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書評 ナミヤ雑貨店の奇蹟 東野 圭吾 33年前の過去の手紙が現在に届く。一夜だけの奇蹟はとても幸せな気分にさせてくれる。

ある養護施設出身の3人の若者が
泥棒をした後、車が故障し無人の雑貨店に逃げ込む
そこで起こった奇蹟の夜の物語が本書である。

33年前、その店の店主は子供たちの悩みに答えていた。
それは地元では有名な話しだった。
33回忌の今夜、その過去からの手紙が届く
それを読んだ現代の若者たちが
その切実な悩みに本気で答える。

いくつかのオムニバスストーリーだった。
最終的には、伊坂幸太郎のミステリー小説みたいに
すべての伏線を一気に回収してしまうという奇蹟があるのだが・・・

これは手紙の交流というよりも、心の交流だったと思う。
だから、温かい。気分がいい。凄くポジティブになれる。

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4番目の話しの「黙祷はビートルズで」
この話しがいい。
大金持ちの家に生まれた中学生が
従兄弟の死後、ビートルズのレコードを受け継ぐ
いきなり、父の会社が傾き、夜逃げをすることに

そのことを彼は雑貨店の爺さんに手紙で相談する
爺さんは親身に答えてくれる
結論は、両親に従えだった。

だが、大好きだったビートルズの映画を見て思う
船が沈むように、ただ、それを4人は傍観していたのだと
心が離れると、もう一緒にはやっていけないんだ。
ビートルズは解散するのだった。
それに自分と両親の心の距離を重ねてしまい
ビートルズコレクションを夜逃げ前に親友に譲る
当日、彼はインターチェンジの人込みの中で両親から逃げる。

数十年後、養護施設を卒業し成功した彼は
育った町に戻る。そこで33年ぶりに復活したナミヤ雑貨店に手紙を書こうとした。
最初は、あんたの解答なんか何も役にたたなかったよと書いていたが
ふと、立ち寄った店にビートルズのレコードがあり
それが親友にあの日譲ったものだったと気づく
そして、彼はそこで両親が心中した事実を知る。
彼もそこで死んだことになっていた。
それは両親が逃走した息子に彼らの重責である負債を負わさないためなのだった。

そこで両親の真意に気づいた彼は
ビートルズのあの解散の頃のことを思い出し
色々と考えてしまうのだった。
そこで、爺さんに対する手紙の内容を変える
嘘を書いて彼を安心させようとするのだ。

そこにあるのは、過去と現在の優しい気持ちだった。
それは悩み相談に真剣に取り組んだ爺さんと
本当はアドバイスには従わなかったけど、その優しさの真意や当時の親の気持ちを知った彼の
嘘をつくことで相手を傷つけない優しさなのである。

最終話で出てくる女性は、若者たちが救った人だった。
この話しもよく出来ていたが、お金のことや未来のことで悩んでいた彼女を
未来予知をすることで救うのだが・・・
過去の人にバブル経済の話しを教えて
儲けさせるという発想は、この優しい物語には必要なかったように思える。
どうしても成功が金という発想になると
少し興ざめするからだ。
現実は、金に翻弄されて生きているのだが、せめて物語の中だけは、そんなものとは無縁で生きていたいのである。

とは言うものの、本書はとても面白い。
ミステリーとしても、ただの小説としても楽しめる。
おすすめの小説なのであります。

最後に、爺さんのアドバイスからお気に入りの言葉を抜粋し終わりとします。

どうか信じていてください。
今がどんなにやるせなくとも
明日は今日よりも素晴らしいのだ、と。
ナミヤ雑貨店。


映画化もされています。

2020 11/29





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