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1分で読めるショートショート30・青い空

世界は変わり果てていた。
人々はもはや外に出ることなく、全ての生活がデジタル化されていた。空は灰色で、ビルは高く、人々の心は閉ざされていた。

ある日、老人が孫に話しかけた。
「私が若かった頃はね、空は青かったんだよ」と。

孫は首を傾げた。
「青い空? それってどんなゲームの中の話?」

老人は笑った。
「いや、本当の話さ。私がもう一度見たいと願うのは、その青い空なんだ」

孫は考え込んだ後、何かを決意したように立ち上がった。
「じゃあ、おじいちゃんのために青い空を見せてあげる!」

孫は最新のVRゴーグルを取り出し、プログラミングを始めた。数日後、孫は満足げに老人にゴーグルを渡した。
「これで、おじいちゃんも青い空が見られるよ」

老人はゴーグルをつけ、目を開けた。そこには、確かに美しい青い空が広がっていた。老人は涙を流しながら、その光景に見入った。

しかし、老人がゴーグルを外すと、現実の世界は依然として灰色だった。老人は孫に感謝を伝えたが、心の中では深い悲しみを感じていた。

数年後、老人は亡くなった。遺言には「私の灰を、かつて青かった空の下に撒いてほしい」とあった。

孫は老人の遺言を守り、灰を空に撒いた。すると、不思議なことに、灰が空に触れると、空は少しずつ青くなり始めた。人々は驚き、外に出て空を見上げた。

老人の灰が全て空に消えると、空は完全に青くなり、太陽が輝き始めた。人々は感動し、涙を流した。

老人が最後に見たいと願っていた青い空は、彼の死後に現れたのだった。そして、それは孫が作ったデジタルの空ではなく、本物の空だった。
こうして青い空と共に、デジタル技術は衰退した。
果てしてどちらが良かったのか。


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