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隙間のスキマの好き魔

【アサミの刄】
尻をねじ込む。

尻と尻との隙間に。

分厚いクッションとクッションの隙間に身をうずめるように、肉厚の尻をねじ込む。

「今日も成功したわ。こんな隙間ばかり狙ってる私って、ほんとに好き魔ね」

朝の混み合った地下鉄の中で、まだ3割ほど寝ぼけた脳が高揚感に包まれる。

通勤で地下鉄を利用している。
始発の次の駅だというのに、車内は混み合い、座席はほぼ埋まっている。

しかし「ほぼ」なのである。
これには「ほぼ」例外が存在するのだ。

毎朝、乗り込むと同時に、瞬時に「例外」を探し出す。

大抵は、高校生かサラリーマンが対象となる。
体を若干斜めに傾け、脚をだらしなく前へ伸ばす高校生。
スマホを見つめ、脚を開き気味にして座るガッシリとしたサラリーマン。
そして時々、「我に触れることは許さぬ」と言っているかのような身綺麗なレディ。

彼らは、何食わぬ顔で1.5~2席分を占領している。
彼らの両側には、人ひとりは座れない微妙な「隙間」が存在している。

私は、その隙間をロックオンする。
彼らの前に立ち、躊躇わずに、行く。

尻をねじ込む。

私が尻をねじ込む前に、彼らの多くは厭々横にずれ、隙間を広げてくれることがほとんどだが、たまにそれでも気が付かない場合には「ここ、いいですか」と言いながら尻をねじ込む。

尻をねじ込まないという選択肢は、ない。

立ちっぱなしの仕事をしているので、朝くらい座らせてほしいというのもあるし、通勤が私にとっての読書タイムだということもあるし、お弁当と500mlマイボトル×2本を持ち、つり革に掴まりながら本を読むのが辛いというのもあるのだけれど、一番の動機は「許せない」からである。

あの混み合った車内で、なぜ自分だけが二人分の空間を確保できると思っているのか。
始発で乗る者の特権とでも思っているのだろうか。

その無思慮な彼らの「あわよくばこのまま行けるだろう」的な思惑を、始発の次の駅でぶち壊したいのである。

そのために私は毎朝、尻をねじ込んでいる。昨日、連続ねじ込み記録10日目を達成した。

私は、この先もねじ込み続けるだろう。
そこに隙間が無くならない限り。

なんのはなしですか

おせっかいな正義は、時として自分が迷惑人物になる危険性を秘めているかもしれない、と書きながら震えたはなし。

それでも、ねじ込む。

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