見出し画像

【連載小説】聖ポトロの巡礼(第21回)

はじまりの月7日

 平坦な道を歩いていく。周囲は背の低い草の茂る草原だ。でも、歩いているといきなり、道がなくなった。草原もだ。オベリスクの周囲は、直径は100メートルくらいだろうか、完全な円形の地面に囲まれている。しかも、地面の材質は土ではなく、表面をざらざらにした黄土色のプラスチックのような感じで、これも明らかに人工的なものだ。

 かつてのポトロたちも、俺と同じような驚きと恐怖を胸に抱きながら、この謎の物質の上を、あのオベリスクまで歩いたんだろうか。
 そう、ここまで来ると、このオベリスクの巨大さが、まるでのしかかってこんばかりの迫力となって俺に迫ってくる。いやはや、でかい。自分より大きなものに対する、根源的な恐怖が呼び起こされる感じだ。だけど、俺は行かなくては。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 とうとうオベリスクの前にたどり着いた。いやほんと、でかい。

 ここは、オベリスクが上のほうで二股に分かれてる、その分かれ目の真下だ。オベリスク表面の材質は、まさに錆びた鉄だった。だけどおかしなことに、まるでわざと錆びさせたかのように、全体が完全に均一に錆びきっていた。そして長年風雨にさらされているはずなのに、錆び方に全くムラがないのが逆に恐ろしい。今なお、何らかの人為的な力が加わっている証拠だ。こんな技術、前の世界でも見たことがなかった。これは一体何なんだ。

 俺はオベリスクにそっと触れてみた。すると、目の前に正方形の穴が音もなくいきなり現れた。大きさは2メートル四方くらい。
 ここから入れ、ということなのだろう。
 穴は真っ暗で、奥に何があるのか分からない。俺は少しためらったが、意を決して中に入ってみることにした。まず一歩踏み出す。特に変わった様子はない。中に入って2、3歩進んでみる。すると、周囲がいきなり真っ暗闇になった。おそらく後ろの穴が、元通り音もなく閉じたのだろう。俺は思わず立ち止まる。

 すると、遠くからレールのような白い2本の光が、音もなくこっちに伸びてきた。どうやら、この通りに進めということらしい。俺はその光に沿って歩く。しばらく歩くと、光のレールは直径2メートルくらいの大きさの、光の円に行き着いた。俺はその円の中央に立った。するとどうだ、円はいきなり真下に向かって、すごいスピードで下り始めたのだ。俺はバランスを崩し、思わずその場に尻餅をついたまま、呆然と状況になすがままにされる。

 少しずつスピードが落ちてきたかと思うと、おもむろにエレベーターは停止した。そして、俺の後ろからパーッと明るい光が差してきた。額に手をかざしながら振り向くと、そこは真っ白な廊下だった。プラスチックのような、セラミックのような、よく分からない物質で壁や床、天井が作られていて、どうやらその素材自体が光を放っているらしく、廊下はとても明るい。
 俺がそこに歩み入ると、後ろで小さく「チーッ」という音がして、振り向くとそこも周囲と同じ素材の壁になってた。向き直って、俺は廊下を先へと歩く。

 行き着いた先は小さな部屋だった。中央に祭壇というか、円筒形の台があって、その上に金属のプレートがはめ込まれている。そこにはこう書かれていた。
「コンポッタイーギポコンイーナヌーモゼン」
俺はその通り、持ち物を全部そこに置いた。すると、入ってきたところの向かい側の壁が消え、その向こうに同じような白い廊下が現われた。俺は先へ進む前に、台座に置いた水筒の水を全部飲み干した。緊張してたせいか、かなりのどが渇いてた。

 新しい廊下の先は、前と同じような広さの小部屋で、中央に白い大理石のテーブルと椅子が、部屋の一画には大理石のフレームのベッドが置いてある。
 ここに泊まれということか。
 おあつらえ向きに、食事と飲物がテーブルの上に用意してあった。さっきの水で俺の胃は結構たぷんたぷんだったが、いつ何が起こるか分からない。俺はそれらの食べ物を無理やり胃に詰め込んだ。食事が終わってから、俺は部屋を一つ戻って、このノートと羽ペンとインクを持って再びテーブルに着いた。今日起こったことを、もらさず書き留めておくためだ。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 で、ここまで書いたわけだけど、強烈に眠くなってきた。きっと食事で緊張が途切れたんだろうな。これまたおあつらえ向きのベッドもあるし、少し眠るとしよう。
 明日目が覚めればいいが・・・。



「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)