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「お客様の中に神様はおりませんか」NEMURENU60th(文芸ネムレヌ60回)

はじめに

古今東西、note内に散らばる記事をひとつのテーマで繋げるアンソロジー。文芸ネムレヌは7周年目に突入です!これからも低空飛行、零細運営でお送り致します。よろしくお付き合いください。
節目となる第60回、テーマは「お客様の中に神様はおりませんか」。お客様の中に神様はいるのでしょうか!小説、コラムを中心に全12記事でお送りします!
それでは開幕!
「お客様の中に神様はおりませんか!」


目次
01小説「二十世紀の街角で」海亀湾館長
02コラム「宝石商もきちんと知ろう。消費者事件の歴史と消費者法」Jewelry and Law
03小説「ラリアット」朝見水葉
04イラスト「ペン画・A4」つつつの巣
05コラム「ドラッカー5つの質問②『われわれの顧客は誰か』」よしずみ
06コラム「「修理する権利」とは?」mamato yamamomo
07小説「タヤの神様はどこに居るのか」くにん
08コラム「チェコの民俗学者カレル・ロズム」Flâneur
09小説「ひとりぼっちの神さま」としべえ
10小説「ゴールドフィッシュ・ブギー」武川蔓緒
11コラム「オスカー・ワイルド『サロメ』界隈をあるく|西洋絵画も交えて」星の汀
12小説「黄泉平坂墓地太郎事件簿 -墓地太郎、死す-」ムラサキ




01小説「二十世紀の街角で」海亀湾館長

海亀湾さんの私小説的作品。本話の元になった詩作品があるそうです。舞台となっているのは1987年の新宿……。海亀湾館長さんの端整の描写力でかつての新宿が再現されます。
マルイが、紀伊國屋書店が、アルタが……新宿にいつまでも残ったもの、消えたもの。そしてその場所に生きていた名前の無い人々。袖触れ合う人々の中には神様もいたかもしれないですね。新宿と言えばスタジオアルタで「いいとも収録」……なんて、永遠に消えない文化だと思っていましたが、今は昔、兵共が夢の跡。「いいとも」とかもう若い人は知らない。隔たりがありますねえ。この時代から現代までには約40年の隔たりがありますが、海亀湾さんの小説では全くそれが色褪せずに描かれました。文芸って偉大です。
東京に暮らした人にとっても、暮らしていない人にとっても東京は東京。人それぞれの東京の風景があるものです。誰もが知る風景、郷愁。祖国のようです。
今回のアンソロジーは「お客様の中に神様はおりませんか」。この台詞が意外な登場をして、小粋な使い方にクスリと笑いました。青春の風景が清々しい小説でした。


https://note.com/umigamewan/n/n4e6aba53d138?magazine_key=m3649fc580388



02コラム「宝石商もきちんと知ろう。消費者事件の歴史と消費者法」Jewelry and Law


さて、今回のテーマである「お客様の中に神様はおりませんか」について再考してみましょう。
本企画「文芸ネムレヌ」はまずテーマが決定され、そのテーマに従った文芸作品が集まり、更にはnote砂漠に埋もれた良記事をテーマに基づき再発見しよう、という趣旨に基づき編集されます。
テーマに従ってアンソロジー周辺の人々が作品を持ち寄りますが、「テーマの難易度」がその都度ありまして……、今回のテーマは難易度が高い!
「お客様の中に神様」が登場する話を書こうとするのですが、信仰心が胡乱な我々は神様が何なのかよく分からない。昔話でも民話でも神話でも神社仏閣の縁起でもプルーストにもトルストイにも、周りに神様のお話はいくらもあるのですが、いざ書こうとすると……???あれ?神様ってなんだっけ??とよく分からないことになる。これは恐らく神様の事を描こうとすると、考えがまとまらなくなる妨害電波が神様事務局から発信されていてですね……。
とかなんとか、難易度が高いんですよ。やっぱり妨害電波がね……。
まあ、そんな妨害電波の話はさておき。「お客様の中に神様はおりませんか」と云うテーマに向き合った時に、我々はこの言葉によく似た言葉を知っている……。

大阪万博の英雄的偶像、三波春夫が発信元だと噂されるその言葉は、「お客様は神様です」。
古来から語り継がれたこの言葉は現代においては寧ろ批判的な意見が圧倒的に多いらしく、それら批判に晒されるのか三波春夫の公式ページには本言葉に対する見解や弁明が掲載されていたりする。

現代人にとっては「お客様は神様です」という言葉に違和感を感じるのかもしれませんが、こと歴史の中ではこの言葉はもう少し含蓄深い言葉なのではないかと思います。
三波春夫陣営の言説を読む限り、この言葉は芸道を意味するものでコマーシャリズム的な意味合いは無いとの事ですが、かつての高度経済成長期の日本において三波春夫のこの言葉が日本的コマーシャリズムを作り上げ、それらが日本を豊かにしたのも事実。

「お客様は神様です」
この言葉はもっと再評価されるべき言葉だと思います。
で、再評価の為に取り上げた記事がこちらの「Jewelry and law」さんの「消費者事件」のお話。

もしも「お客様が神様で無かったとしたら?」。お客様が神様ではない世界を考えてみましょう。どんな世界になると思いますか?

商業主義は弱肉強食に陥ります。騙される方が悪いという無法地帯です。

(Jewelryandlawさんの記事中で紹介された豊田商事事件、主犯格の永野会長は1985年、テレビ局の報道陣の前で公開殺害されている!!)


騙されて破産した人々と、騙して殺された人。まさに血も涙もない、無神論的事件です。なんと恐ろしい世界なのだろう!

企業がコマーシャリズムに対して、信仰にも似た敬虔を持ち合わせなければ、このような悪徳商法は絶えない。
いまの日本は第3次産業の就業人口が増えたので国民の主観が逆転して、「お客様」という言葉の捉え方が客目線ではなく従業者目線になっている。かつては「国民の主流」はマーケットにおいて「お客様」であった訳ですが、いまの「国民の主流」はどちらかと言えば「お客様」に相対する従業員の方……。

すっかり現代の感覚では「お客様」の主客が入れ替わっておりますが、本来「お客様」は国民全体を呼んだ言葉で、国民全体が悪徳企業から守られる為にある言葉。その「お客様」に対して企業が悪徳企業で無いことを標榜するために使われた言葉が「お客様は神様です」であったように思います。

ですから、現代にあってもこの言葉は企業精神的には良い言葉だと思っているし、その趣旨に鑑みれば悪徳商法、詐欺事件の被害数が当時とは比べ物にならない程、増加した現代においては過去以上に大切にされなければならない言葉なのではないかと思います。

https://note.com/jewelryandlaw/n/ncf98c66ea91e?magazine_key=m3649fc580388


03小説「ラリアット」朝見水葉

悪徳商法にラリアットを!という訳ではありませんが、この度の朝見さんの作品は躍動感溢れる女子プロレスの話。
エネルギッシュな女子プロで華麗な技が披露される傍らにはその女子プロレスラーの産んだばかりの赤ちゃんと、それを抱っこする母親が試合を観戦していて、我が娘の闘う姿とかつての娘を回顧している。回顧といえば、母親の好きだったものはお蚕さんで孫である赤ん坊が蚕に似ていると思いながら、実の娘はリング上で流血試合を繰り広げる。
文学的にシュールです。このような設定をよく思いつくものだと発想の豊かさに感心します。静と動、閑静と歓声の対比が鮮やかで大変面白い。リングの周囲を歓声を上げる観客たちが取り囲んでいます。観客たちの中に神はいるのか、いないのか。


04イラスト「ペン画・A4」つつつの巣

つつつの巣、さん。最近noteを始められたようです。活動の中心はtiktokのようで多くの作品が紹介されていました。
つつつの巣さんの今回のイラストは旅鴉、SF、宇宙の旅をイメージして描かれたそうですが、なんという神々しさ。宇宙ヒッピー、ラブアンドピース、ドラッグアンドスピリチュアル。神様との一体感を感じます。
宇宙の路傍にこのような方が立っていて、ヒッチハイクとかするんでしょうね。
「ちょっとそこらの地球まで!」
杖から手がいっぱい生えておりますが、この御姿は暗黒神様そのものです。始原に於いて地球に降り立った神様は、このようなはぐれ宇宙ヒッピーが自分探しの旅に宇宙の辺境を周遊した者だったり。いやあ、凄いイラスト!

05コラム「ドラッカー5つの質問②『われわれの顧客は誰か』」よしずみ

「お客様は神様です」という言葉に再び戻りましょう。完全に三波春夫からの本意からは逸脱しておりますが気にしません。この言葉は三波春夫を超えて高度経済成長期の日本人の精神性であったはずです。
経済の中で神様と言えば。経済学の生みの親アダム・スミスが富国論の中で需要供給のバランスよって市場価格が決定される仕組みを「神の見えざる手」と表現した言葉が有名です。詰まるところは経済学にも神様がいるわけです。そしてそれは需要の担い手であるお客様自身のことでもあります。(供給の担い手である従業員たちの事でもあります)

経営学の父、ピーター・ドラッカーは商売のあり方を根本から捉え直しました。

ここに紹介されるよしずみさんの記事はピータードラッカーの基本を分かりやすく説明したもの。
「企業の目的は顧客の創造である」と有名な言葉があります。企業が創造する顧客って何でしょう?
それは我々の商品を売るべき対象であります。経営の成功とは然るべき顧客が創造されること。商品を欲してやまない「顧客」が創造されれば、商品は自ずと売れます。つまり商品は自ずと売れるものでなければ、顧客が創造された事にはならない。自ずと売れない商品は商品では無い。
自ずと売れる商品を作るためには、その商品を求める人、求めない人と交わり、フィールドワークをして、価値の探求をしなければなりません。
そんな、具体例がよしずみさんの記事に紹介されます。企業は自分たちの商品を知らなすぎる。


例えば軍手がある日突然、今まで以上の売れ行きを示すようになり、何故軍手ブームが起きたのか軍手メーカーは理解出来ない。
それはある日の奥様番組のお掃除コーナーで、雑巾に変わるものとして軍手が紹介され、それを見た奥様たちが雑巾として軍手を買うようになったから。
これは運良く顧客が自然発生して拡大したケースですが、本来であれば軍手メーカーが顧客に交わり発見し、自らの商品を進化させるべき事象であったかもしれない。

洗車用グローブ

猫用グローブ
ヒット商品なのか分からないけれど、軍手掃除の派系商品たち……!
もうこれからの掃除は軍手だよ……!

と、企業が気付かない商品価値に気付いてしまう客がいる。その客により、企業は商品価値を再発見し、イノベーションを起こす原動力を得る事が出来る。
つまり、いるのだ。客の中に神が!
神たる客が、いる!

「お客様は神様です」と、どんな客でも大切にして、変な要望にも答えようと努めた時に初めてお客に紛れる神様の存在に気がつく事が出来るのかもしれない。
よしずみさんの記事に紹介される事例が本当に面白いので読んでください!


06コラム「「修理する権利」とは?」mamato yamamomo

昔々。
市場における法整備が未だ未成熟で、消費者が弱者であった頃。
消費者が保障されなければならない権利として主張されたのは

「安全である権利」
「知る権利」
「選ぶ権利」
「意見を反映させる権利」
の四つ。
現代はすっかりこれらの権利が保障されているので、我々には今ひとつピンと来ない。
例えばこれらの権利が保障されないとどうなるだろう??

牛肉100%と称して実際には豚肉、鶏肉、調味料、パン屑、腐りかけの屑肉などを巧みに混ぜて成形加工して販売、流通していた「ミートホープ食品偽装事件」
これは企業が消費者に保障するべき「安全である権利」「知る権利」が蔑ろにされた事例。

それに最近見つけたこんな商品。
↓↓

上の商品は「SSDスティックメモリ」1テラバイトで3,000円くらいで売ってる。容量の相場としてはムーアの法則が破綻して以降ほとんど値動きがないので、64GBで800~1000円くらい?

通常1テラバイトなら安くて10,000円くらい?3,000円って破格というか、ちょっとありえない。
それでクチコミ欄を見てみたら‎……。
と、実際にこれは見てみると良いですよ。Amazonやばいですね。そういえば昔、私も中国系のショップで格安のスマホカバー買ったらいつまでも商品届かなくて結局ショップに訴えて返金してもらった。あれは訴えなかったら商品も届かないし、返金もされない。
だから、消費者の初歩たる権利である「消費者の四つの権利」ですら、ワールドワイドに考えると未だに反故にされている。日本的な感覚でAmazonの海外製品に手を出したらダメ!
あとtiktokとかで流れてくる訳の分からない美容系商品も健康被害がたくさん訴えられているので、世の中は本当に怖い。

それでは先進国の商品であれば大丈夫??
ヤマダ電機やエディオンなどで売られている商品なら?だって変な商品売ったら大手家電量販店の名に傷がつくじゃない。絶対大丈夫でしょ??
なんて先進国幻想に毒されてはいけない!我々はもうGAFAとかに騙されてるから!毒電波にやられてるから!あーー電波!!神様達が……ッッ、神様達が降りて来るよーーッッ!!

で、mamatoさんの記事。
最近「修理する権利」が注目されている。というか、修理する権利が我々に剥奪されていたことに神様僕は気付いてしまった。
昔はWindowsマシンって、復元ポイントが安易に作成されて、ヤバ!virus!と思ったら割と簡単に復元出来たし、もっと以前はとりあえず初期化して真っ黒にしてOS再インストールして修復とか。そんな感じでしたが、いまの奴って何?復元ポイント作成しようとすると拒否されるし。初期化しようにもプリインストールでOS付属されてないし。OS買っても回数制限で使えないし??勝手に更新されて、オーバースペックするし。時間が来たら買い換えさせるための悪意のプログラムすぎる。そんな時限爆弾付きの商品ばかりですよ!
修理して使わせてくれ!修理を高次化して専用工具がないと修理できないとか、そういうのヤメテ!
結局全ての商品が同じ路線で作られるため、我々の修理する権利は侵害されたまま、我々には修理権のある商品を選択出来る自由がない。
このような問題をmamatoさんの記事では訴えるられていて、なんというか目からウロコが落ちる。我々は知らない間に搾取されていました。主にGAFAとかに!

ちなみに。
消費者の4つの権利を説いたのはアメリカのジョン・F・ケネディ大統領。
先程話に出た豊田商事会長殺害事件と同じくケネディ大統領もテレビの前で公開殺人されました。公開殺人、怖いね!


07小説「タヤの神様はどこに居るのか」くにん

ああ、懐かしき牧歌の時代。ひとびとは作り、直し、暮らしてきた。客を食い物としか思わない悪しき企業に飼い慣らされることなく生産は我々の手に!
黒海の畔の村を舞台に、少年と、少女の物語。
くにんさんの前作も同じ黒海周辺の牧歌の時代の物語で、今回も時代的には同時代でないかと思われます。
前作って戦争に行った夫から文字のない手紙が届いて無事を知らせる話でしたが、今回は??おや……おやおや??ちょっと………ちょっと、ちょっと!


08コラム「チェコの民俗学者カレル・ロズム」Flâneur

お客と神様の相関性について、主に経済的視点で眺めて来ました。
が、我々はもっと民族的血脈の中で、お客様は神様であることを知っている。

それが、この記事。え?分からない?
ギュスターヴ・ドレ的なこの挿絵たち。この異形たち。これは紛うことなきチェコスロバキアの神様たち。
聖ニコラウスと共に現れるこれら怪物神の正体は?
聖ニコラウスはサンタクロースの原型になった聖人。クリスマスに子供たちの前に現れる。良い子にはお菓子をくれるし、悪い子には??

「お仕置きだべ〜!!」
聖ニコラウスと共連れするクランプス達にお仕置きをされる!ドイツのクリスマスはそんな怖い風習がある。チェコもドイツに近しいので、聖ニコラウスの訪問と共に子供を笞打つ怪物神がやってくるのだ、と解釈できます。

で、この怪物神やサンタクロースは「来訪神」というジャンルにくくられている。
来訪神は一年の決まった日に現れる神様で、サンタクロースの他にはドルイド教のハロウィンなども之にあたる。日本のなまはげもこれ。節分の鬼払いの起源は方相氏による追儺であるが、こんなあたりも来訪神のくくり。元々は土着の異端神だったりするので怖い姿のことが多い。でも彼らは決まった日に現れてくれるので、お客様としても良心的だ。
来訪神の中でも困るのが不定期に来る連中。
蘇民将来系である。

蘇民将来系の神様は突然訪れてどちらかといえば無理難題で主を困らせ、気に入らない輩は時として鏖(みなごろ)す。
ある日尋ねてきた乞食が本当の乞食なのか神様なのかは区別がつかない。実に困る。
このようなマレビト信仰によって、「来訪者を歓待する」風習が日本にはあった。ジャパニーズ「おもてなし」の起源である。お客様をおもてなしすると福を授けてくれる!そんな信仰があった訳です。

しかし、この「おもてなし」の起源、客人信仰には恐るべき別個の類型もあります。
前述の蘇民将来神話に登場した、ある村に武塔神(疫病神)の姿で現れた神様について。
この、親切を施した蘇民将来には福を授け、それ以外の村民を鏖殺したという、武塔神の正体はスサノオでありました。
そのスサノオが若かりし頃に悪行重ねて高天原を追放されたばかりの頃のこと。空腹に耐え兼ねて訪ねたのは大気津比売神の処。彼女はスサノオを歓待して様々な料理でもてなしましたが、実はそれら料理はオオゲツヒメの汚物から生まれた食材で作られていました。

それを見て怒ったスサノオが大気津比売神を殺した時に、生まれたものが蚕や稲、小豆、大豆ら麦などの農産であった、、、という。大気津比売神は農業の起源となった女神さま。朝見さんの今回の小説の題材となった蚕は大気津比売神の頭から湧いている。

このように殺した死体が富に変わる事が有る。これはマレビト信仰とは対極を成すマレビト殺し(異人殺し)という逆作法である。伝承類型では死骸黄金譚というジャンルになるらしい。外界から来た客人(マロウド)を生贄にしたり、殺したりして村が発展する話。福の授かり方が直接過ぎて怖い。歴史的にはそんな殺人村もあったのでしょうか?平時において殺人村はリスクが高すぎると思いますが、飢饉の歴史とか考えると何があってもおかしくないないですね。

で、本題に戻って「お客様は神様です」という言葉。この言葉が何故、日本人に馴染んだのか。それは日本に強く根付いていたマレビト信仰と結びいた日本的コマーシャリズムとして成立したからでは無いでしょうか。

そのような精神性は美しいと思うし、この言葉を倦厭する風潮は少し悲しい。モンスターカスタマーが多くて、従業員がうつ病になったりするので、ご遠慮願いたいお客様はいくらもおりますが、それでも「お客様の中に神様はいる」ことは忘れないで欲しいし、そうした誰が神様かは分からないのであらゆる客を神様として扱うという「見えない神様に対する敬虔」を企業は持つべき。
その可能性を示唆する「お客様は神様だ」という言葉を否定しないで欲しい。だってお客様といえば、そもそもがクランプスやハロウィンといった異端神、つまりは怪物達なのだからね。

09小説「ひとりぼっちの神さま」としべえ

もう誰が神様か分からない!
となった所で本アンソロジーはとしべえさんの作品鑑賞になります。
としべえさんが長く滞在するインド、ネパールは世界最大の神さまの混沌地。インド・ネパールで広く信仰されるのはヒンズー教。とにかく神様が多い。昔からある土着の宗教を取り込み続け、世界各地の宗教も取り込み続けた結果、膨大な神様が生まれることとなりました。神様を見ると取り込んでしまうんでしょうね、習慣的に。
今回のとしべえさんのお話は誰が神様なのか分からない、という話。
神様たちは人間界に気安く現れます。その時にはアヴァターラという仮の姿で現われます。顕現の都度新たなアヴァターラを得ているので、私もあなたもそもそも神様のアヴァターラかもしれない。私はアヴァターラとして神様である事の記憶を無くしておりますが、目の前で話をしているのは自分の本体である神様自身かもしれない(親機と子機みたいな関係?)し、別の神様なのかもしれない。インドの神様は3億人いるとか言われますので、世界人口の20人にひとりは神様であってもおかしくない。そんな緊張感がみなぎる作品です。


10小説「ゴールドフィッシュ・ブギー」武川蔓緒

武川さんの作品。
金魚鉢の中に街があり、それぞれの人が暮らしていて主人公は少女。幻想的な語り口調でイメージ世界が目まぐるしく展開していきます。万華鏡のようですね。金魚鉢という世界には内側と外側があって金魚鉢の中からは外側の世界は伺いしれない。しかし、金魚鉢の外側に観客がいることを知っていて、それを神様と呼ぶこともある。これは我々の世界も同じで我々の世界を見ている観客のようなものがいて、それを我々はやはり神様と呼んでいる。その神様たちが電波を流して……。まあ、それはさておき。
水の中をゆっくりと泳ぐ金魚のように、艶やかに流麗に語られる詩篇のような作品です。

11コラム「オスカー・ワイルド『サロメ』界隈をあるく|西洋絵画も交えて」星の汀

星の汀さんの本記事は世の中のサロメファンを虜にしたようで、また星の汀さんのご人徳、熱意もあってコメント欄が非常に過熱しております。記事が作成されて半年以上が経過しておりますが、まだまだ閲覧数は伸びていそうな。本記事はオスカー・ワイルドの戯曲で有名になった「サロメ」の周辺知識と世界の名匠が描いたサロメのパブリックドメインを網羅したもの。サロメといえばヨカナーン。サロメに所望されて切り落とされたヨカナーンの生首が記事中にこれでもかと云う程並んでおります。
19世紀末に幻想芸術が開花して多くの画家がサロメを描きましたが、やはりサロメ、サロメの母である悪女ヘロディアス、サロメに色目を使うヘロデ王、或いはヨカナーンなどサロメの登場人物は人気があります。
mamatoさんの記事紹介で来訪神の話をしましたが、ヘロデ王に囚われた洗礼者ヨハネ(ヨカナーン)もまた来訪神。神の子が現れる前にその神の子の歩く道を作ると言われる預言者エリヤの再臨の姿と言われます。ユダヤ王国ペレヤの領主ヘロデに対して呪いの言葉を吐き続ける洗礼者ヨハネを、王は捕らえて幽閉したものの、旧約聖書に語られた預言者の再臨と言われる人物を殺す訳にもいかず、かと言って放免もできずに持て余していました。

ちなみに預言者エリヤとはどんな人物かというと、聖書の世界で異端者を滅する役目を負っています。聖書が生まれる前にはシュメールの神々が信仰されていたので、シュメールの神々を信仰する宗教者を誅殺し続けたのがエリヤです。神の子が現れる前にエリヤは現世に再臨して、神の子に仇なすものを誅殺するという予言があります。
暴走族漫画で言えば総長の片腕の特攻隊長、というところでしょうか。カルメル山でバアル神の祭司450人を焼き滅ぼした話が有名で、その過激さが人気です。今も昔も危険で狂気じみた強さというのは人気があるんですねえ。
そんな街ゆく人々の人気者にして来訪神、囚われの客人(マロウド)ヨカナーン、の成れ果ての生首。様々な生首の表情をどうぞご堪能ください。
虜囚、ヨカナーンには神様が付いている。そのヨカナーンを殺してしまったヘロデ王はその直後に戦争で大敗し、後ろ盾となっていたローマ皇帝ティベリウスを病没で亡くし、親族による陰謀が働き新皇帝カリグラによって領地から追放され流刑地で死んでいます。ヨカナーンの死亡から僅か3年。当時の人々からヘロデの急速な失墜は神罰だと言われました。
民衆に人気のあった洗礼者ヨハネの処分を如何する事が彼らの命運を分ける鍵だったのかもしれませんね。

ところで星の汀さんのおすすめの絵はギュスターヴ・モローとの事ですが、全く同感です。これぞ世紀末美術。幻想美の極致です。数点が掲載されていますが、人気があるのは生首が光って浮いているやつだと思います。神々しい生首です。


12小説「黄泉平坂墓地太郎事件簿 -墓地太郎、死す-」ムラサキ


これはワタシ。


おわりに。

お客様の中に神様はおりませんか?とカミサマを尋ねれば、ぞろぞろ現れる神様集団。今回はお客様、それから神様を巡る回となりました。

ギリシャ神話に登場する神、機会の神、好機の神カイロスは美しい前髪をもちますが後ろ髪がありません。一瞬で通り過ぎるカイロスを捕まえるためには前から掴むしかない、、、。

好機の形は分かりにくく、時にそれは怪物、或いは武塔神(疫病神)の姿をしている。誰もが神性を宿しているのだと日頃から心得ておかないと目の前のチャンスには気が付かないものです。
みんな、神様をゲットだぜ!目の前のソイツを捕まえろ!そいつが……神……ッッ!!
あっ……電波が……ッッ!!神様ラジオが始まるーーよーーー!!

今月もお付き合い下さりありがとうございました。ご参加の皆様、読者の皆様に感謝を。皆様に神様のお恵みがありますように!



天地人(互選)


むかしむかし。本企画を延々遡上致しますと「互選」なるものをしていた時期がありました。良作品をお互いに選びあって称え合うという企画でしたが、私の気分で方法がだんだん変わり昨今の山羊郵便企画に至っておりました。が、そろそろ原点に立ち返り互選を復活しても良いように思います。今回のアンソロジーに応募のあった作品から良いと思われる作品3つを選び、「3点」「2点」「1点」の配点を行ってください。集計結果はテーマ発表の時に合わせて致します。以前の互選をご存知の方も少ないかと思いますが、以前は集計前の途中経過が見られるようにしていましたが、途中経過は公開しません。投票はひとり一回に限ります。投票する時にメールアドレスを登録するようになっています。(集計結果を公表する時に登録されたメールアドレスは公開されません)
さあ、読み合え!称え合え!ROM様も歓迎です。是非ご投票ください!(締切は6月24日月曜日18時まで)
結果をお楽しみに!


次回テーマの投票


文芸ネムレヌのテーマは投票によって決まります。Nem達の命運を左右する次回テーマは……!
お気軽にご投票ください。どなたでも投票できます。(締切は6月24日月曜日18時まで)

早く次のテーマが知りたい!という方はNEMURENUのホームページで速報がご覧になれる、ハズ。https://murasakikairo.wixsite.com/nemurenu



次次回テーマの募集

次次回の投票候補を募集しています。書きたいテーマ、読みたいテーマ。ご応募ください。毎度、謎ワードのご応募ありがとうございます!

それでは再見!また会いましょう!今回のご案内はムラサキ事務所のムラサキ26号でした。



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