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流れる時の中で、最高の「今」は巡ってくる 【6/9オリックス戦○】

ぐっちがいない神宮。私はまた、神宮開幕戦の日を思い出す。

誰かの不在は、それが「いつもの景色」であればあるほど、色濃く感じる。その重たい色は、心に少し影を落とす。その中で、プレイボールがかかる。

だけどどんな時も、試合が始まり、そこで投げ、打ち、走る選手たちを見ると、気持ちはすぐにそちらに持って行かれる。そうなだよな、私はこのチームが好きなのだな、と、今日も当たり前のことを思う。

けいじくんが投げる。村上くんが打席に立つ。私は去年のあの日を思い出す。

その日、けいじくんは投げ、村上くんはスタメンでプロ初出場を果たした。そして、広島の新井さんは神宮での最後の試合を迎えた。

去りゆく人と、未来を担う人が、同じ場所に立つ。そして、村上くんはプロ初打席で初ホームランを放つ。負け試合とは思えないほどの、盛り上がりを見せた。今でもあの日、ライトスタンドに飛び込んできた打球の放物線を覚えている。

けいじくんは5回4失点で、マウンドを降りた。失点には、村上くんのエラーも絡んでいた。でも、そこには確実に、希望があった。それは、希望そのものだった。これは、また新しい物語の始まりなのかもしれない、と私は思った。これから、このものすごい18歳や、希望の21歳の成長を、ずっとここで見ていけるというのはそれは、とてもしあわせなことなのかもしれない、と。

そして外野に並ぶベテラン三人を眺めていた。この人たちが、同時に、ここに並ぶのはあと数年だ。一緒にプレーできる時間は、そんなには長くない。だからこそ今、ここで応援できるしあわせをかみしめていたい。そんな風に思った。

あれから季節が巡り、あの日、未来の希望の片鱗を見せてくれた18歳は、みるみるうちに成長してゆき、ここぞのチャンスで打ち続け、5番を打つようになり、6月時点での打点王を突っ走り、そして今日、逆転した後に追いつかれた嫌な流れの中、シーズン通算16本目となる逆転の2ランを放った。

いつしかこの景色は移り変わってゆく、ベテランたちはここを去ってゆく…と、少ししんみりしていた私の気持ちを吹き飛ばすように、エイオキは「とにかくなにがなんでも絶対に追加点が欲しい」という2死満塁の場面でタイムリーを放った。

今しかない、今しかないと去年何度も思い続けていた場面が、今年また新しい形で、重なりあうのを見続けている。

それはとてもとても、ぜいたくな時間だ。

村上くんは、エイオキと一緒にお立ち台に上がった。19歳と37歳が、一緒にそこに立った。二人はにこにこしていた。私だってにこにこしていた。みんなにこにこしていた。小雨が降る神宮は、それでも晴れ渡る季節を思い起こさせた。

16連敗を見続けて、神宮での連敗を見続けて、もう勝ち試合をこの目で見ることは一生ないんじゃないだろうかという気持ちになってきて(なってくるのだ、本当に)でもそれでも、こうして、夢の続きのような、過去と未来が繋がってゆくその瞬間を目に焼き付けるような、そんな試合を目にすることができる。

時の流れは、ベテランと若手の、それぞれのスターを同時に私たちに見せてくれる。

だから今日ここにいないぐっちが、しっかり今と向き合って、あらゆる痛みを、傷を、どうか乗り越えて、また万全の状態で戻ってきて、「今」をこのチームと共に奏でてくれることを、じっと待ちたいと思う。

時はいつだって前にしか進まないけれど、そしてそれはもちろん年齢を重ねていくということだけれど、だけど傷を癒すことだって、時になせる技なのだ。

流れる時の中で、最高の「今」は、巡ってくるのだから。



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