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【連載小説】マジカル戦隊M.O.G.(第15回)

前略

もうすぐ首都決戦の準備が整う。

今日は新兵器の訓練が大々的に行われた。
これほどの規模で軍事演習を、しかも戦地の真っ只中で行うっていうのは、きっと敵さんに対する牽制の意味を多分に含んでいるんだろう。
実際のところ、魔道部隊を持ってない相手からすると、我々の存在はかなりの脅威だろうしな。

その新兵器、どんなものかお前さんにはこっそり教えちゃおう。
それは俺たち乗り手の魔力を少しずつ消費しながら、かなり自由自在に空を飛ぶことができるっていう恐るべき乗り物で、「魔道飛行具」っていうそのまんまの名前だ。

コイツは飛行機のように滑走路も必要なく、ヘリコのように大きくもなく、騒音もほぼしないから、敵地に真っ先に駆けつけて、空から呪文をバンバン投げつけられるって寸法ナノダ。
とうとう俺も最前線に狩り出されるときが来たって訳だな。
ま、それはさておき、この道具、鈍い銀色をした細長い筒の形をしてて、先端は空気抵抗を減らすためか、先細りながら丸くフタがしてある(初期の新幹線みたいな感じだ)。
フタのない、もう一方の先には赤い縁取りがしてあって、そっちが後ろ側になるように、俺たちはそれにまたがる。
で、「アイク・ロロマーノイ」と出発の呪文を唱えると、筒の後ろから、ほの赤い推進炎のようなものが噴出して(コレは起動中であることを分かりやすくするような、ただのディスプレイなんだと思うんだけど)、俺たちはすっと宙に持ち上げられる。
細い棒っきれにまたがったまま空を飛ぶのは危険な気がするだろうが、心配無用、俺たちは道具ごと一種の力場に包まれるらしく、空に上がっても、地上でなんとなくまたがってるのと感覚的に余り変わらない。
しかも、この力場は意外に強力なようで、ハンドガン程度の攻撃なら跳ね返せる性能を誇っているらしい。
バズーカで狙い撃ちされるような状況じゃない限り、割と安全に戦場の空を飛んでいられるっていう触れ込みだ。
操作は至って簡単、握ってるその棒の向きをうまく操れば、自由自在に空中で飛行・転回・停止・上昇下降ができる。
コレ、最初はかなり怖かったけど、慣れればもう最高に気持ちいい。
スピードメーターはないけど、きっとゆうに100キロのスピードが出てたはずだ。
しかも空には障害物なんてないからね。
その爽快感たるや、ほかのもので例えて話すことができないぜマジで。
ただ、訓練場の結界から出ないようにしないといけないから、今日はそれ以上のスピードは出せなかったんだけど。

という説明から想像はつくだろう。
この道具、俺たちはすでに「ホウキ」って呼んでる。
おそらく開発したやつも、「魔法使いはホウキに乗って空を飛ぶ」って本気で思ってたんだろうな。
いやはや、明日をも知れない戦場で、こういうジョークはホント心が和む。
それに、コレが殺人の道具だと分かっていても、この爽快感は本物だ。
戦争が終わったら是非民間に出して、スポーツとして普及させて欲しいと思う。

もう一つの新兵器は、魔道電池って言って、俺たちの魔力を蓄えておくキャパシタみたいなもんだ。
これは見た目にも地味だし、使い道としては結界の維持とか、魔道アーマーでコフィンの代わりとか、そういう感じだから、ここで説明するのはよそう。
すごい発明なんだろうけど、正直俺たちも、ホウキほど興味が持てない。

というわけで、もうすぐ最前線デビューだ。
明日は朝から作戦ブリーフィング。
といっても、「行けー!殺せー!」って内容だと思うんだけどね。
気が重い。
でも、あのホウキに乗って空を自由に飛べるっていうのは、そこだけは非常に魅力的に思える。
人殺しなんてやりたくないけど、アレに乗って空を飛べるのは・・・
いや、いかんいかん、もう俺もだいぶ自分の手を血に染めてきたから、感覚が麻痺してきてるのかもしれないな。
他人の命を奪うという行為の、重大さ、卑劣さに対する感覚の、ね。

こんな俺だけど、そっちに帰ってまたうまくやれるんだろうか。
元通りの日常に復帰できるんだろうか。
いや、そのためにも、俺がここで踏ん張って、そっちにまで戦火が広がらないようにしないとね。
俺がなんとか頑張るから、お前さんたちは何ら心配いらないぜ!
ま、いざとなったらきっと、また気絶してる間に敵が全滅してるさハハハ・・・。

早々



「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)