グルジア発『アラサー女子の幸福論』Vol.1

 5年半勤めた会社を辞職し、私は約2ヶ月間の海外放浪の旅に出た。28歳独身、無職、後頭部に10円ハゲ有。彼氏には愛想を尽かされ、まさに人生どん詰まり。「海外で一人旅をしている日本人女性に会うと、必ず、28、9歳の女性で、仕事を辞めて旅に出てるの。日本では何が起こっているの?」旅先で知り合ったフランス人女性は、その現象を「middle age crisis(中年の危機)」と表現したが、まさに私はその一人だった。

 これまで度々好んでふらりと旅には出ていたが、さすがに2ヶ月間もの長旅は、大学1年生の夏以来。そのときは、沢木耕太郎の『深夜特急』に感化され、海外に行った事もないのに、一人でマレー半島を縦断した。バンコクからスタートし、45日間でタイとマレーシアを駆け抜け、無事最終目的地シンガポールから帰国した私は、その旅で根拠のない自信を持った。ただし、バンコク発サムイ島行きの夜行バスがスラータニー県へ入った深夜2時、運転手が居眠り運転をして橋から3m下の川へ転落。右の鎖骨を骨折してサムイ島の病院で2週間入院した。骨折の傷跡は、幼稚園児が描いたカブトムシみたいにギザギザで大きく茶色く、左の鎖骨にキチンと残っている。

 今回の行き先はトルコ・フランス・グルジア・アルメニア・イランと、一見すると謎のルート。聞き慣れない国もある。親しみの湧くアジアも、見るもの全てが美しく洗練されたヨーロッパも好きだが、無性に、周囲の旅好きでも訪れない場所に行きたかった。ガイドブックは持たないと決め、『地球の歩き方』も『ロンリープラネット』も日本に置いてきた。成田ーイスタンブール往復と、途中シャンパーニュ地方に寄り道するためのイスタンブールーパリ往復航空券だけ予約し、旅程も宿泊先もほとんど決めていない。帰国するにはイランからイスタンブールまで自力で戻ってこなくてはならないが、予定帰国日にイスタンブールに戻れないかもだし、日本に帰りたくなくなることだってありうる。念のため、帰国便変更可能なフィックス・オープンの航空券を予約した。使い古しの薄汚れたバックパックに、パスポート、お金、iphoneと2−3日分の着替えだけ詰め込み、私は成田から旅立った。



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