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【連載小説マジカル】戦隊M.O.G.(第16回)

前略

AM4:00起床。
夜明けと同時に出撃。
首都郊外に設置された敵軍の仮設空軍基地をホウキ部隊が空から奇襲。
敵部隊出現と同時にホウキ部隊と魔道アーマーによる是れの殲滅。

これが作戦の概要。
要するに、俺たちはホウキで飛んでって、火の玉とか氷の矢とかを空からバンバン落とせってこった。
でその後、ヘリコや戦闘機とドンパチやらかせってことだな。
無茶な話だ。
バイクで戦車とやろうとしてるわけだ。

予定通り俺たちは、ホウキにまたがってほの暗い茜空高くへ飛び上がり、敵さんがまだ寝てる仮設基地のほうへ向かった。
俺たちのホウキは小さくて音もしないし熱も出さない、要するにたいていのレーダーには引っかからないから、敵さんもそう簡単には見つけてくれない。
だからもうほとんどウチの狙い通り、基地まで何の障害もなく到達して、あとはもう火の玉バッコンバッコンよ。
雲に手が届くくらいの、かなりの上空から攻撃してるのが幸いだ。
人が焼け死ぬのやら、悲鳴を上げて逃げ惑うのやらを見なくてすむからね・・・
こないだ自分が同じような目にあったのなんて、この際何の慰みにも言い訳にもなりはしないよ。
今日俺は、人を自分の魔法でどんどん殺してきたのさ。
しかもその現実から、体よく目をそむけながらね。

笑ってくれてもいいよ。
いや、叱ってくれるほうが楽だ。
だけど、この事実はもう曲げようがない。
自分が生き続けるために、俺は大勢の人間に犠牲になってもらった。
もしこれが罪だとするなら、俺は罰せられるべきだ。
それは一向に構わない。

ただ、一つ言えることは、とにかく、何かが狂ってる。
人類全体を黒いタールのような、ヘドロのような、取ろうとしてもなかなかぬぐえない、どろりとした不可思議な感覚が覆っていて、俺もお前も、そしてみんなもそれを必死に見ないようにして、何日か、何ヶ月か、あるいは何年か先のことだけを考えて生きてる。
だけど、目をそむけ続けてる間も、それは確実にそこにあって、いつでも俺たちをねっとりと覆って、そして支配してるんだ。
それだけは絶対忘れるべきではないと思う。

で、その段階で敵さんの空戦力はほとんどなくなっていたので、そのあとは空をうろちょろして哨戒するだけ、つまり俺たちの仕事はほとんどこれで終わりだった。
幸いにもヒコーキ相手にドッグファイトしなくて済んだ訳だけど、考えてみろ、得体の知れない新兵器が空にうじゃうじゃいるんだぜ?
敵だってアホじゃないんだから、そりゃ簡単には上がってこないよ。
でも、地上に残ってた対空ミサイルに狙い打たれて、こっちのホウキ隊員も何人か蒸発しちまった。
俺も爆風に巻き込まれそうになったけど、火炎優位だったせいだろう、力場が持ちこたえてくれたおかげで何とか生きて帰ってこれた。

しかし、さすがにヤバいねこのホウキってやつは。
レーダーその他の計器類は一切ないし、ホントに勘だけが頼り。
いくら魔法使いでもさ、超能力者でもなんでもないんだから、マジでそりゃないよと思うんだけど・・・
俺たちの声なんざ、魔力のない雲の上のやんごとなき皆さんには一切届かないんだろうなきっと。

明日も戦争は続く。
俺の人殺しレポート、続きをお楽しみに。
あ、このことは奥さんには、まだしばらく内緒にしといて欲しい。
いつか話す機会ができたら・・・俺の口から話すよ。

早々



「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)