グルジア発『アラサー女子の幸福論』Vol.3

 メスティアの街は歩いて回っても1時間もかからない。インフォメーション・センターを中心に、ミニバスやジープ乗り場があり、その周辺にレストランや商店は集中する。ナジの家から街の中心地まではわずか10分足らず。ジープ乗り場付近では、運転手達が井戸端会議をしていた。人通りが少なく、ひと稼ぎするにはまだ早い時間。みな煙草をくゆらせながら、暇そうにしている。

「どこへ行くのか」通りかかった私に、ずんぐり太った中年の運転手が親しげに声をかけた。英語のあまり通じないグルジアでは珍しく、流暢な英語を話す。

「No plan」

そう返すと、「日本人がわざわざここまで来て、なんの下調べもしていないのか」とでも言いたげに、小馬鹿にした視線を投げかけた。グルジア人は見た目はツンとしていても、基本的に親日家でフレンドリー。こちらから話しかければ期待以上に応えてくれるし、珍しい日本人を見て話しかけてくることも多い。が、今の瞬間だけは放っておいてほしかった。インフォメーション・センターのお姉さんに冷たくあしらわれ、タクシーの運転手に馬鹿にされ、わざわざグルジアまで来て、私は何をしているんだろう。仕事を辞めて旅に出たのに、結局悲しい思いだけして帰るのか。頭に坂本龍一の『戦場のメリークリスマス』が流れ始める。公園の前のベンチに腰を下ろすと、そのまま立ち上がれない。気づけば、日本を出発してから約1ヶ月が過ぎていた。グルジアの辺境で、ベンチにぽつんと座っていると、ただ一人取り残されたよう。1度堰を切った涙は止まらない。そのまま1時間固まった。が、自分を悲劇のヒロインと思い込んでも、「白馬の王子様」は来ない。自ら立ち上がるしかないことに気づいた私は、もらった1枚の地図を便りに街を散策することにした。

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