感想 エタンプの預言者 アベル・カンタン 古い価値観に固着する年寄りの文化人を世間が束になって攻撃する所に今を感じた。
かなり読み応えのある作品でした。
注目度の高い外国小説です。
あらすじを説明すると、
世に埋もれた黒人作家を紹介した本を出した左翼主義者の元大学の教員の主人公は、彼が黒人であったということを前面に出さなかったことで差別主義者だと揶揄されネットで炎上する。
パラダイムシフトが起こったのを知らなかったと作品の中では言われている。
昔の価値観のまま時間が止まっている。それが誤解されて批判されているということみたいだ。
ここで語られている本質は確かに奥深い。そして、ここには今という時代がスケッチされてもいる。それはとても怖いという印象を持った。
まず、感じたのは主人公の左翼活動家で元大学の教員の男。文化人。65歳。
彼に対する人格攻撃の酷さだ。
それは老いたるもの、時代錯誤なものに対する容赦のない作者の批判に思えた。
彼を小説内で辱めることで、まるで年寄りは必要ないみたいな雰囲気を演出しているかのようであった。
唐突に、コンマリさんが出てくる。近藤 麻理恵は、片づけコンサルタント。やたらとページ数をさいている。
自分が世間に非難されて、かたずけたいとか思っているのだ。
そして、彼は
マリエ・コンドー 裸の で検索する。
あのコンマリさんにHな気分を感じるなんてド変態の最低人間だ。
もちろん、作者は意図的にやっているのである。
こういうところにすごく悪意を感じる。
これが本書のモチーフだと思う。
パラダイムシフトとは、時代に合ったものの見方や考え方に変化することを表します。
つまり、主人公は時代に取り残されているということでしょうか?
彼は、ただ、黒人の無名の詩人を紹介したい。その詩の良さを知らしめたい。ついでに自分も有名になりたいと思っていたのです。
しかし、彼の興味があるのは作品。作者が黒人であるということをあまり強調しなかった。
それを、わざとやった。レイシスト人種差別主義者と非難されるのです。
正直、この考え方、僕にはピンとこなかった。
多分、僕も時代錯誤しているのでしょう。
あとがきに、大阪なおみさんの例の事件が解説されていました。
日本のアニメ広告で、人種差別と問題にされたのですが、実は、僕はこれもピンとこない。
アニメが実際よりも彼女の肌を白く描いていたのが原因でした。
時代は刻刻と変化していて、それに僕たちは発言や価値観を合わせていかねばなりません。
それがパラダイムシフトなのですが、それができない年寄りはクズだという風に本書を読んでいると感じました。
近藤麻理恵の裸をネットで検索するようなH爺さん
というレッテル張りです。
左翼の活動家で、大学の元先生で文化人
レイシストとは真逆の存在の主人公が、どんどん追い詰められていきます。
彼の軽蔑する人種差別主義者として。
彼はこう批判されます。
白人の分際で、黒人の詩人のアイデンティティを奪い取り、死者の名誉を傷つけ文化の盗用をしていると断罪されたのです。
明らかに、主人公の立場では、難癖です。
僕もそう感じました。
しかし、黒人の詩人の黒人という部分を軽く流し作品だけに光を当てるのは
詩人の肌の色を漂白した。レイシストとなるそうなんです。
ホワイトフラジリティ 白人の心の弱さ という言葉が出てきます
白人は差別されたことがないから、差別なんか関係ないと思っている。
誰もが差別意識なんか持たない状態で生きれるはずだと思っている。
そういう考えが、主人公にはあると元妻は主張します。
娘のレズの恋人はこう非難する
白人が黒人の差別的な境遇について語るのはおかしいと言うのです。
彼は反発します。
ボールドウィンの作品を例にとります。
しかし、反発される。
主人公のやった、黒人なのに、それをスルーし作品だけに光を当てることは
文化の盗用。他人のふんどしで相撲をとるようなものだというのです。
アイデンティティの強奪
彼はネットで避難され炎上し人格攻撃すら受けます。
相手は不特定多数。
本書には、二つのモチーフが内在されていました。
パラダイムシフトです。僕たちは価値観の変化に常に対応していないと取り残されていくということと
そういう時代錯誤な人間は、不特定多数の顔の見えない人たちによって糾弾されるということです。
その背景にあるのは、年寄りを社会から排除しようという動きのように思う。
これは革命なのかもしれない。
富の大半を所有する年寄りと、パラダイムシフトという新しい言葉を武器にする人たちとの対立
それは持つ者と持たざる者の対立なのかもしれない。
2023 6 9
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