にあげた1万円札が、怒りの形相で戻ってきたという「お金持ちのすすめ」の一万円札の擬人化は成功している。


仕事とは他人のためになることをして、その対価としてお金をもらうことだろ? 


つまり『仕事』=『他人の欲求を満たすこと』だ。
他人の欲求に答えたものだけが金持ちになれるという教えは興味深い。
人間は自我の罠に囚われやすいということを忘れないことだ。


地球を守るため、人間と動物が協力して宇宙のオリンピックに挑むという「宇宙五輪」
馬鹿みたいだけど楽しい、人間もゾウも・・・頑張るって話し。

売れないミュージシャンが流れ星に願い事をすると、その星が部屋にやってきてという「役立たずのスター」は今いちだ。

クヌギの木のヌシのカブトムシが何者かの手によって殺害された。この事件解決を任されたのは伝説の刑事だったという「スパイダー刑事」はミステリーだ。これもおもしろくない。

商店街で大繁盛する「蕎麦愛沢」。しかし、この店長にはある秘密があったという「愛沢」のラストは深い。ショートショートとしても、よく出来た作品に仕上げていて読み応えあり。原価率が異常に高い蕎麦屋が成立する理由が未来予想図と繋がっている。ようするに、ラストにすごいどんでん返しがあるのですよ。

牧場で平和な生活を送っていた子牛の耳元でネズミがささやいた。「お前はこれから革ジャンになるんだよ」という「神様に一番近い動物」

この最後の作品は、革ジャンになる運命の牛を擬人化した作品だ。
牛を困らせてやろうと鼠は真実を彼に話す
しかし、純粋な彼は、それを鼠と優しさと受け止める

人間は不思議だ。
食料として、自分を食べるなら、人間が生きていくという役に立つ。それなら諦めもつこう。
なのに、どうして皮のみを必要とする。
革ジャンが今、流行っているから・・・という理屈は牛には理解できない。
牛は家出し人間とは何かを知ろうとする。
しかし、牛に人間の考えていることなんか理解できない。

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それでも牛は、人間の考えに寄り添おうと考える。
どうすれば人間に想いを伝えられる。
鼠が人間の文字を理解できるとわかると、牛は人間に向けて手紙を書いたのだった。
この手紙は心が熱くなる。

わたしがもし
かわじゃんに
なるなら
ずっとずっと
きてもらえる
かわじゃんに
なりたいです

わたしが
かわじゃんになったら
あなたがかぜを
ひかないように
あなたが
けがをしないように
あなたがむしに
さされないように

がんばって
あなたのことを
まもります
だから
かわじゃんになった
わたしをずっずっと
あなたのそばに
おいてください

この優しさは、乾いた僕たちの心に沁みる
この感覚、どこかに忘れて来た価値観
それでいいのか人間と思わず思ってしまった。


2020 5/17



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