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【連載小説】聖ポトロの巡礼(第9回)

おしまいの月9日

山道をなりふりかまわずひたすら進む。峠にある断崖の上にたどり着いたんだけど、見下ろすと眼下には、なんと城砦に囲まれた大きな都市が!
 あれこそ王国に違いない! やった! ついにたどり着いた・・・長かった。

いやもうアレを見て以来、ほとんどろくに睡眠もとらず(眠ろうとしても眠れなかったからなんだけど)、黙々と歩き続けてたから、王国の姿を見たとたんふっと力が抜けちゃって、その場に大の字になって眠ってしまった。
気が付いたら今日の朝。やっぱり疲れてたんだね俺。場所を選んでる余裕もなかったから、体中が砂埃まみれだ。口の中もなんかざらざらする感じ。
いやしかし、この山を下ったら、あとはあの都市に向かって歩いていくだけだ。そう考えたら、いくらか不安も紛れるってもんよ。もうすぐこのしんどい旅も終わるんだろう。よかった。

そうそう、こないだ俺が何を見たのか書いておかないと。ここ何日かずっと夢に出てきた。自分がそうなる夢も。

あの日、いつもどおり歩いて旅を続けていて、森の中で一休みしようと岩陰に腰を下ろしたとき、ふと脇を見ると、そこにはなにやら丸いものが。おや、と思ってなんとなく手にとって見ると、それはなんとされこうべだった。完全に白骨化してて、頭にはボロボロのベレー帽の成れの果てみたいなものをかぶってた。うわ、と俺はそいつをあわてて手放した。
さすがになんとなく気持ち悪くなって、休憩をやめて周囲を調べてみると、さっきの首から下と思しき白骨死体を、何メートルか離れた所で発見した。服はボロボロだがまだ残っていて、どうやら俺が着ているのと同じような、このサバラバの伝統的な着物のようだ。
更に近づいて調べると、その死体の胸に見覚えのあるものが・・・それは木彫りのプレートで、見たことのある言葉が書かれていた。このサバラバの文字で、「ポトロ」。
ポトロ! こいつもポトロなのか!? なぜこんなところでこんな無残な死に方を?・・・ふと脇を見ると(今思うと単なる偶然だったんだと思うけど)さっきのガイコツが、目玉のない顔で俺をじっと見ていた。『俺は殺されたのに、お前はなぜ生きているんだ?』そう問いかけるように・・・

俺は怖くなって夢中でその場から逃げ出した。
ポトロだから安全に旅ができるとばかり、漠然と考えてた。でも、俺だっていつあんな目にあってもおかしくないんだった。どこにいるのかも分からないこんなおかしな世界で、誰にも知られることなく殺されて骨になる・・・そんな死に方ってあるかよ! でも、今の俺には身を守る術なんか一つもない。きつねの森に置き去りにされた野うさぎのような気持ちだった。
とにかく、森を抜けなくちゃ。それだけを考えて走り、疲れたら歩き、俺は黙々と進んだ。限界が来たら、できるだけ見晴らしがいいところを選んで、岩陰でうとうとした。眠ろうとしても、まぶたの裏であのガイコツがずっと俺をにらんでいた。さも恨めしそうに。『俺と代わってくれ』と言わんばかりに。謎の大男に首を切られる夢も何度も見た。もう睡眠どころの話ではなかった。とにかく森を抜ける。それだけだった。

今日になって、割と開けた場所に出た。山道は続いているけど、森と言うよりは斜面だ。ごつごつした岩と石ころの道で、結構ほこりっぽい感じ。でも、暗い森と違って見通しがいいし、そんで日光の当たる道を歩いていたら、いくらか気分が紛れてきた。そして、王国の姿だ。

もうすぐ旅も終わるだろう。もう少し休憩したら、また歩こう。



「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)