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【連載小説】聖ポトロの巡礼(第11回)

おしまいの月15日

 へこむわー。

 いやもうほんと、へこむわー。昨日からへこみまくり。この気持ちを何にたとえたら分かりやすいだろうか。うーん、まだ夕べの酒が残ってる脳みそでは、気の利いた言葉が全然浮かんでこない。いや、考える気力も湧かない。ていうかもう何もする気になれない。

 へこむわー。

 何って、ここは「王国」じゃなかったってこと。
 てっきりそうだと思ってたのに。じゃぁここは一体なんだ? ただの大きな都市なのか? 多分そうだ。俺の旅の目的地とは、微塵も関係ないただの経由地だ。か~~~~~っ、ド畜生め。

 まぁその、冷静になって考えてみたら、誰かに「ここが王国ですよ」って教えられたわけでもなく、自分で勝手に「ここが王国に違いない(キリッ)」とかって思い込んでただけだから、間違ってたとしてもおかしくはないんだけど。
 でもさ、ピトでさえこんなに大きくなかったし、「王国」って言われるぐらいだから、すごく立派で大きな都市を想像しちゃうじゃない?
 でさ、苦労した挙句に見つけた大都市は、実は王国じゃないよって、なんか逆に変な感じでしょ? ここが王国だったほうが辻褄が合うでしょ?
 ま、実際違ってたわけで、今更そんなん言ってもどうしようもないんだけど。

 何でそれが分かったかって? フン、昨日行った、町の中央に位置する、ひときわ大きい建物。それは多分行政の中心のような所で、俺はきっと王様がいるに違いない(だって「王国」だからね)と思って、トコトコ行ってみたわけよ。
 ま、王様がいるにしては、お城みたいな豪華な建物でもなく、大きくて立派ではあるけど、どちらかというと役所に近い建物だったし、豪華な飾りつけとかもないし、変わった王宮だなぁとは思ってたわけよ。
 で、中に入ったら、じゅうたんの敷いてある廊下が左右に長く伸びてて、正面に樫の長机があって、そこに人が一人立ってて。もう間違いなく受付だと思って(考えてみたら、王宮なのに近衛兵とか全然いなかったもんな。おかしいよな)、そいつに「俺はポトロだ、ロヌーヌに会いたい」と伝えたわけよ。

 そしたら、ここは王国ではないから、ロヌーヌはいないとか言うわけ! 

 俺はもう目玉が飛び出るくらいビックリして、いやそんなはずはないよ、ここが王国でしょ? って聞いてみたら、いえ、ここではない、とのつたない返事。
 じゃ王国ってのはどこにあるのか、とたずねてみたら、例によって「ずっと遠いところ」にあるんだそうだ。もう、口をパクパクさせながらその場で呆然と立ち尽くす俺の姿はきっと、昔のロメロ映画に出てきたゾンビにそっくりだったはずだ。

 その後、俺は宿の近所にある飯屋で、浴びるほど飲んだ。この町の酒は、ビールとワインを合わせたような味で、ちょっと甘ったるい感じの発泡酒だ。でももう味なんかどうでもよかった。とにかく一人で飲んで飲んで、あとハンバーガーにそっくりなバンナバンナっていう料理を貪り食った。どうやって部屋まで帰ったかは覚えてなくて、気がついたら服のままベッドで寝てた。ひとっ風呂浴びて、こうやって自分の恥ずかしい失敗談を書きなぐってるわけだ。えーいもうどうにでもなれ!

 いや、どうにでもならなくて、実はここが王国でしたとかってことにならないかなぁ。

 ・・・ならないよなぁ。



「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)