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感想 少年と犬  馳 星周  震災小説なんだろうが、犬愛が強すぎて少し疲れた。

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この物語の主人公は犬です。
名前は多聞という放浪犬。
東日本の大震災で飼い主に死なれて野良犬になります。
5年後に熊本に到達し熊本の震災で死ぬまでのロードムービー的小説群です。

各話、独立していて、旅の途中で出会った人と暮らします。
でも、たいていは死なれてしまう。
なんか、そういう人に惹かれる犬なのかもしれない。

「少年と犬」は以下の6編で構成されています。

男と犬
泥棒と犬
夫婦と犬
娼婦と犬
老人と犬
少年と犬

最初の2つは、外国人窃盗団がらみのクライム小説になっていて
ハラハラ・ドキドキの展開
震災で金に困った男が外人の窃盗団の車の運転手に雇われる。
その彼に多聞は拾われるという設定。
この最初の「男と犬」は名作です。
一番好きかもしれない。

2つ目の「泥棒と犬」は、その強盗の一人と多聞が逃げる話し
外国人のトラックの運転手との会話の数々が印象に残った。

娼婦と犬も少し犯罪の匂いがする作品。
これも雰囲気があり楽しい。

馳さんですから、犯罪絡みになると筆がのるのでしょう。
いきいきと描写されています。
他の作品とはテンポも違った。
得意分野になると、めっちゃ張り切る性格なのかもしれない。

老人と犬の老人の話しで
老人がこんなことを言っている。

人の心を理解し、人に寄り添ってくれる。こんな動物は他にない。


確かにそのとおりだ。
この犬は完璧だ。
犬を擬人化というのか、理想化してしまっている。人が犬に求めるすべてがそこにある。
それは全編共通で、最後の少年との話しは、感動ポイントなんだろうが
ちょっと、僕はひいてしまった。
少年のために犬が身をていして死ぬって・・・無理でしょ
相手は犬ですよ。
人でも他人のために、そんなことはしないよ。

背景にあるのは、作者の犬愛だと思った。

ダウンロード - 2022-05-29T155525.444

だいたい、ヒカル少年を探して
犬の多聞が5年かけて熊本までたどり着くという
その前提に無理があると思います。

そして、気になったのは各話のラストが死で終わる点
売春婦は死んでないのかもしれないが

最初のドライバーも、外人の窃盗団も、亭主失格の男も、老人も、最後は多聞自身がヒカルの身代わりになって死ぬんだから、これ死神と違うのかと思ったりしました。

直木賞受賞らしいが、微妙です。
作品としては楽しいです。
読む価値のある作品です。


2022 7 17
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