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【連載小説】聖ポトロの巡礼(第17回)

おしまいの月49日

 危なかった。水が切れて丸一日。あと一日余分にかかってたら、また行き倒れてたはずだ。集落が発見できてよかった。
 集落に着いてからは、かつてない量の水を浴びるように飲んだ。いや、うまかったね。体にじゅわじゅわ音を立てて浸透していく感じだった。

 今日は集落の雑貨屋に世話になることになった。どこへ行ってもポトロは歓迎されるようだ。みんないやな顔一つしない。とても不思議だ。
 でも、サリサを貸してくれ、あるいは売ってくれという頼みだけはどうしても聞いてもらえない。これもまた不思議なことだ。旅の初めの頃、通り過ぎるサリサに、少し乗せていってもらえないかと聞いたことがあったけど、そのときも返事はンナンナだったし。
 どうやら、ポトロには「歩く」ことが義務付けられているようだ。そのかわり、どこへ行っても歓迎されると。つじつまは合うような気がするけど、なんかやっぱり腑に落ちない。不思議だ。

 店の女主人に、明日のことをたずねてみる。明日は聖ポトロの日だったはずだ。お祭りに出かけたり、ミサに参加したりとか、そういうことがあるんだったら、いくらポトロだからとはいえ邪魔するわけにはいかないからね。
 そしたら、明日は昼から、集落の人みんなが井戸の周りに集まるらしい。ふーん。でもその為の準備みたいなの、誰もやってる様子ないなぁ。手の込んだ料理やら歌や踊りなんかでお祝いしないのかな?
 ただ、その女主人も、聖ポトロの日にポトロが立ち会うのはとてもいいと言ってた(縁起が、だと思う)。

 明日が聖ポトロの日で、その次の日がロイロ・ポーラ、つまり始まりの月の1日目になるらしい。

 つまり、聖ポトロの日は、カレンダーから外されているのだ。

 1年は7ロイロで、1ロイロは7カーマ、1カーマは7ガインで、計算すると1年は343ガインということになるけど、聖ポトロの日があるために、1年は344ガインなのだ。ホントに不思議なカレンダーだと思う。

 それほど重要な記念日なのに、みんな何の準備もないなんておかしくないか? いや、俺が間違ってるのかな。サバラバ暮らしが板についてきたのか、俺自身何が正しくて、何が間違ってるのか分かんなくなってきてる。このままじゃ、こっちにいても、元の世界に帰ってもおかしくなっちまいそうだ。
 まぁいいや。少し寝よう。きっと疲れてるんだ。



「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)