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【連載小説】聖ポトロの彷徨(第21回)

《外部からの干渉検出:最優先》

・・・【自動記録開始】

「そうかあんたが。」
「前任者って呼ばれてるんだろ俺? ハハ、何を任されたのやらね。」
「ああ、ポトロってやつだ。・・・大役だったろ?」
「いやいや、そうでもないさ。ただ横になってただけだ。」
「で、何であんたがここにいるんだ?」
「まあ、せっつくなよ。順番に話そう。」
「待ってくれ。コムログに会話を記録させてもらう。」
「いやいや、その必要はないよ。記録ならすでに始めてるはずだ。」
「・・・あんたがやったのか?」
「いや、ロヌーヌが。」
「生きてるのか!!」
「ああ、ええーと・・・順番に説明しようか。とりあえず、中に入れてくれないか。」

【電池残量警告:ゲインに自動切替】
【記録の一時中断】


【記録再開】

「・・・それは苦労かけたね。」
「ああ、とんだ迷惑だ。てっきり、歓迎セレモニーでも用意してくれているんだと思ってたんだがな。」
「いやはや失敬。まぁ、迷惑をかけるのは分かってたんだけどさ・・・でも、こうしないと、こちらの現状が分かってもらえないかと思って。」
「十分強烈だったさ・・・」
「だいたい、ピトに転送してくるからいけないんだよ・・・あそこはロヌーヌから一番遠いのに。」
「先に教えてくれればよかったんだがな・・・それで、一体、サバラバに何があったんだ?」
「少し長くなるけど、いいかい?」
「もちろんだ。」

【電池残量警告】
【記録の一時中断】


【記録再開】

「その過酷な旅の最後に、あんたが見たものは何だと思う?
あれは、サバラバの本当の姿さ。あれを見たことがある人間は、そうはいない。
山のようなものが、宙に浮いていたろ? そう、サバラバは浮いているんだ。あんたが見たのは、浮遊大陸の底の部分だよ。

で、地震が何度もあったろ? サバラバは、落ちかけてるんだ。コントロールを失ってね。
ロヌーヌ本体はもう修復不能で、残った姿勢制御装置の予備電力もほとんど限界に来てる。完全に着水してしまうのは時間の問題なんだ。その後サバラバは、浸水して沈没、惑星全体を覆う海の藻屑となるしかないんだね。
おっと、お茶が冷めてしまう。ノーラさんの淹れた紅茶はマジ旨いよな。

・・・ええと、ロヌーヌに致命的な物理的損傷が起こった時、浮遊大陸にあったものは全て予備のメモリーパックにバックアップされた。もし十分なハードウェア領域が確保されれば、それを元に、サバラバを仮想空間として運営することも可能で・・・ほら、今君たちがこうやって生活してるような感じにはできるんだ。だから君が住人たちを案ずることはないよ。

それにしても、今ここが、ロヌーヌの予備端末が作り出している仮想空間だって信じられるかい?
肉体を伴って生活していた頃となんら変わらないだろ? まぁ、ハードのキャパに限界があるからさ、これ以上大きな世界は造れないんだけどね・・・。今だって、僕を登場させるのに、あっちの山を1つ削ってあるんだ。」
「仮想現実・・・いや、待ってくれ。私の意識体は、本物を提供しているわけだから、仮想空間上に再現できるのは分かる。だが、ノーラのあれは、一体どうやったんだ? あれはただの幻なのか・・・?」
「まぁ、幻っていうのはある意味アタリだ。仮想空間なんだからさ。だが、単なる幻じゃないのは、君が一番よく知ってるんじゃないの?」
「・・・。」
「彼女は、君の記憶と、地球のアルカイックレコード内の記録、そして、君が大切に持ち歩いていた彼女の遺伝子情報・・・つまり彼女の遺髪を元に、外見的特徴と人格を再構築した後、AIで動かしている擬似人格だ。まぁ擬似とはいえ、再現率は98%以上のハズだから、ほぼ本人と言えるだろう。」
「・・・私も、今はAIなのか?」
「いやいや、君の脳は入手している。脳と肉体の現構造を完全にデータ化してエミュレートしているわけだから、AIではなくて、むしろサイボーグが近いんじゃないかな?」

【電池残量警告】
【記録の一時中断】


【記録再開】

「ま、待ってくれ・・・じゃあ、それじゃあ、地球もかつて、そうやって海と陸に分かれたというのか?」
「そうなんだ、実は。・・・大体さ、よく考えてみてくれよ。宇宙空間で回転する球体は、遠心力と重力のバランスによってその形を維持してるんだぜ。あんなに水の多い惑星が、あんな形で海と陸に分かれてるなんて不自然だと思わないか?」
「・・・じゃ、その小惑星の衝突で、再びこの星にも陸地ができるというのか・・・」
「ロヌーヌをぶち折った隕石は、その前哨戦といったところなんだろう。事実、この星には現在、相当な数の隕石が、毎日叩きつけられてるんだ。」
「それはいつ起こる?」
「こちらの暦で、10年と8か月後にXデーが来ることになってる。」
「なるほどな・・・時間がないわけだ。」
「そうなんだよ・・・。ちょっと困っててさ。」
「・・・月が三つになるな。」
「フフ、これからの夜はきっと、まぶしくて眠れないんじゃないのかな?」

【電池残量警告】
【記録の一時中断】


【記録再開】

「・・・つまり私にも、ポトロになれと言うのか?」
「さすが、察しがいい。俺みたいな凡人とは訳が違うね。」
「茶化さないでくれ・・・もしそうなると、私はもうここから出られなくなるんだろう?」
「ぶっちゃけ、そうだ。でもさ、悪い条件じゃ、ないだろ?」
「・・・。(溜息)」
「・・・。」

【電池残量警告】
【記録の一時中断】


【記録再開】

「ご馳走様。ノーラさんにもお茶のお礼を伝えてくれないか。俺は手話ができないんだ。」
「分かった。よかったら、今度は遊びにでも来てくれ。」
「はは、多分無理だと思うけど・・・ま、ロヌーヌに申請してみるよ。」
「・・・最後に一つだけ、教えてくれ。」
「なんだい?」
「もし、私がポトロになることを拒んだ場合、どのように意思表示すればいい?」
「ああ、忘れてた。簡単さ。自殺すればいい。」
「じ、自殺!?」
「そそ。ここで生活できなくなれば、君は元のカラダに戻されるよ。」
「ここでの記憶は・・・当然なくなるんだな。」
「ご名答。本物の脳は現在、凍結状態だからね。」
「そうか・・・色々ありがとう。」
「じゃ、お幸せに。」

《外部からの干渉消失:以降は自律モードです》

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【充電してください】
【充電してください】
【充電してください】



「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)