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【百物語】日常が回転寿司の日常

私は回転寿司が好きだ。
経済的に助かるのはもちろんだが、何と言っても明快で合理的である。
時価という名のあいまいな価格設定はないし、きどった店主の寿司哲学を気にする必要もない。
誰にも文句は言わせない。
私は好きなものを好きな時に好きなだけ食べるのだ。
それに最近の回転寿司屋だってバカにしたものではない。
産地直送のネタを使っているし、鮮度の落ちた皿は自動的に廃棄されるシステムになっている。
私自身、そんなに上等の舌を持っているわけではなく、また、寿司に関するうんちくにも興味はないわけで、回転寿司で私は十分満たされるのだ。

今日の昼食ももちろん回転寿司だ。
多少混むのは難点だが、会社の周りには何軒もの回転寿司屋があり、その特徴や込み具合もおさえてある。
私はとりあえず最寄りの店に向かった。
満員だった。
しかも長い行列ができている。
そこから流れるようにして2軒目に向かった。
満員だった。
ここも長い行列ができている。
「珍しいな...」
私はちょっと足を伸ばして、もっとも楽に入れる店に向かった。
しかし、ここも満員だった。
「今日は業界あげてのサービス日だったかな?」
そういう日はにわか回転寿司ファンが出てくるもので、私のような本当の回転寿司ファンにはありがたくないサービスでもある。
すでに十分な恩恵を受けていると思っているから、余計なサービスは必要ないのだ。
私は頭の中でこの界隈の回転寿司マップを広げ、効率のよいルートを設定する。
最悪の場合を想定しながら次の店に向かった。
その予想通り、最悪の状況が待っていた。

限られた昼休みの時間である。
今日は回転寿司をあきらめてしまえばいいのだが、こうなると意地である。
「絶対に回転寿司を食べる」、そう誓った。
私は気持ちも新たに歩き続けたが、なぜか今日はどこも混んでいる。
ある程度の時間がたったら、最初の店にも戻ってみたが、やはりダメだった。
まるで私の行く先々を見越したかのように行列が移動しているのではないかとさえ思えてきた。

すでにこの界隈を何周したことか。
昼休みの時間はもうほとんどない。
のどが乾いた私は、とりあえず目に入ったコンビニで冷たい飲み物でも買おうと中に入った。
「すいませ~ん、今、満員なんです~」
見習い職人風の若者が頭を下げた。
目の前にはぐるぐると回る寿司コンベアがあった。
私はあわてて店を飛びだすと店構えを確認した。
知らない回転寿司屋だった。

疲れている、そう思った。
気をとりなおして、とにかく何か食べよう。
私は3軒先の蕎麦屋に入った。
「すいません、満員なんですよ~」
女将さんらしい女性が頭を下げる。
目の前にはぐるぐると回る寿司コンベアがあった。

何かがおかしかった。
私は試しにそばにあった文房具屋に入ってみた。
「あいにく、満員でして...」
カウンターの奥でおやじが愛想笑いを浮かべて言う。

いったい、どうなってるんだ。
どこもかしこも満員の回転寿司屋ばかりだ。
この1時間、私はこの界隈をぐるぐると回って...
ぐるぐる!
私が回転寿司の皿なのか?
しかも、誰にも受け入れられない皿なのか?
そう思った時、どっと疲れが押し寄せてきた。


仕方なく、そのまま会社に戻った。
腹をすかせたまま仕事をし、いつものように満員電車に乗って帰宅した。
その時、もう一度思い知らされてしまった。

私は会社と自宅をぐるぐる回る、回転寿司なのかもしれない。




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