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メガバンカー、シングルファーザーの子育て

メガバンクのSさんから、
「ムスコが早稲田大学の大学院に行くことになりましたから、
大隈塾、よろしくお願いします」
といわれたのが去年のこと。
そのときにはまだ大隈塾はあったので、
「どうぞどうぞ」
と。

ひさしぶりにSさんにお目にかかったら、
メガバンクからベンチャー企業に転職してた。

シングルファーザーの子育て

今から少し前のこと……。

離婚して息子さんとふたり住まいになった。
息子さんはまだ中学生。
Sさんは、毎日仕事から帰ってくると、
疲れ果ててそのまま眠ってしまう。
仕事、寝る、仕事、寝る、仕事、寝る。
息子さんは、ゲームばかりしていた。

そんなあるとき、
息子さんには高校に行ける学力がついてないことを知らされる。
東京では受け入れてくれる高校はなかった。
なんとかしなきゃと思ったSさんは、
いろいろと手を尽くすが、肝心の本人がなんとも気乗りがしていなかった。

Sさんには、子どもの進学のほかにも悩みがあった。
バンカーとして、このままでいいのか、と。
リーマンショック以来、メガバンクは目先の利益を追うことばかりに血道を上げてきた。(個人の感想です)
経営にアドバイスをする、いっしょに大きくなる、社会の役に立つ、
そんなバンカーを目指していたのに、理想とはまったく違ったやらされ仕事ばかり。
それでも、メガバンクで働いていることには誇りを持っていた。

仕事と子どもへの不満をいっていると、
「お前ももっと勉強しろ!」
とキツいアドバイスを受けた。
「大学院でもっと経営の勉強をしたらどうか」
なんにも知らないくせに、文句ばっかりいってるんじゃない、と。

そこで、一念発起して大学院への入試のための勉強を始めた。
仕事から帰ってくると、リビングで参考書を開ける、
来る日も来る日も、リビングで勉強し続けた。

努力のかいあって、早稲田大学のビジネススクールに合格できた。

喜んでいたのもつかの間、入試以上の勉強がSさんを待っていた。
だけどSさんは、新しい知識を得る、ものごとを考える、
そういう学びの楽しさがわかるようになっていた。
だから、夜遅くまでの予習や復習を休むことなく続けていた。

Sさんが勉強を始めたころ、息子さんは、相変わらずゲームしていた。
だけど、だんだんゲームの音が小さくなり、
ゲームじゃなくて、宿題をするようになっていった。

すると、成績がどんどん上がっていき、
数ヶ月前の彼とはまるで違った生徒になっていって、
高校も大学の付属の学校に。

大学院に入ったSさんと高校に入った息子さんは、
互いに励ますように学び続け、
Sさんは大学院を卒業、息子さんは大学に入学。
いい感じで、父子ともにライフステージが変わっていった。

シリコンバレーで出稽古の連続

Sさんは学びを続け、アメリカのシリコンバレーに自費で通い、
いろんな人たちにアポイントを取って、インタビューしていった。
メディアではなく、個人的なインタビューの場合、
基本は情報をtakeしてどこかに発表することではなく、
こっちの情報をgiveして、相手も情報をgiveする。
こっちの情報の量と質によって、あっちの情報の量と質もきまってくる。

Sさんの情報は、日本のベンチャー事情だった。
ベンチャー企業に興味を持ったSさんは、
東京渋谷のスタートアップ企業の経営者にアタックしまくり、
ベンチャー界隈では「渋谷に変なメガバンカーがいる」と有名になった。
一人に会うと、その友人の経営者もついてくる、
芋づる式に人的ネットワークが広がり、
信じられない数の新規口座がどんどん開設されていった。

そうして集めた情報から、シリコンバレーでの最新の情報を得、
それを渋谷のベンチャー企業たちにgiveする。
企業たちからのgiveを受ける。
シリコンバレーに行く、という好循環がうまれていった。

渋谷とシリコンバレーとの人的ネットワーク、
その関係性が良くなり、
最先端の技術と情報によって思考の質が上がり、
行動がアグレッシブになり、
仕事の業績がどんどんあがっていった。

アメリカやヨーロッパにいくとき、必ず息子さんといっしょにいった。
早稲田大学の大学院に通えるようになった息子さんと、
自律的な学習を続けるその父親。

Sさんの子育て、最高だなと思う。

そして、転職することに

だけどサラリーマンだった。
Sさんは人事異動で、本店にいくことになった。
栄転、出世だ。
しかし、いままでとはまったく違った仕事内容になる。

そのときに、ベンチャー企業から転職の誘いがきた。
悩んだが、ここがステージの替え時と、
メガバンクを辞めて、活躍の場を変えることにした。

会社を去るにあたって、彼のことをみんなが惜しんだ。
かつてなら、中途で転職する人は裏切り者あつかいだったが、
Sさんの人徳もあり、アルムナイの風潮もあり、
ありがとういってらっしゃい的な雰囲気で、
古巣にいろんなタネを残しながらの転職となった。

別の機会で。
役員がSさんにお願いした、
「ベンチャー企業とのノウハウをおいていってくれ」
と。
Sさんは答えた。
「どんなノウハウでも置いていきますが、実を結ぶまで時間はかかりますよ」
役員も答えた。
「そうじゃなくて、すぐに収益を上げるノウハウを頼む」