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アラサー女子の幸福論

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※旅の雑誌「Distancia」2015年Vol.3へ寄稿
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記事一覧

グルジア発『アラサー女子の幸福論』Vol.1

 5年半勤めた会社を辞職し、私は約2ヶ月間の海外放浪の旅に出た。28歳独身、無職、後頭部に10円ハゲ有。彼氏には愛想を尽かされ、まさに人生どん詰まり。「海外で一人旅をしている日本人女性に会うと、必ず、28、9歳の女性で、仕事を辞めて旅に出てるの。日本では何が起こっているの?」旅先で知り合ったフランス人女性は、その現象を「middle age crisis(中年の危機)」と表現したが、まさに私はその

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グルジア発『アラサー女子の幸福論』Vol.2

 旅も半ば、グルジア北部のメスティア・ウシュグリでの滞在は、偶然の出来事の連続だった。ウシュグリは、山岳地帯の秘境の村で、標高2,400m。人が生活できる居住地ではヨーロッパ最高峰らしい。その起点となるメスティアに着いた初日は、旅のなかで最悪の1日だった。始終雨が降り、遠くに見えるはずの山はすっかり雲に隠れ、その巓すら見えない。ひやりとした冷気が容赦なく肌を刺し、着込めるだけ着込んでも、まだ寒い。

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グルジア発『アラサー女子の幸福論』Vol.3

 メスティアの街は歩いて回っても1時間もかからない。インフォメーション・センターを中心に、ミニバスやジープ乗り場があり、その周辺にレストランや商店は集中する。ナジの家から街の中心地まではわずか10分足らず。ジープ乗り場付近では、運転手達が井戸端会議をしていた。人通りが少なく、ひと稼ぎするにはまだ早い時間。みな煙草をくゆらせながら、暇そうにしている。

「どこへ行くのか」通りかかった私に、ずんぐり太

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グルジア発『アラサー女子の幸福論』Vol.4

 ヴィンセントに会ったのは、そんな憂鬱から始まった1日の昼下がり。流れの早い川をもっと近くで見ようと土手をおりた矢先に雨が降り始め、服も靴も、1ミリ残さず、ずぶ濡れだった。温かいものが飲みたくて、ビールの看板をぶら下げた小さなカフェに入ると、片言のグルジア語で温かい珈琲とチョコレートをオーダーした。ほっと一息ついていたところに、声をかけてくれたのが彼だった。プロヴァンス出身の陽気なフランス人で、日

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グルジア発『アラサー女子の幸福論』Vol.5

 翌日は、その前日とうって変わって、旅の中でも最高に美しい日となった。鮮やかに晴れた空は、ペルシャン・ブルーに光り、輝かしい未来が待っている気がする。嫌なことがたくさんあった日本にも、この青空が続いているとは信じがたい。ウシュグリまではジープで2時間半。前日の雨で道はぬかるみ、スピードを出せばタイヤが泥にはまる悪路だった。そんなことは気にならないほど、私は高揚していた。         

 我々

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