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感想 きみの話を聞かせてくれよ 村上雅郁 悩みや葛藤を抱え込んだ中学生たちが癒されていく物語。なかなか読み応えあり。

読後感が最高に気持ちいい短編集です。

中学生の葛藤や悩みがモチーフなのですが、他人からするとくだらん悩みなのですが、本人たちにとっては生きるか死ぬかの大事なのです。それが中学生というお年頃です。

どの話しにも、剣道部幽霊部員の二年生の黒野良輔君が関わってきます。
まるで野良ネコみたいにフラフラしているんです。



スイーツ作りが大好きな男子生徒のキャラが良く描けていました。

彼の悩みは、女子にちやほやされること
何か特別な生き物みたいに扱われる

生徒会長の兎王子という女子は、剣道部のエースでもあり無理して男ぶっている
この二人も黒野の導きで二人でお菓子作りをするのだが・・・

黒野のセリフがいい

人は、枠組みから外れたやつがいるのがこわいんだよ。だから、自分がわからないものに出会うと、おかしいって言って攻撃したり、わかりやすいでたらめに押し込んで、わかったふりを、する


真反対なのだが、この二人は同類。二人でいることで癒されていくのでした。


保健室登校をしている少女に、黒野が話した話しも面白かった。

ヘラクレイトスの川の例え

あらゆる存在は時の流れとともに変化していくことを述べたことばで、ヘラクレイトスはそのことを川の流れにたとえて、「同じ川に二度入ることはできない」と言った。

人の細胞だって新陳代謝してて数か月するとまったく別のに入れ替わっているし
学校やクラスだって転校したり卒業したり新入生入れたりもする
人だって、知識や経験や環境によって考え方だった変化する

あらゆる存在は時の流れとともに変化していく

万物流転という思想ですね。

だから、辛いことも状況もいつかは良くなるし
人だって変わるんだよと黒野は言いたいのです。




美術部の女子部員と陸上部の女の子が誤解から友情が消えてしまい無視し合うようになっている話しで黒野はこんな話しをする

シロクマ効果って知っているか?

あることに対して「思考抑制」がなされると、皮肉なことにむしろそのことで頭がいっぱいになってしまうことがあります。

彼女のことを考えないようにすればするほど、頭の中が彼女でいっぱいになり溢れそうになるのです。

黒野が、そんな彼女に名言を吐きます。

考えることから、人間は逃げられないって話。悩みから目をそらそうとしたとしてもなかなかそううまくはいかない。生きるって難しいよな


これって深くないですか?
確かにその通りなのかもしれない。

本質的な悩みは簡単には目を反らすことはできない。できるのは些末なものだけです。

しかし、彼女は親友に嫌われた理由がわからない

ここネタバレさせます。

彼女は美術部の生徒です。才能があり賞もとった。しかし、部の他の人はやる気なく、部室でお菓子食べておしゃべりしているだけなのです。さらに、まじめな彼女を阻害すらする。

そこで親友にこう言いました。

ばかみたい。まじめにやらないならやめたらいいのに


この言葉を発した後、親友は彼女から距離をとるようになっていった。

その理由が後でわかる。
当時、自分は陸上部の落ちこぼれだった。部をやめたいと思っていた。
その友達の言葉が、自分に突き刺さった。
まるで、自分が責められているように思った。才能のある彼女の近くにいると息が苦しくなった。

どちらも悪くない。でも、一緒にいると互いに傷つけあうこともある。それは人は複雑だから。





2023 5 2



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