【連載小説】聖ポトロの巡礼(第15回)

 おしまいの月30日

 いやー、久々に歩いたらもうあっちこっち痛くてたまんないぜ。もう足なんかパンパンだよ。休憩休憩。体なまりすぎ。

 過去の日記によると結局、『城塞都市ゼビル』(いやーカッコいい名前だなぁ・・・ファンタジー小説みたいだ)には2カーマ以上滞在したことになるな。いやはや、日記がそんな風に役立つなんて知らなかったよ。やっぱり何でもやってみるもんだね。

 最近は、こうやって羽ペンを持って、このノートに自分のことを書き連ねるのが、楽しくて仕方がないんだ。誰に読ませるわけでもない、自分自身が読むだけの文章なんだけど、過去の自分との対話っつーか、一方通行ではあるんだけど、でも、自分では気付かない自分自身の変化みたいなものを、このノートが教えてくれる気がする。
 旅の始めの頃は、正直なんで自分がこんな目にあうのか、少しクサり気味だった俺が、今はこの旅を少なからず楽しんでいる。
 それに、昔の日記を読むと、実際の文章には書かれていなくても、それを書いているときの自分が思い出されて、ああ、そういえばここまで書いたとき遠くで渡り鳥の声を聞いたなとか、この部分はちょっと見栄を張ったなとか、書いた俺にしかわからない楽しみがあるね。もし俺以外の人間が将来これを読むとしたら、そんなことは露ほども知らんわけだ。ザマーミロだ!

 さて、節々が痛いので今日はこれくらいで野宿にするかな。ていうか昨日出発して、まだほとんど歩けてないんだけどね。

 出発のときには、町の出口(入った巨大門の反対側だった)までズモーが見送りに来てくれて、俺の手を固く握って
「頑張ってくれ、なにせお前さんには、世界の未来がかかってるんだからな」
と、また意味深なことを言って見送ってくれた。

 そそ、最後にズモーが一つだけ教えてくれたんだけど、俺が森で見た首の取れた死体は、ポトロではなくてニセポトロなんだそうだ。何事にも優遇されるポトロに成りすました現地民は、バレたら即死刑だという。怖い話だ。
 そして最後にズモーは、
「ポトロの旅の安全は完全に保障されているから、そこだけは安心していい。まぁ、頑張ってくれよ、後輩。」
と言ってた。そういえば、毒で死にかけてたときも、誰かが集落まで運んでくれたんだっけ。結局、誰が運んでくれたのかは分からずじまいだけど。

 そんなわけで、今後は特に何にもおびえることもなく、旅が続けられそうだ。まだまだ先は長いみたいだし、のんびり行こう。



「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)